オトナの食育 
所感編 第77回(通巻114回)2015/10/10号掲載 千葉悦子(高28)

油との付き合い方~一部の報道に振り回されないために~
その2 トランス脂肪酸


 8月号の「油との付き合い方 その1」で、トランス脂肪酸について近い内に書く旨、約束しましたので、今月はそれについてです。
 たしかに、トランス脂肪酸はとらないに越したことがないです。欧米の疫学研究で「トランス脂肪酸を多く摂取していた人に心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患が増加と報告されている」そうです。なお、冠動脈とは、心臓の収縮の繰り返しに必要なエネルギーを供給するための血管です。


欧米で規制や表示の義務化が進むのに、日本ではそうでもないのはなぜか?
 国によって食生活の状況が異なり、WHOの目標値より、日本の平均値が十分低いからです。しかし、一部の人は多くとっていることでしょう。
 なお、自主的に対策する企業があり、日本での2010年度は2006年度より加工食品に含まれるトランス脂肪酸の含有量が低くなっているというデータがあるそうです。ただし、その分、飽和脂肪酸が増えている場合があります。トランス脂肪酸だけに気をとられているのでは、健康な食生活になりません。


どういう食品にトランス脂肪酸が多いか?
 ショートニング、マーガリン、スプレッド(パンやクラッカー等に塗ることが多い)等です。これらは、植物油や魚油から水素添加して作る硬化油を基にして作ります。ショートニングは、無味無臭で、クッキー等をサクサクした感じに仕上げられ、しかも、飽和脂肪酸が多いので酸化の心配が少ないです。それで、クッキーだけでなく、パイ、パン、ドーナツ、その他各種お菓子に多用されます。
 この硬化油の話は、私が高校1年の家庭科の授業で故・石和先生がしてくださいました。まだ、世界の誰もがトランス脂肪酸の問題に気付かなかった当時、水素添加して硬化油が出来、安価においしいものが作れるという科学技術に、ワクワクしたものです。
 反面、生クリームに似た、安価な菓子パンについていることのある、白くてフワフワした甘いクリームの正体が分かり、冷めた気分になりました。理解すれば、そればかり食べる気がしなくなります。当時は女子だけの家庭科でした。男性も体育ばかりしていないで聴くべきでしたね。


ご自分の食べるパンや菓子の表示を見ましょう
 スーパーで販売する食パンの価格に大きな差があり「1100円未満の商品は、どこで原価を下げているの?」と思い、原材料名を見ました。非常に安価な食パンは、私の知る限り、ショートニングがよく使われます。高価な食パンにはバターも入っていることがあり、なるほどと思います。ただし、高級スーパーの食パンに、ショートニングも使われる場合があり、「200円以上なら大丈夫」などと短絡的に価格だけで判断しないようにしましょう。
 なお、パン製造関係の人に伺ったわけではなく、もしかしたら、小麦粉など他の材料についても安価なものを使っているかもしれず、その辺りは分からないで書いていることをご容赦ください。
 また、袋入りの菓子パンにはショートニングやマーガリンやスプレッドがよく使われているので、たくさん召し上がるのはお勧めできません。
 デパ地下で対面販売される食パンは、原材料の表示はありませんが、バターの良い風味がするものがあります。ひょっとしたら香料を使っているかもしれませんが、良質なバターを使っていると思いたいです。


牛をはじめ、反すう動物の乳やその製品、肉の脂に含まれるトランス脂肪酸も危険で避けるべきか?
 私が今回調べた範囲では、避けない方が良いと考えます。牛乳や乳製品はカルシウムをはじめ、日本人が不足しがちな栄養成分が豊富だからです。牛肉もたくさんでなければ、たんぱく質はもちろん、鉄などがとれて良い面があります。
 食品安全委員会委員でもある山添康氏が“食べたものはどこへいく?過剰摂取のリスク~脂質の例~”で、次のように書いていらっしゃいます。
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 反すう動物由来のトランス脂肪酸(バクセン酸)についての研究では、相対リスクの増加は見られないことから、反すう動物由来のトランス脂肪酸と冠動脈疾患の関係は認められていません。
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 だからと言って、バターならいくらでも食べて良いわけではありません。
動物性の脂肪の摂り過ぎが体に悪いのは、明白です。
 近年、レストランのパンに、バターだけでなくオリーブオイルが添えてあるのを見ます。オリーブオイルが好きなら、マーガリンやバターでなく、オリーブオイルにする方が健康には良いでしょう。ただし、これもまた、オリーブオイルなら、たくさん食べても良いのではありません。たとえ植物性の油で、飽和脂肪酸でなくても、脂質の過剰摂取は体に悪いです。
 つまるところ、お米を炊いて作るご飯と、油を使わない魚料理、袋菓子でなく果物や蒸したいもなどを大事にしましょう。ご飯なら、パンと異なり、油を足しませんから。
 新米がおいしい季節、ご飯を食べる習慣を大事にしたいものです。ただし、塩の取り過ぎに注意しながら。

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10
年間の御礼

 20051010日に「オトナの食育」を始めまして、10年経ちました。過ぎた10年は早かったです。まだ、書いてみたいことあるので、もう何年か続けさせて頂きたいと存じます。
 10年間、114回もボランティアで編集してくださった古瀬明美様(35回生)には、大変お世話になっています。私には実の女性のきょうだいがおりませんので、まるで、歳の離れた頼もしい妹ができた様な感じで、励まして頂きながら、ここまで参りました。ここに深く感謝申し上げます。



引用文献
山添康“第3章 食べたものはどこへいく?過剰摂取のリスク~脂質の例~”
 食品の安全を守る賢人会議編著「食品を科学する 意外と知らない食品の安全性」大成出版社 (2015

参考文献等
本間清一・村田容常編「新スタンダード栄養・食物シリーズ7 食品加工貯蔵学―第2版」東京化学同人(2011
食品安全委員会HP.「食品に含まれるトランス脂肪酸」2015619日更新
  https://www.fsc.go.jp/osirase/trans_fat.html
農林水産省HP.「すぐにわかるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について」2015624
   http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/
食品総合研究所HP.「油脂とは」
  http://www.naro.affrc.go.jp/org/nfri/yakudachi/transwg/kagaku.html
同研究所HP.「トランス脂肪酸Q&A
  www.naro.affrc.go.jp/org/nfri/yakudachi/transwg/q_and_a.html

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