Machi Fes' (高53回生のイベント)


                   草茅真理子(高53)さん

  2008年12月28日 横浜大桟橋ホールで行われたイベント
 
 50名の韮高関係者が来てくれました と Machi Fes
  報告メールが届きました。



イベント当日まで ~コンセプトと会場設計~

2006年、2007年と、音楽やアートなどを発表する場としてのイベントを経て、2008年、横浜大さん橋ホールというこれまでにない大きな会場で、より規模を拡大してイベントを開催することとなった。

今回のイベントを作っていくにあたって、当日までに何度もスタッフが集まり打ち合わせを重ねてきた。その過程で固まっていったコンセプトとして、「創る側と観る側の垣根を越えてコミュニケーションできるイベント」「フェス的、公園的なイベント」というのがあった。前者は、一昨年と去年のイベントで、「スタッフでも出展者でもない当日初めて来た方にとっては、やはり関係者との気持ちの隔たりが大きく、当事者としての楽しみ方ができなかったのではないか」という反省があったからだ。今年は、初めて来た方も、作品を通して、出展者や他の来場者とコミュニケーションでき、イベントを自分のものとして楽しんでもらえるようなものにしたかった。後者の「フェス的、公園的」というのは、音楽の野外フェスや休日の公園のように、弾き語りをしている人もいれば、それをのんびり聴いている人もいれば、パフォーマンスをしている人もいれば、芝生の上で昼寝している人もいれば、サッカーをしている人もいる…という、あの雑多で自由で勝手気ままで、だがどこかでつながっているようなほのぼのとした空間をイメージしている。こうした主に2つのイメージをもとに今回のイベントは作られていった。

会場設計も、このイメージの下に進められた。もともとこのイベントは、韮山高校出身の宗田君と大学の建築学科の友人たちの4名が起点となって始まったものなので、コンセプトに沿った会場設計は彼らが最も得意とし、かつ力を入れている部分なのだ。今回、より「公園的」な空間を作るため、会場設計には様々な工夫が施されていた。

そのひとつとして、「ステージをなくす「テーブルを低くする」という試みがあった。

会場内には2箇所の演奏スペースが設けられたが、いわゆる「ステージ」としての段差は作らなかった。段差によって、演者と観客という線引きがはっきりしてしまうことを避け、よりストリートライブの感覚に近づけるためだ。

また、作品展示や来場者の食事などに使われる直径2mの丸テーブルは、足を折った状態で置くことにした。床から10cm弱の高さ。高さのない平面作品などは、上から見下ろす、またはしゃがんで見るような形になる。椅子は置かず、代わりにラグを数枚敷き、食事をするにもちょっと腰を落ち着かせるにも床に座るようになっている。芝生のある公園感覚でくつろいでもらうことをねらった試みだったが、これについては、私は当日まで、「こういった土足の会場で、ラグがあるとはいえお客さんが地べたに座ったりするのか」「低い位置に置いてあるのでは、作品も見にくいのではないか」という懸念を抱いていた。

また、集客は最も重要な課題だった。面積約2,000の会場を人でいっぱいにしなければ成功とはいえない。フライヤーや、各々の人脈を駆使して告知をしていった。

しかし果たして、どれだけ人数が集まるのか、当日広い会場が閑散とするぐらいにしかお客さんが入らなかったどうしよう、来たもののつまらないと早々に帰る人ばかりだったら…。全てのスタッフが、いろいろな不安を抱きながら、準備を進めていったに違いない。誰もが、こうした大きなイベントを手作りで進めることは初体験なのだ。蓋を開けてみるまで、わからない。全てが未知数だった。


イベント当日  

そしていよいよイベント当日。オープンと同時に入場される方も多く、なかなか上々の滑り出しだ。

来場者は、大さん橋ホールのガラスのドアを入り、天井から吊り下げられた締め切られたカーテンの前で受付を済ます。そして、一箇所だけあるカーテンの隙間から中へ入ると…まず大きな「MachiFesBase nation」の文字が目に飛び込む。このパネルを回って会場内へ入ると、そこに、音楽、アート、パフォーマンス、なんでも有りの空間が…という仕組る。

会場には、絵画、写真、服飾作品、アクセサリーの展示販売、立体作品などの展示物から、POPS、ロック、子供たちのバックダンサーとのコラボライブなどタイムテーブルに沿って行われるライブ、ショートムービー、アニメーションなど映像作品の上映まで、様々なジャンルの作品が集まっている。

作品の展示スペース、演奏スペース以外にも、フード&ドリンクブース、DJブースなどがある。また、プロの美容師、カメラマンによるヘアメイク&撮影ブースやプロがポイントメイクをしてくれるメイクブースもあり、観る聴くだけでない、いろいろな楽しみ方ができるようになっていたのではないかと思う。

時間が経つにつれて、私が抱いていた「お客さんが床に座るのか」という懸念は、杞憂だったことがわかった。皆、ごく自然に、ラグに座ったり、なだらかな壁面に寄りかかって座ったりしてくつろいでいた。寝転がったり、足を伸ばして座って作品を鑑賞したり、会場の外の広場で鬼ごっこをしたりしている人達もいた。低いテーブル、ラグなどの会場設計と、個々の作品、音楽の発するパワーが、うまく融合して、訪れた人に自然とそういった気持ちを持たせられる雰囲気を作り出すことができたのだろう。

展示物の中でも、「完成品対鑑賞者」という図式を壊したものがいくつもあったのは、今回のイベントにおいて特筆すべきことであろう。閉場まで作者の方が絵の具を塗りつづけていた「作品を今まさに作っている」作品、来場者が言葉や絵を書き添えて作り上げていく作品、その場で墨で巨大な書を書き展示した作品、展示作品から想起するものを描いてもらうセットを用意したものなど、来場者も製作段階から見たり参加したりできる展示が印象的であった。

運営サイドが、出展者に作品内容についてテーマや方向性を示唆することは一切なかった。にも関わらず、「創る側と観る側の垣根を越えてコミュニケーションできるイベント」というコンセプトに合致した作品が集まった。これは、このコンセプトが、運営側の独りよがりなものでなく、多くの創る人が常日頃感じていることに沿ったものだったからと言えるのではないか。表現する形、方法は、皆まちまちだが、根底にある思いは案外いっしょだったりするのかもしれない。


イベントを終えて

最終的に、スタッフを含む来場者は約750名。まずまず成功と言ってよい数字だろう。企業でも何でもない個人の集まりが始めたイベントが、それだけの人数を動員するに至った。一昨年のカフェでのイベントから見ている私としては、感慨一入だ。

雑多で自由で勝手気ままで、だがどこかでつながっているようなほのぼのとした空間」、イメージしたものが形になる。しかもこんな大きな規模で。こんな面白いことに携われた巡り会わせに本当に感謝している。

それともう一つ。私は今回、スタッフをすると同時に、イラストも出展していた。昨年もフライヤーやイベントの看板などのイラストを描かせてもらい、自分の好きなことを生かせる機会を与えられ、とてもやりがいを感じていたが、それでも、これまではこのイベント関連での出展で十分楽しいと考えていた。しかし、今回、さらにたくさんの人に見てもらい、うれしいコメントをいただいたり、多くの人の作品やバイタリティ溢れる活動を目の当たりにしたりする中で、2009年は与えられた機会だけでなく、自らもう少し活動の場を広げてみたいという思いが生まれた。これは私にとっては驚きの進歩だ。このイベントを通して、他の多くの人にも、こんなふうに一歩踏み出すような影響を与えられていたとしたら、それこそ、数字でなく、大成功だったと言えるのではないか。


                      Machi Fes            龍城のWA!