オトナの食育 
所感編 第78回(通巻115回)2015/11/10号掲載 千葉悦子(高28)

アクリルアミドの問題から考えられること



 今年も、後1カ月余りとなりました。今年の前半には、「○○が危ない!」といった週刊誌の見出しを、よく目にしたと記憶します。先月、トランス脂肪酸について書きましたら、月末に農水省がアクリルアミドについてリーフレットを作成し、それについてのホームページも更新したので、今月はアクリルアミドについてです。アクリルアミドは、神経毒性物質でかつ、遺伝毒性発がん物質なので問題にされます。

アクリルアミドは、食品を120以上で加熱すると、食材にもともと含まれ、天然の成分であるアスパラギン(アミノ酸の一種)と糖からできるので、調理法としては揚げ物・炒め物・焼き物が問題になります。それで、他にもいろいろな加工食品や料理にアクリルアミドは含まれますが、ポテトチップスがやり玉に挙がりやすいです。じゃがいも料理の中で、ゆでたり、煮たりする「煮っ転がし」「粉ふきいも」「(ゆでて作る)ポテトサラダ」等は、温度が100℃程度までしか上がらないので大丈夫です。

加熱しなければアクリルアミドは出来ませんが、生のじゃがいもデンプンは人間の場合、消化できませんし、種々の食材について食中毒の問題もありますから、加熱調理をしないわけにはいきません。「〇〇が危険!」といった情報が出た場合、そのリスクばかりに気を取られて、妙な対策をすると、他の大きなリスクが生じる「リスクのトレードオフ」が起きがちです。冷静に考えましょう。

農水省H.P.のアクリルアミドの説明中の<「がん」と「遺伝毒性発がん物質」>に、次の部分があります。

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例えば、食塩は胃がん、脂肪は大腸がん、アルコールは食道がんの進行を促進すると考えられています。
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 そもそも、脂質の取り過ぎは生活習慣病のリスクを上げるのですが、「大腸がん」と明示されると、より気を付けたいですよね?あれこれ考え合わすと、先月号とほぼ同じ結論―油を使う揚げ物・炒め物や焼き物ばかり食べるのはやめ、いろいろな食材を摂るだけでなく、調理法も多様にする―になります。


リスクの大きさを考え併せましょう

 これまでアクリルアミドを「オトナの食育」で取り上げなかったのは、他の問題に比べて、それほど大きくないからです。国際がん研究機関は、アクリルアミドを「ヒトに対しておそらく発がん性がある物質(グループ2A)」と分類しています。「おそらく」が付かないリスクの高いことが明確なグループには、無機ヒ素やアフラトキシン(カビ毒の一種)等があります。また、偏らない食べ方をしていれば、アクリルアミドの摂取量は、そう多くなさそうだからです。

なお、食品安全委員会がFacebook1027日に、国際がん研究機関の発がん性の分類に関して、次のように書いています。

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この分類は、発がん性を示す根拠があるかどうかを重視しており、したがってハザードの毒性影響の強さやばく露量が及ぼす影響(定量的な評価)はあまり考慮されていません。

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 このところの赤身肉や加工肉についての報道を受けて、食品安全委員会が説明した文章からの引用ですが、アクリルアミドについて考える際にもこれは知っておくべきことなので載せました。

今後も、人を怖がらせることにより儲ける側の情報が出て来ることでしょう。そういう時は「どの程度危険なのか?他のリスクと比べての大小は?」と、考えたいものです。週刊誌等で気になることがあっても鵜呑みにせず、まずは省庁のH.P.等で確認してはいかがでしょう?「オトナの食育」でお勧めした本やサイトをお読みになると、より理解が深まることもあるでしょう。

 なお、ありふれた種々の食品や調理でアクリルアミドは生成するので、ポテトチップスやフライドポテトだけ気を付けても解決になりません。トーストも焦がし過ぎればより多く生成し、かりんとう、コーヒー、ほうじ茶等にも含まれます。どんな食品にも何らかのリスクはあり、また、人間は何か食べなくては生きられないので、アクリルアミドが比較的多いものを「食べてはいけない」と捉えず、ほどほどの量と頻度にし、調理の際に焦がし過ぎないように注意することが大切と考えます。

 詳細は、農水省のH.P.等をご覧ください。せっかく良い説明を省庁がしても、それを税金で宣伝することは出来ないでしょうから、ボランティアでお知らせするのは必要と考え、今月はこの話題としました。

 

■引用文献

農林水産省H.P.<「がん」と「遺伝毒性発がん物質」>
   http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/a_syosai/about/iden.html


Facebook 内閣府食品安全委員会 1027https://www.facebook.com/cao.fscj

■参考文献等

農林水産省H.P. リーフレット 「安全で健やかな食生活を送るために ~アクリルアミドを減らすために家庭でできること~」
  http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/a_syosai/teigen/syohisya.html


畝山智香子「第7章 科学者から見た食品のリスクと安全性」松田友義編
  「食品の安全と安心―考える材料と見る視点」幸書房 (2015

本間清一・村田容常「スタンダード栄養・食物シリーズ7 食品加工貯蔵学  第2版」 東京化学同人(2011

松永和紀<アクリルアミドの発がん性問題「ポテチに多い」で慌てる必要はない>2014105日 FOOCOM.NET 
   http://www.foocom.net/column/editor/13348/


松永和紀「IARCがレッドミート及び加工肉のがんリスクを発表…不安になる前にJPHCスタディを見よう」
   20151027日 FOOCOM.NET 
  http://www.foocom.net/column/editor/11634/
 

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