オトナの食育 所感編 第82回(通巻120回)2016/4/10号掲載 千葉悦子(高28)

健康食品の宣伝は、毎日がエイプリルフール? その2

 


 今月も、先月に引き続き「健康食品」の注意点についてです。3月中旬に「サプリメントを飲むだけで痩せられるとの広告には根拠がなく、景品表示法違反に当たるとして、消費者庁が措置命令を出した」という新聞記事が載りました。さらに、先月号の最後の結論「バランスの良い食事が基本」を裏付ける、国立がん研究センターなどの研究チームの発表がありました。また、318日に食品安全委員会が開催した「食品安全の明日を共に考える国際シンポジウム」に出掛け、先月号でお勧めした本の著者である畝山智香子氏やFOOCOM.NET松永和紀氏を含めて、識者のお話を拝聴する機会を得、もう少し説明を加えたいと思いました。

1例として・・・「えんきん」の宣伝は、うま過ぎる!

 3月下旬の新聞で、見開き2ページを使ってインパクトのある機能性表示食品の広告 <このしぐさにピントきたら「えんきん」です>が目につきました。老眼が進みつつある私に、ピッタリの宣伝です。

 仮に、私が食について教える仕事でなくて、食品安全委員会をはじめ、科学に基づく最近の食情報に注意を払っていなかったとしたら、深く考えずに引き込まれて購入しそうな、宣伝としては非常にうまい表現です。

 しかし、頼りにしているFOOCOM.NET松永和紀氏による <機能性表示食品「えんきん」の根拠、お粗末すぎる>等を読んでいたので、冷静になれました。この解説で機能性表示食品の限界や問題点がある程度分かりますので、お勧めします。これを再読して上記の宣伝を検討すると「言わないウソ」と思われる手法を使いつつ、行間を読ませるようにしてはいますが、書いてあること自体は法律違反ではなく、消費者庁の指導等はなくて済むと判断しました。この宣伝を考えた人は、仕事なので仕方ないのでしょうが、法律の網をかわし頭が良いと感心してしまいます。それだけに、私の正義感に火が付いてしまい、前号と異なり、商品名を挙げて説明する気持ちになりました。この商品の広告だけに問題があるのではないですが、最近見た大々的な広告の例として取り上げます。

  「オトナの食育20153月号」で説明しましたように、特定保健用食品(トクホ)とは異なり、機能性表示食品は健康への効果を消費者庁に届ければ事業者の責任で表示できるので、消費者がより知識を持って適切に選ぶ必要があります。そこで機能性表示食品をお使いになるなら、消費者庁ホームページ「機能性表示食品に関する情報」をご覧になってからにしましょう。一般的な説明に加えて、個々の商品の説明もあるので、自分が使おうかな?と思うものについて、しっかり読みましょう。しかし、素人には読み解くのが難しいです。だからこそ専門家に相談するとか、良質な本などの情報をお勧めします。先月号の<「健康食品」のことがよく分かる本>や20155月号の「佐々木 敏の 栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方」を読まれると、宣伝を冷静で批判的に受け取れることでしょう。後者の本の「栄養健康情報はここでゆがむ 情報バイアスという落とし穴」にブルーベリーと目の健康を例に挙げ、次の説明があります。

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「ブルーベリーは目の健康によいの?」と尋ねられたら、あなたはどのように答えますか?
 (中略)ぼくなら、「まだよくわからない」と答えるでしょう。

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果物の1種としてブルーベリーを食べるのは問題ないですが、目の健康のために食べるとしたら、エビデンスが不明確なので、意味を取り違えていると言えましょう。また、たとえば「えんきん」を食べて目の調子が少し良くなる人がいるかもしれませんが、今ある情報の範囲ではエビデンスが弱いと受け取れ、私自身は試そうとは思いません。たとえば、<「健康食品」のことがよくわかる本>p.169に「科学者は一つの論文だけで判断したりはしないのです。」とあります。私の場合、パソコンを長時間見続けないように、時々休んで遠くを見るとか、首や肩を回す運動をするとか、近くがより見にくくなったら眼科に行くとか、眼鏡を新調すること、もちろんバランスの良い食事を続けることが大事と思います。

 今回取り上げた宣伝は新聞見開き2ページもあるのに対して、<サプリ広告「根拠なし」>は1/16ページ未満、バランス良い食事についての記事は1/8ページ未満で目立ちません。地味あるいは新鮮味に欠ける内容ですと、根拠のしっかりした大事な情報であっても、必ずしも大きく扱われるわけでない例です。このような報道のクセを十分わきまえたいものです。

 人の心をとらえる目新しい情報によって、上記の本で佐々木氏が述べられているように、はるかにしっかりとしたエビデンスのある栄養素や食べ物が世間から忘れられたり、軽んじられたりしないようにと願います。そして、先月書きましたように、医療を受けるべき人が、そのタイミングを逃すことがないようにしたいものです。


グレーなものと付き合うしかない

 ここまでお読みになると「機能性表示食品など、無くせばよい」と思われるかもしれません。しかし、より良い制度作りが望まれるものの、消費者庁に届けない健康食品よりはマシという面もあります。また、どのような制度にしても必ずグレーな部分が出て来ますので、国が消費者を完全に守るのは不可能と思います。黒に限りなく近い場合は措置命令を出せますが、それほど黒に近くない場合は消費者それぞれが判断しなくてはなりません。売り手と買い手、双方の自由も大事ですから、消費者が何とか自立して行きましょう。このようなことから、何とも複雑で難しい世の中になったと思います。自己責任が求められるので、自立できるよう、この「オトナの食育」を通して、ささやかですが手助けして行きたいと存じます。


■引用文献

 佐々木 敏「佐々木 敏の 栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方」女子栄養大学出版部(2015
 畝山智香子<「健康食品」のことがよくわかる本>日本評論社(2016

■主な参考文献等

 消費者庁ホームページ 「機能性表示食品に関する情報」
    http://www.caa.go.jp/foods/index23.html
 同ホームページ「News Release 平成28315日「合同会社アサヒ食品に対する景品表示法に基づく措置命令について」
 http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/160315premiums_1.pdf#search='%E3%82%A2%E
3%82%B5%E3%83%92%E9%A3%9F%E5%93%81+%E6%B6%88%E8%B2%BB%E8%80%85%E5%BA%81+%E6%8E%AA%E7%BD%AE%E5%91%BD%E4%BB%A4
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 日本経済新聞2016316日夕刊<サプリ広告「根拠なし」>「消費者庁アサヒ食品に措置命令」「飲むだけで痩せる」
 日本経済新聞ホームページ2016316サプリ「飲むだけで痩せる」は根拠なし 消費者庁が措置命令(331日参照)
 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG15H6K_W6A310C1CC0000/
 日本経済新聞2016331日夕刊「黒酢入りサプリ痩せる根拠なし」「熊本の会社 景表法違反」
 朝日新聞2016323日夕刊「バランス良い食事 やっぱり大事」「脳の病気 死亡リスク2割減」「7.9万人追跡調査」
 朝日新聞2016326日朝刊「健康食品よく知って」「基礎知識まとめた冊子など」「くらし安心」
 朝日新聞2016327日朝刊 13p.2021 広告<このしぐさにピントきたら「えんきん」です>
 FOOCOM.NET 松永和紀「バランスの良い適量の食事はやっぱり、死亡リスクを大きく下げる」2016325日)
  http://www.foocom.net/column/editor/13981/
 FOOCOM.NET 松永和紀<機能性表示食品「えんきん」の根拠は、お粗末すぎる>201551日) 
  http://www.foocom.net/column/editor/12648/

 日本経済新聞201641日朝刊「ココナツ油 宣伝に根拠無し」「認知症やガンを予防」「販売会社に措置命令」
 朝日新聞201641日朝刊「ココナツオイル 違法表示」

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