オトナの食育 
所感編 第98回(通巻138回)2017/11/10号掲載 千葉悦子(高28)

「ゲノム編集イネ収穫」の記事に思う
花粉米についての公開セミナーのお知らせ


 新米の季節で、ご飯が一段とおいしいですね!冷蔵保存の技術が発達した現在でも、十分良い品種でよく栽培された新米は、格段のおいしさが楽しめ、幸せを感じます。
 今月初め、<「ゲノム編集」イネ収穫>といった記事があちこちに出ました。記事はネット等でお読み頂くとして、ここ数年「ゲノム編集」という言葉を目にするようになり、従来の「遺伝子組換え」とどう違うのか気になります。
 そこで、この違いについて、この方面に疎い人にも分かりやすく、短めの説明をしてくださるよう、農研機構・遺伝子利用基盤研究領域の田部井豊領域長にお願いし、次のご回答を頂きました。太字にしたのは私です。

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遺伝子組換えとは新しい遺伝子を外部から導入して、その導入された遺伝子が保持され続けているものです。例えば害虫抵抗性トウモロコシにはBtタンパク質(殺虫性タンパク質)を作る遺伝子が導入されていて、それが保持されて必要に応じてBtタンパク質を作り続けることで害虫抵抗性が発揮されます。

ゲノム編集技術は3種類に分類されていて、SDN-1SDN-2SDN-3と呼ばれています。全て説明すると複雑になるので、このゲノム編集技術のうち、今回のゲノム編集イネに用いられているSDN-1のみを説明します。

SDN-1と呼ばれるゲノム編集技術は、目的とする遺伝子を切断することで、その修復過程で変異を起こすことを期待して、それにより特定の遺伝子の働きを止めるものです。すなわち、元々持っている遺伝子や染色体に変異を入れる技術であって、放射線などを用いた人為的な突然変異や自然突然変異でも生じる可能性のあるものです。このゲノム編集では狙ったところをピンポイントで切断し変異を導入できるところが凄いところです。

ただ、植物のゲノム編集では最初に目的のゲノムを切る遺伝子を導入しますが、遺伝子組換えと異なり、ゲノム編集が出来れば外から導入した遺伝子を保持している必要ありませんので、ゲノムを切る遺伝子は除かれます。
ここが遺伝子組換えとの大きな違いです。

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 上手に利用すれば、突然変異を待たず長い年月をかけずに、地球の温暖化や世界の人口増に対処でき、かつ、おいしいお米といったメリットのあるお米が出来そうです。新しい食品に関する技術は、何となく心配な感じがするかもしれませんが、「持続可能な社会」を創るためには必要な技術と思います。もちろん、安全性が十分高いことも確かめながら。

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次のお知らせは「ゲノム編集」ではなく、「遺伝子組換え」の技術を使う花粉米(花粉症の症状を緩和する米)についての公開セミナーのお知らせですが、ご興味のある方はいらしてください。

   124日(月)開催、花粉米についての公開セミナーのお知らせ

   日時:2017124日 18時半から

   場所:主婦会館プラザエフ 7階カトレア

   基調講演:橋本 章司氏
      (大阪府立病院機構大阪はびきの医療センター 臨床
研究センター センター長)、他

   パネルディスカッション

   参加費:無料

 なお、この公開セミナーは、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」が行うもので、この文章を書く段階ではまだHPに公開セミナーについてアップされていません。近い内に「食のコミュニケーション円卓会議」のHPに詳細が載ることでしょう。どうぞよろしくお願い申し上げます。


■主な参考文献等
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
 「遺伝子組換え農作物・食品ハンドブック」(2016
 http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/gmogmo/FAQ/index.html

日本経済新聞2017111日朝刊<「ゲノム編集」イネ収穫>「農研機構増量狙い初の屋外栽培」
朝日新聞2017111日朝刊「ゲノム編集 遺伝子改変イネ収穫」「農研機構 流通はさせず」
日本経済新聞20171031「ゲノム編集」のイネ 農研機構、初の屋外栽培で収穫
 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22943290R31C17A0000000/

毎日新聞2017111日「遺伝子 ゲノム編集で改良のイネ収穫」
 https://mainichi.jp/articles/20171101/k00/00e/040/206000c

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