■2013年3月までに新食品表示法(仮称)の法案提出予定■
消費者庁は、来年3月までに新食品表示法(仮称)の法案を提出予定ということです。今は、その準備として、広く国民の意見を聞くため新食品表示制度についての意見交換会(11月22日)と意見募集(11月1日~30日)を実施しています。
意見交換会
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/121101_kaisai.pdf
意見募集
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=235080020&Mode=0
ここまで来る前に、昨年9月から今年8月、食品表示一元化検討会を12回行いましたが、意見が一致せず、今年8月9日の「食品表示一元化検討会報告書」に対しては、具体性に欠けるといった不満も残りました。
たとえば、「遺伝子組換え」に危険であるというイメージを強く持っている人たちにしてみれば、加工食品の原料が「遺伝子組換え」か否か、ネットでなく、食品の包装に直接表示してほしいと願いますが、商品化された遺伝子組換え作物は十分安全であると理解している人にしてみると、表示についての優先順位が下がります。
仮に、何でもかんでも表示する義務が法律で決まると、容器包装の面積が限られますから、アンケート調査で明らかになっている「字が小さくて読みにくい」という問題が解決されません。また、間違えなく表示するためには、コストもかかり、商品の価格が上がります。
そこで、食品表示の議論の前に、私なりに、考え方のヒントを書いてみたいと思います。なお、遺伝子組換えについて書いた「オトナの食育」のバックナンバー等もご覧ください。
■iPS細胞は歓迎しながら、遺伝子組換えは嫌うのは、矛盾■
「食と農の未来を提案するバイオテクノロジー」p.1に<遺伝子組換え技術は、ある生物の有用な遺伝子を別の生物に導入することにより、新しい性質を生物に付与する技術です。>とあり、朝日新聞2012年10月9日朝刊 「ニュースが分からん!ワイド」「iPS細胞って何?」では<皮膚の細胞に、いくつかの遺伝子を放り込んだら、まるで受精卵の中にある細胞とうり二つの細胞ができた。>とiPS細胞の説明をしています。iPS細胞は、遺伝子組換え技術を利用した大きな成果の一種と言えます。
なお、「遺伝子組換え作物」は英語では“Genetically modified
organism”で、“modify”の意味は英和辞書を見ると「加減する」「少し変える」「変更する」「修正する」等です。「AとBを入れ換える」というイメージは捨てないといけませんね。
しかし、山中教授のノーベル賞受賞関連の、朝日新聞や日本経済新聞の記事を私が見る限り、この2つの関係はほとんど見当たりません。山中教授をはじめ、iPS細胞関連の研究者にしてみれば、研究費の獲得のために、「遺伝子組換え」という悪いイメージと結びつけたくないから、と推測します。
つまらないことで、iPS細胞関連の研究に支障が出てはいけないと思いますが、残念でもあります。iPS細胞でノーベル賞を日本人が受賞したことを契機に、日本人の遺伝子組み換えに対するイメージを一新して、負ではなく、正のイメージに変えていけると理想と思います。
■ことばのイメージにとらわれず、冷静に考えましょう■
「医療は病気の人・けがをした人だけが受けるものだが、食品は全員が必ず食べるものだから、より慎重に」という反論が聞こえて来そうです。それはそうですが、この論だけを強調し過ぎて、日本の科学技術の研究が遅れると、国民全体にとってもマイナスになる場合があります。また、「慎重」という言葉の圧力で思考停止状態になり、「十分安全」なのに必要以上のコストを掛けることが正義か、考えましょう。行き過ぎた慎重論で、もうける人や団体もあることを忘れずにいたいものです。
ところで、11月5日のNHKテレビニュースを見ていたら、カラオケのナンバーワンがSMAPの「世界に一つだけの花」だそうです。「No.1にならなくても良い、もともと特別なonly one」という歌詞で終わります。
たしかに、親や教員の立場ですと、出来の悪い子を受け入れる度量が必要で、全ての人に対して「人権」が大事ですが、科学技術は「ナンバーワン」でないとダメですよね。
さらに、民主主義の社会では、税金の使い方を含めて政策について市民が判断するので、科学技術について理解する努力が市民にも必要です。
■分かりやすい本の紹介■
遺伝子組換えを含め、バイオテクノロジーについて、分かりやすくカラーイラスト豊富な本が最近出版されましたので紹介します。
日本生物工学会編 <ひらく、ひらく「バイオの世界」―14才からの生物工学入門―>
バイオに関する疑問に答える形になっています。以下のサイトに紹介があり、内容も一部読めます。
http://www.kagakudojin.co.jp/book/b104141.html
■引用文献等
独立行政法人 農業生物資源研究所「食と農の未来を提案するバイオテクノロジー」
―農業生物資源研究所の研究活動―平成24年度版
http://www.nias.affrc.go.jp/gmo/biotech/agribio.pdf
■参考文献等
武田穣編著「新訂 バイオテクノロジ―と社会」放送大学教育振興会(2009)
消費者庁 平成24年11月1日「新食品表示制度のポイント(イメージ)」
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/121101_img.pdf
消費者庁 平成24年10月24日「新食品表示法(仮称)に関する消費者団体とのワークショップ議事次第」
消費者庁 平成24年8月9日「食品表示一元化検討会報告書」
天明英之 2012年9月25日開催、食のコミュニケーション円卓会議例会「食品表示一元化の課題」資料
朝日新聞2012年10月5日朝刊 社説「食品表示」「あくまで消費者本位で」
朝日新聞2012年10月9日朝刊 「山中教授ノーベル賞」「iPS細胞を作成
再生医療実現に道」「医学生理学賞 英教授と共同受賞」
朝日新聞2012年10月9日朝刊 「大胆着想、扉開く」「受精卵使わず作ろう」
<「山中因子」4遺伝子特定> 「生物学への衝撃 評価」「応用、世界が競う」
朝日新聞2012年10月9日朝刊 「ニュースが分からん!ワイド」「iPS細胞って何?」
「色々な組織になれる力を持つ、人工細胞だよ」
朝日新聞2012年10月9日朝刊 「製薬業界も活況」「特許の利用企業2年で倍」
日本経済新聞2012年10月9日「山中氏にノーベル賞」「生理学・医学賞、日本人25年ぶり」
「iPS細胞を作成」「再生医療に道」「成果からわずか6年」
朝日新聞2012年10月10日朝刊 「山中教授にノーベル賞 支えた研究者と語る」
「iPS、いい顔つきになって来た」「細胞をカスタマイズ」「変わっていく倫理観」「日本から国際基準を」
日本経済新聞2012年10月10日朝刊「ノーベル生理学・医学賞座談会」「iPS細胞 新時代導く」
「教科書 書き換える」「新約開発の短縮 期待」「人材の裾野 広げる工夫を」
日本経済新聞2012年10月12日夕刊「山中教授、主相と面会」
小比良和威
10月24日消費者庁ワークショップリポート
消費者団体とは多様であることを認めては FOOCOM.NET
http://www.foocom.net/secretariat/foodlabeling/8137/
|