鯉之助の・・・通になれる?気まぐれ落語講座 
其の八

 
あゝ、襲名。 の巻 



披露目のお手伝い。
奉行所の御先手じゃありません。


去る9月7日、東京は日比谷の東京會舘にて“柏枝改メ八代目春風亭柳橋襲名披露パーティー”が行われました。“春風亭柳橋”といえば春風亭では、いや、春風亭だけではなく“柳”の付く名前(柳家や柳亭)の中で一番の大名跡です。あっしも瀧川を名乗っていますが一門は春風亭、勇んでお手伝いに出かけました。
祭り囃子とともにお客様を迎え入れ、歴代柳橋が使った出囃子「せり」とともに、一門の後見人・春風亭小柳枝と八代目柳橋が登場します。
先代が他界して3年余、出囃子「せり」も生で聞くのは久しぶり。それどころか太鼓係を仰せつかってしまいました。寄席ではお馴染みの顔だった先代の師匠、前座時代には何度となくこの太鼓をたたきました。が、なぜかちゃんと思い出せない。それもそのはず、先代は高座に出るとき間を置かず上がります。そんなに長い曲じゃないのにフルコーラス叩いたことがほとんどなかったんです。それでも何とか思い出して(といっても2分位しかかかりませんでした、そんなもんです)舞台に立ち、無事演奏終了。協会幹部やゲストの祝辞、賑やかな余興でパーティーは盛り上がります。

「襲名」って、今では歌舞伎や落語などの古典芸能の世界でしか聞かれなくなりましたが、昔はよくあることだったんですよ。武家では有名な首切り役人山田朝右衛門。商人の○○屋××兵衛なんてのは必ず襲名していました。ヨハネ・パウロU世、ルパンV世然り。こんな小噺もあります。
 
駕籠屋の符牒(ふちょう・業界用語のこと)で腹が減ったことをキザエモンと言う。客を乗せて駕籠を走らせていると、
「おい相棒、俺はキザエモンになったよ」
「おう、俺もキザエモンだ」
 駕籠の中で商人風の客、
「なんだ、お前さん方もキザエモンか。あたしもキザエモンだよ」
「符牒を知ってるね…。お客さんもキザエモンですか、早く言ってくれればいいのに。いつからです?」
「先祖代々。」

ところで大名跡を継ぐと偉くなるのか、とよく言われますが、落語の世界はそのようなことは一切ありません。芸人の格は芸歴で決まってしまっているのでいくら大きな名前を継いだからといってそれは変わりません。ただしお客様からしてみれば「あんな名前を継ぐことが出来たんだから大したもんだ」ということになります。襲名にあたっては一門の幹部の推薦と名前の権利者(大抵は遺族か弟子)の承認が必要。そしてそれが名跡であればあるほど、先人にかなうはずもありません。「こいつになら任せられる」という先輩方とお客様のバックアップが大切です。当然、莫大な費用と労力もかかります。また襲名披露というのはある程度若いうち(業界年齢でです)にやった方がいいので、真打昇進と同時に襲名ということもよくあります。
ここ10年ほどの襲名披露は…

十一代目金原亭馬生 `99襲名
五代目春風亭柳好 `00襲名真打昇進
六代目柳亭左楽 `01襲名
五代目三遊亭圓馬 `02襲名真打昇進
九代目林家正蔵 `05襲名
四代目三遊亭小圓朝 `05襲名真打昇進
六代目春風亭柳朝 `07襲名真打昇進
二代目林家木久蔵 `07襲名真打昇進
五代目古今亭今輔 `08襲名真打昇進
八代目春風亭柳橋 `08襲名

てな具合。`09にいっ平改メ三平、`10に楽太郎改メ圓楽の襲名披露も控えています。




いぶし銀な高座で知られた七代目柳橋(左)。
大変粋な師匠でした。
若くから大衆的な落語で人気を博した六代目柳橋(右)。
落語芸術協会の創設者。











八代目柳橋とマネキ。
マネキは橘流寄席文字の橘左近師匠から送られます。

襲名披露興行9月21日より
新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、国立演芸場で
各10日間です。

また売れっ子は襲名前の名前で覚えられてるなんてこともしばしば。高座にて、
三遊亭圓歌
「いまだに俺の顔見て『おい歌奴、山のアナアナやれ』てんだ。いつの話してんだ、オレ圓歌になって38年だよ。」
故・桂文治
「道歩いてたら知らないおばさんが『伸治さんだ伸治さんだ』てんだ。『あたしは文治です』ったら『嘘だよ、あたし知ってるもん、あんた伸治さんだ』って、きかないんだよ。人のこと嘘つきてんだからね。」
なんてな話で楽しませてくれます。

華やかな襲名披露ですが、名跡を襲名したからすごい、しないからすごくないというのはまた別の話。中には名前を変えるなんて面倒なことはいやだ、なんてな人もおりますし、またどんなに小さな名前でもその人が有名、名人にさえなれば、それが大名跡になるんですからね。

いい名前でもどうでもいい名前でも、生かす殺すは芸人の腕次第!
(あと、お客様の暖かい声援とご祝儀もっ)
                                                    2008/9/10 メルマガ掲載


どうぞごひいきに

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