オトナの食育 
所感編 第57回(通巻91回)2013/11/10号掲載 千葉悦子(高28)

農業生物資源研究所 田部井豊 氏による
<常識が覆る??
「遺伝子組換え技術を使っているのに組換え生物ではない!」
新しい育種技術を紹介します
>のお知らせ


 

普通の消費者が、遺伝子組換え(以下GMと略)を含む新しい技術について理解していく必要がある理由

 今年217日、「新しい遺伝子組換え技術をめぐるリスクコミュニケーション研修会」に参加して、筑波大鎌田博教授のNBTNew Plant Breeding Techniques=新しい育種技術)のお話を伺い、「一般の人のGM作物についての理解が進まないと、大混乱が予想される」と強く思いました。

 たとえば、リンゴの最大の被害は土壌病害によるものなので、土壌病害に強くしたGMリンゴをつくり、そこにおいしい非組換えリンゴを接ぎ木するという例があるそうです。そうやって実ったリンゴを、あなたはGM果実と考えますか?それとも非組み換えと考えますか?

 私自身は「なんて賢い使い方!」と感動するとともに、「リンゴなどの果実に組換えしたことが分かる跡が残らないとしたら、たとえ表示義務のルールを決めたとしても、うそのつき放題。また、NBTを使った果物の種子から成長した新たな植物は、GM果樹と考えたものか、非組換えと考えたものか、難しい。『GM作物は安全性が確かめられてから作物として商業栽培され流通するものなので、心配無用』と思えない人にとっては、脅威では?」と心配になりました。

 接ぎ木自体は古くからあって、特別な実験施設や技術などなくても、普通の人にも出来るのだろうと思います。というのは、私の父が、庭の渋柿の木に甘柿の接ぎ木をして、毎秋、次郎柿が食べられたからです。庭を手放す最後の秋には、その木の下の方から細い枝が出ていて、なんと、渋柿の形をした柿が成っていました。接ぎ木をしたことが、はっきり分かりました。

 鎌田先生のお話によると、次のようです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 NBTにはいくつもの技術があり、そのうちの一部を規制の対象外とした国もあるが、国際的ハーモナイゼーションが必要だというのが共通の考え方だと思う。アジアで最も遺伝子組換え作物開発が進んでいるのは中国で、その状況は分からない。中国はNBTの話し合いに参加していない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 日本への輸入食料の品目が圧倒的に一番多いのは、中国と聞きます。その国がそういう状況ということは、近い将来、上記のような作り方をした果物が輸入されそうな気がします。それをどう感じ、どう考えるのでしょう?

 また、「日本の消費者の理解が進まない」という理由で、予算がつかず、なかなかGMNBTの研究が進まないうちに、中国をはじめ諸外国の研究が進むとしたら、将来、知的財産権を支払ってばかりの貧乏国になってしまいそうで心配です。

 世界の品種改良に関する技術は、GM技術を使った痕跡が残らない様々な技術も含めて、どんどん進んでいて、しかも、穀物をはじめGM農作物の生産の割合が非常に増えています。そういう状況の中で、いつまでも直観的・感情的に、あるいは古い偏った言説を信じたまま「遺伝子組換えなんて、悪いに決まっている。」と決めつけ、新技術やその安全性について知ろうとしないなら、適切な判断をすることが出来ず、日本の将来に対して無責任と考えます。

 研究者であっても「NBTは難しい」ということで、私には詳しく説明するのは困難です。ぜひ、GMNBTの専門家から直接お話を聞いてください。

 そこで、そういう機会のお知らせです。今月21日に、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」の定例会として、<常識が覆る??「遺伝子組換え技術を使っているのに組換え生物ではない!」新しい育種技術を紹介します>のお話があります。会員以外でも、事前にご連絡を入れて頂ければ、資料代1000円はかかりますが参加できます。専門家から直接お話を伺い、疑問をその場で質問したりご意見を述べたりすることをお勧めします。「食のコミュニケーション円卓会議」の定例会や公開講座等の良さは、質疑応答や意見交換を比較的十分時間をかけて行い、毎回、鋭い質問が出て、聞いている人にとってもよく学べることと思います。

 「平日の東京でのイベントなど、参加するのは無理」という方は、田部井氏の著書や、「くらしとバイオプラザ21」や「食のコミュニケーション円卓会議」のホームページの遺伝子組み換えの部分などをご覧ください。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

☆おまけの話

 毎回、食に関する理屈っぽい話を書いていますが、私も直観的・感情的な気持ちが多々あります。たとえば、先月、地下鉄駅にあるポスターで、韮高同期の女優である大塚良重さんを見ては励まされました。歌舞伎座で鑑賞している堀北真希さんの、黄色地に赤いもみじ・銀杏・笹の葉が華やかに散りばめられた着物姿がフォーカスされ、その隣に、母親役と思われる大塚さんが座っていました。サーモンピンクとベージュの中間色のような地に、鼓の柄が胸に一つ品良く、かつ、ひもの部分が余韻を残すような感じで描かれている訪問着かと思われる着物を着て、歌舞伎を見入っている様子でした。

 実物大よりずっと大きなポスターなので迫力があり、まるで偶然、友人に会えたような気分になれて、しかも同期が若々しく美しく仕事をなさっていると思うと、うれしくて元気が出ました。私がそのポスターに気付いた駅は、表参道や東西線九段下駅ホーム、茗荷谷等です。今月に入ってからは、堀北真希さんが図書館の子どもコーナーで絵本を見入っている様子に変わりましたが・・・

 人間誰しも直観や感情を持っているし、それが大事な時もありますが、それだけでは済まない場合もあると存じます。場合によって使い分ける習慣を持ちたいものです。

 

主な参考文献等

田部井豊「第4章 遺伝子組換え食品の安全性」北野大ら「安全学入門Part3 
      日本の安全文化―安心できる安全を目指して―」研成社(20139月)
田部井豊「第5章 遺伝子組換え生物などの安全性評価システムと安全性確保のための技術開発
      ~遺伝子組換え生物などの安全性はどう確保されるのか?~」
   独立行政法人 農業生物資源研究所「分子生物学に支えられた農業生物資源の利用と将来」丸善プラネット(2011
くらしとバイオプラザ21 くらしとバイオプラザニュース
   「新しい遺伝子組換え技術をめぐるリスクコミュニケーション」開かれる
      http://www.life-bio.or.jp/topics/topics537.html
    鎌田博氏のNBTのご説明 4.コラム1「痕跡を残さぬ技術~New Plant Breeding Techniques
                        「知っておきたいこと(遺伝子組換え作物・食品)」
        http://www.life-bio.or.jp/topics/topics461.html からダウンロード可

食のコミュニケーション円卓会議1121日(木)定例会について
 中央区久松町区民館1号洋室で夕方18時半頃から
 詳細は、「食のコミュニケーション円卓会議」ホームページの定例会の部分でお確かめください
       http://food-entaku.org/katsudou.htm#teireikai