オトナの食育 
所感編 第75回(通巻112回)2015/8/10号掲載 千葉悦子(高28)

油との付き合い方~一部の報道に振り回されないために~
その1 ココナッツオイル


 「ココナッツオイルが良いらしい」「トランス脂肪酸は危険」と思わせるような報道がこのところあり、過剰な反応をする人がいて、十年一日のごとくと残念に思います。
 今年5月に、テレビで取り上げられているココナッツオイル等について兄に聞かれて、話題になっていると知り、複数のスーパーでココナッツオイルを探すと、売り切れていたり、「お一人様1個」と書いてあったりしました。最近はブームが沈静化したようで、売り切れは少ないようです。
 真に健康を求めているわけでなく、単にメディアの流行に乗りたいだけの人は、ココナッツオイルへの熱がすぐに冷めて、また次の流行に走るのでしょうが、やや真面目なタイプの人は、過剰に食べ続ける虞があるので、要注意です。食生活の基本は「いろいろな種類の食品をとり、偏らないこと」で、良いと言われる食品であっても、繰り返し多量に食べるのはリスキーな場合があります。
 ココナッツオイルやオリーブオイルが、ある意味、体に良いのは本当であっても、「油」には違いないので、炭水化物やタンパク質より1 g当りのエネルギーは2倍以上です。これまでの食生活を変えずに、単に上乗せするだけなら、むしろ太ることでしょう。過大な期待は禁物です。
 ココナッツオイルをネットで検索して、上位に来る情報は良い点ばかりを強調し、欠点や注意はあまり見かけません。自分の食生活に新たな食品を加えたり、油の種類を切り替えたりするなら、きちんと調べたいものです。


ココナッツオイルには中鎖脂肪酸が多い

 食品成分表の脂肪酸組成表で確認すると、ココナッツオイルは「やし油」のことで、炭素数が12のラウリン酸が一番多く、続いて炭素数14のミリスチン酸、炭素数16のパルミチン酸、炭素数8のオクタン酸、炭素数18のオレイン酸(ただし、これだけは1価不飽和脂肪酸)、炭素数10のデカン酸が多いです。
 「食品学―食品成分と機能性―」に、中鎖脂肪酸とは炭素数812程度の脂肪酸を指す。牛乳、人乳など乳類やココナッツ油などの飽和脂肪酸として存在することが知られており、カルニチンなどの助けを必要とせずに細胞内へ移行できるため、容易にミトコンドリアなどへ運搬され、ATP生産などのエネルギー源となる。」とあります。食物中の脂肪はおもに炭素数16以上の長鎖脂肪酸でして、食品中で中鎖脂肪酸は比較的珍しいですが、牛乳やその加工品であるバター、生クリーム、ヨーグルト、チーズ、アイスクリームにも少しは含まれます。「〇〇が良い」という情報があっても、それ以外の食品である程度は代替できたりするので、お財布や嗜好に合わせて賢く選びたいものです。


中鎖脂肪酸は調理上の制約がある

日清オイリオHP.のココナッツオイルの部分に、次のような使用上の注意があります。
○揚げたり、炒めたりすると煙が出たり、泡立ちが起こり危険ですのでおやめください。
○本品を直接飲むことはお控えください。お腹がゆるくなることがあります。
(後略)

 炭素数が少ないということは、分子量が少ないので、泡立つ温度も低くなります。長鎖脂肪酸を多く含む一般的な油と同じようには、加熱調理に使うことが出来ません。万能ではないということを踏まえて使いましょう。
 製造物責任法があるから、企業は注意点をHP.等に書くと言えばそれまででしょうが、新製品を使う場合、消費者は注意点をよく読むことも必要ですね。


ココナッツオイルは飽和脂肪酸が圧倒的に多い

 ココナッツオイルは、脂質1 g当たり飽和脂肪酸840 mg、1価不飽和脂肪酸66 mg、多価不飽和脂肪酸15 mgです。成長に必要な必須脂肪酸であるリノール酸(n-6系)はほんの少しあるけれど、リノレン酸はゼロです。また、一般的な食事では不足しがちで摂取が奨励されるn-3系の脂肪酸(魚に多い、不飽和脂肪酸の一種)はほとんど含まれていません。
 「ココナッツオイルさえとっていれば健康」といった過信は禁物です。
「太り気味で、経済に余裕があり、嗜好に合うなら、脂質の一部をココナッツオイルに代替することを検討してはいかが?」という感じに受け取るのが良いと私は思います。


食情報のブームの本質は10年前と大して変わらない

 「オトナの食育 通巻第520066月号」に「新種の油・機能付き油は誰にでも安全で有効か?」について書きました。ブームが起きて、それをきっかけにしっかり学べば、次々出てくる新種の商品についても応用が利きますが、なかなかそうならなくて歯がゆいです。もっとも、だから私が書く種が尽きないのですが・・・
 それにしても、ブームを作る人は賢いです。「ヤシ油」では洗剤として先に名前が知れているので、食品にはそぐわないけれど、日本人にとって「ココナッツオイル」というネーミングなら、新しいおしゃれな感じがあり、関心を引き寄せることが出来ると感心します。
 消費者としては、ネーミングや宣伝等に惑わされずに、ご自分や家族に合う食品を選ぶようにしたいものです。なお、トランス脂肪酸については、近い内に書きたいと存じます。待てない方には、今回の参考文献等に載せる、食品安全委員会や農水省H.P.のその部分を参考にされることをお勧めします。

 猛暑が続きます。皆様どうぞ気を付けてお過ごしください。


■引用文献
久保田紀久枝・森光康次郎編「新スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学―食品成分と機能性―第2版補訂」
    東京化学同人(2011
日清オイリオHP.のココナッツオイルのページ
    http://www.nisshin-oillio.com/company/news/archive/2015/20150703_121035.shtml

■参考文献等
香川芳子監修 女子栄養大学出版部「食品成分表」(2011
NHKテキストView 料理
  「ココナッツオイルってどんなものなの?」
  http://textview.jp/post/cooking/18726
食品安全委員会HP.「食品に含まれるトランス脂肪酸」
  2015619日更新 https://www.fsc.go.jp/osirase/trans_fat.html
農林水産省HP.「すぐにわかるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について」2015624 
  http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/


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