オトナの食育 
所感編 第92回(通巻130回)2017/3/10号掲載 千葉悦子(高28)

「鶴は何もしておらぬ」に倣い、分類して考える習慣を
共著の本「アクティブラーニングが育てる これからの家庭科」の紹介


 東京都の豊洲市場をめぐる問題が、今月に入り、特にメディアに取り上げられています。朝日新聞で関澤純氏の「私の視点、築地市場 移転の是非 衛生管理考え 豊洲が適当」を読み、政治や行政の問題と切り離して考え、現時点では早く豊洲移転をすべきと共感しました。築地ではネズミやハトも容易に市場内に出入りできるのに対して、豊洲市場は閉鎖系だそうです。テロ対策の面でも、豊洲の方が安全です。リスクのトレードオフの考え方に基づいて、冷静に考えたいものです。

 小池都知事が「総合的な判断」や「都民ファースト」の旨、お話しなさるのをTVニュースで知り、「食の安全」のために、早く豊洲移転への英断をなさるようにと願います。振り上げたこぶしを、いつ、どのように下すか、賢く行わないと、女性政治家の人気がしぼんでしまいそうで、女性の一人としては心配です。

 素人の私が、政治について書くのはふさわしくないですが、「食の安全」という観点では書かずにはいられません。上記の関澤氏によれば「ベンゼンでは、基準値相当の地下水を毎日2リットル、70年間飲み続けた場合、がんの発生確率が10万分の1だけ高まる可能性を回避するレベルだ。仮に地下水から環境基準の10倍のベンゼンが蒸発し食品に付着しても、水分中の濃度は飲料水の水質基準の1千分の1未満と見積もられ、健康への影響はほとんどないと言える。」ということです。

 また、朝日新聞32日朝刊<「安全」よりも「安心」課題>に、中西準子氏も<豊洲市場の場合、地下水を飲んだり、使ったりすることはないことなどから「安全性に問題はない」との立場だ>とあるので、ますます「科学的判断としては豊洲市場へ移転」と考えます。

 上記の記事に、「豊洲市場の土壌汚染対策を考える都の専門家会議」の平田健正座長が「科学的な安全と、人の心の安心は違う。(現状では)一般の消費者が納得してくれない面はある」と認めているそうです。さらにこの記事に、盛り土や土壌除去など、法令を大きく超えた対策が提言され「安心」のために860億円を費やしたと書かれています。市民も安全と安心との違いをきちんと認識する必要があります。

朝日新聞201733日朝刊の「異論のススメ」で、佐伯啓思氏が<民主政治のよりどころ 「事実」は切り取り方次第>の中で次のことを述べています。

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(前略)東京都の豊洲市場予定地についての確たる「事実」はどこにあるのだろうか。(中略)
 われわれが頼りにすべきものは、「事実」そのものというより、それについて発言する人物(あるいはメディア)をどこまで信用できるか、という「信頼性」だけなのである。その信頼性を判断するのは結局われわれ一人一人なのである。われわれにその判断力や想像力があるかどうかが政治の分かれ目になるのであろう。

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 私の場合、関澤氏と中西氏のご講演を拝聴し、ご著書を拝読して参りましたし、関澤氏とは食のコミュニケーション円卓会議という消費者団体の会員同士なので、直接お話ししたことも何度かあります。そういうわけで、両先生方の科学的判断なら信頼できると思うのです。
 
 日頃から「オトナの食育」を読んでくださる方々は、両氏のことを覚えていらっしゃるかもしれませんし、「千葉が信頼する先生方なら、たぶん信頼できるのだろう」と受け止めてくださるかもしれません。そうであるように祈りながら、今回書きました。

 NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」第2回の、おとわ(直虎)が鶴丸に言う「(鶴丸の父親は、亀乃丞の父たちを陥れたとうわさされても)鶴は何もしておらぬ」というセリフは、大事な考え方と感じ入ります。「分けて考えるべきことは分ける」を実行でき、かつ、科学的な理解があれば、原発問題で避難した子どもたちが無用ないじめに合わずに済んだことでしょうし、今回の豊洲市場の問題も整理して考えられるはずです。

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共著の本「アクティブラーニングが育てる これからの家庭科」の紹介

今月、お茶の水女子大附属学校家庭科研究会著の上記の本を地域教材社から出版し、私は、食の安全関係のこと等を書きました。リスクの大きさの考え方をはじめ、上記の「リスクのトレードオフ」については授業例も挙げ、「安全と安心の違い」や基準値の意味等、説明しました。このような基本を押さえれば、実際に次々起こる食の安全にかかわる問題を、適切に判断して行けることでしょう。

 地域教材社は教材屋さんでISBNを取得しておらず、直接、出版社に頼まないと本を買いにくいことでしょうが、私と面識のある同窓生で、読んでくださる方には、私から差し上げますので、その旨お知らせください。


■引用文献等
関澤純「私の視点」「築地市場 移転の是非 衛生管理考え 豊洲が適当」 朝日新聞2017128日朝刊
朝日新聞201732日朝刊「豊洲移転 問われる根拠」「汚染問題何度も浮上 見直す声出ず」
   <「安全」よりも「安心」課題>
佐伯啓思「異論のススメ」「民主政治のよりどころ」<「事実」は切り取り方次第> 朝日新聞201733日朝刊

■主な参考文献等
牧野カツコ監修、お茶の水女子大附属学校家庭科研究会
  「アクティブラーニングが育てる これからの家庭科」地域教材社 (20173月)
日本経済新聞2017228日夕刊「築地市場 土壌汚染」「都、昨年に報告 移転判断に影響も」
日本経済新聞201734日朝刊「豊洲買収、部下に一任」<石原氏会見 混乱の責任「小池氏に」>
日本経済新聞201734日朝刊「石原・小池氏 批判合戦」「築地の人が生殺しだ 人任せは無責任 」
  「豊洲地下水の再調査 焦点 築地の安全性も論点」
日本経済新聞201734日朝刊「石原元都知事 豊洲問題巡り 会見」「逐一報告受けていない 」
  「速やかに移転すべきだ」
朝日新聞201734日朝刊「時時刻刻」「なぜ豊洲 解明進まず」<「専門家が決めた」「(側近に)一任」>

「オトナの食育 所感編87回(通巻121回) 201610月号」
  中高年の同期会、料理の量を減らしては?
  (関澤氏を「食の安全ナビ検定クイズ」の開発責任者として紹介)
http://www.nirako-dosokai.org/melmaga/shokuiku/shokan87.html

「オトナの食育 所感編63回(通巻97回) 20145月号」
  中西準子氏 公開講座のお知らせ≪リスクという観点で見てますか≫環境・食・放射線
http://www.nirako-dosokai.org/melmaga/shokuiku/s63/shokan63.html

「オトナの食育 所感編60回(通巻94回) 20142月号」
  リスクのトレードオフを考えて判断を~最近の農薬混入事件やノロウイルスの問題から~
http://www.nirako-dosokai.org/melmaga/shokuiku/shokan60.html


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