オトナの食育 
所感編 第116回(通巻158回)2019/10/10号掲載 千葉悦子(高28)

ゲノム編集(技術応用)食品、心配し過ぎは問題

   今月から、日本でゲノム編集技術を使った食品が流通する可能性があるとのことで、先月来メディアで話題になりました。意図せずにどこかの遺伝子が壊れることは、自然にもよくあることです。ゲノム編集の中でも特定の遺伝子を壊して外来遺伝子を含まないタイプは、結果としてゲノム編集か自然突然変異か区別がつかないことから、編集した旨の表示を義務づけないことになりました。しかし、ゲノム編集技術を使った食品を選びたくない人は表示義務がないと選べないので、表示を求める意見もあり、結局、義務ではないけれど、実用化をするために厚労省に届出をした事業者に対して、消費者への情報提供を呼び掛けることになりました。

 この複雑な問題を考えるには、品種改良を知ることが第一です。何千年もかけ、人類は選抜と交配等を重ねて作物を作ってきました。植物は毒をもつことがよくあり、毒が少なくておいしくて栽培しやすい(実が落ちにくい・背丈が低く倒れにくい・収量が多い等)品種を作物としてきました。このような従来の作物の変化は、どれも遺伝子の変化によるのです。

 9月のNHKクローズアップ現代+「解禁!“ゲノム編集食品”~食卓への影響は?~」で、「食経験がない」と心配する意見がありましたが、従来の品種改良であっても食経験がない場合が多々あります。たとえば、私が子どもの頃(50年以上前!)の人参は風味というか「クセ」の強い品種で、当時、子どもの嫌いな野菜の代表でした。しかし、私が子育てを始めた35年程度前からは「人参臭い」クセのある人参は、ほとんど見かけなくなりました。ほんのり甘くて臭みがなく、食べやすい品種が主流で、人参入りケーキもおいしいほどです。思い返すと、初めて現在主流の人参を食べ始めた頃は、食経験がなかったはずです。同様のことは他の野菜でも経験します。

西洋系人参か東洋系人参か?、長根種か短根種か?、長崎5寸か黒田5寸か?などと、細かな品種を確認しながら買うことは非常に少ないでしょう。つまり「人参か、ほうれん草か?」は選んでも、細かな品種など気にしない人が大半でしょう。それなのに、人の手によるか否か区別がつかない程度の変化に対して、過敏になるのは矛盾していると考えます。

 「予防原則」という言葉で思考停止しないことも大事と改めて思います。

新しい技術が必要と思うからです。たとえば、先月の台風で千葉県をはじめ甚大な被害があり、私は「関東圏ニュース」を見る機会が多いせいもありますが、温暖化による災害の甚大化や多発化を憂います。温暖化自体を抑える事が重要であるとともに、温暖化でも作物がとれるような新技術も大事です。その技術の一つとして、ゲノム編集や遺伝子組換えも開発して行く必要があるでしょう。

 以前の「オトナの食育」で書きましたように、知的財産権は1番でないと取れないので、日本の技術が遅れてばかりいないよう、新技術を消費者が温かく見守る必要があります。また、参考文献の中によくあるように、日本で最初に販売されるゲノム編集技術応用食品が人々に受け入れられるようなものであるようにと願います。




■参考文献等
大島正弘「ゲノム編集―新しい育種の技術」日本調理科学会誌vol.52 No.5  201910
農研機構 生物機能利用研究部門企画管理部 遺伝子組換え研究推進室「ゲノム編集~新しい育種技術~」2018
農文協編「地域食材大百科 第2巻 野菜」2010
消費者庁H.P. ゲノム編集技術応用食品に関する情報
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/genome/

バイオステーション ゲノム編集技術の情報と取りまとめたウェッブサイト  https://bio-sta.jp/
NHK924日クローズアップ現代+「解禁!“ゲノム編集食品”~食卓への影響は?~」
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4331/index.html
白井洋一「ゲノム編集応用食品の運用ルール確定 パブコメ314件への厚労省の対応を読む」FOOCOM.NET 2019917
http://www.foocom.net/column/shirai/18135/
朝日新聞2019920日朝刊「ゲノム編集食品 表示義務化せず」「外部遺伝子 入れぬ場合」
日本経済新聞2019920日朝刊<「ゲノム食品」表示義務なし><消費者庁「リスク、品種改良と同等」>
朝日新聞2019920日朝刊「オピニオン&フォーラム」「ゲノム食品 不安ですか」<「人工=悪」とは限らない>
                         <「悪影響ない」言い切れず><「想定外」のリスク考慮を>

朝日新聞2019924日夕刊「ゲノム編集って何?トマトの遺伝子 チューニング」
朝日新聞2019925日夕刊「ゲノム編集って何?雰囲気じゃなく科学的議論を」
朝日新聞2019926日夕刊<ゲノム編集って何?技術進化「すごいけど怖さも」>
朝日新聞2019925日朝刊 社説「ゲノム食品表示 これで理解得られるか」
日本経済新聞2019927日朝刊「ニュースな科学」「ゲノム編集食品 表示なし?」「来月から届け出制 義務化はせず」
                       「品種改良と区別難しく」

朝日新聞2019917日朝刊「気候危機」「暑さに強いコメ・果物 探る」「温暖化適応 迫られる企業」<17年「ポテチショック」産地分散図る>
朝日新聞2019918日朝刊「気候危機」「スペイン 地下水枯渇の懸念」<豪州 リンゴの収穫量「平年の2割かも」>
朝日新聞2019925日朝刊「時時刻刻」「食品ロス 大幅減に挑む」「削減推進法 10月施行」「期限切れ格安販売
              ■食べ残し持ち帰り」「客の否定的反応 店は不安も」世界で進む法整備 仏スーパー売れ残り廃棄禁止」
朝日新聞2019925日朝刊「いちから分かる!」<「食品ロス」が問題になっているね>
                    「国内では年643万トンと推計。45%が家庭から出ている」

千葉悦子「食品表示の法律改正の前に その1 iPS細胞は、遺伝子組換えの一種」
   オトナの食育 所感編第47回(通巻79回)201211月号
   http://www.nirako-dosokai.org/melmaga/shokuiku/shokan47.html
千葉悦子「第3回 食と科学―サスティナビリティに向けて―を拝聴し、TPPも視野に入れて大事なこと」
   オトナの食育 所感編第51回(通巻84回)20134月号http://www.nirako-dosokai.org/melmaga/shokuiku/shokan51.html

千葉悦子「農業生物資源研究所 田部井豊氏による<常識が覆る??
          『遺伝子組換え技術を使っているのに組み換え生物ではない!』 新しい育種技術を紹介します>」
   オトナの食育 所感編第57回(通巻91回)201311月号http://www.nirako-dosokai.org/melmaga/shokuiku/shokan57.html




 

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