オトナの食育 
所感編 第72回(通巻107回)2015/3/10号掲載 千葉悦子(高28)

「食品表示法が新年度から、機能性表示制度も始まる」

 

2015年度から食品表示法が新しく施行されます。経過措置期間があり、新法施行から加工食品および添加物は5年、生鮮食品は1年半です。その間は新旧の表示が混在することになり、生産者はもちろん、消費者も学んで行きたいものです。
 消費者庁は33日の東京会場を皮切りに「食品表示基準及び新たな機能性表示制度に係る説明会」を全国7カ所で開催します。説明会への申し込みが非常に多く、私は落選でしたので、伝え聞いたり読んだりした範囲で、状況をごく簡単にお伝えします。
 消費者庁は説明会で配布する資料をウェブサイトで公表していますので、膨大な資料ですが、詳しくはそれをお読みください。


なぜ、新しく「食品表示法」が出来たのか?

 現行において、食品の表示には、食品衛生法・健康増進法(厚生労働省が管轄)、JAS法(農林水産省が管轄)をはじめ、非常に多くのルールがあり、事業者にとっても複雑で難解なので、1本化により分かりやすくします。また、それにより消費者が自主的かつ合理的に食品を選択出来るようにして、国民の健康に役立つようにする、ということです。法律で大枠を決め、細則は内閣府令として食品表示基準を公布予定で、既にその案が上記、消費者庁の説明会資料にあります。さらに具体的な例は、今後発表予定の通知やQAに書かれるそうです。なお、資料中に「食品表示基準の策定方針―現行58本の基準を1本に統合」とあるほど、食品表示のルールの種類が多いです。


機能性表示制度

 食品の表示等について、それほど注意を払っていない人は、3日の朝日新聞朝刊12面の機能性表示食品の記事に「初めて知る」という印象を持たれたのではないか?と存じます。ニュースにならないだけで、けっこう前から消費者庁では検討していました。見出し等にあるように、健康への効果を消費者庁に届ければ事業者の責任で表示できる制度です。既にある「特定保健用食品(トクホ)」は、安全性や効果を国が審査しますが、新しく出来る機能性表示食品は消費者庁に届けるだけなので、トクホほどハードルが高くなく、たとえば静岡県のみかん業者もこの制度を利用しようとしている様子です。

賛否両論あるが、良い面もあるので上手に付き合いましょう

 トクホに対してさえ懐疑的な人にとって、届け出さえすれば良いとは危うい制度、という印象があることでしょう。私もそういった心配はあります。
 しかし、健康食品があふれ、経済規模が大きく、言い換えると買う人が非常に多くて、かつ、品質が玉石混淆という現状を踏まえると、不完全な制度でも選択の基準がある方が、全くないよりはまし、という考えもあります。健康食品には、入れてはならない下剤をはじめ医薬品が入っているような、発覚すれば法律違反になる物、健康に良い成分が表示ほど十分な量入っていない物、健康被害があるような不純物も含んでいる物など、とんでもない物もあります。そういう質の悪い物に騙されるより、健康についての効果を複数の論文等で調べて、良心的にきちんと栽培や製造する業者の健康食品を多くの人が購入する方がずっと健全と思います。



静岡県のみかんの記事をきっかけに思うこと

 225日ネットの中日新聞、静岡県の温州みかんに関する記事を読んで、同県出身の私としては応援する気持ちと、消費者が賢く利用することにより妙な批判が出ないことを祈る気持ちとが入り混じりました。それは、記事の次の部分から、みかんの糖分の過剰摂取の心配に気付いたからです。
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 出荷用段ボールなどへの表示例として「本品はβ-クリプトキサンチンを含み、骨の健康を保つ食品です」「一日に三、四個を目安に」といった表現を検討している。
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機能だけに気をとられずに、栄養を含めて全体を考え、バランス良く
 温州みかんは、本によると1100g、外側の厚い皮だけ除くとして、廃棄率が20%程度です。4つ食べると、可食部が320g位です。糖分は7~9%ですから、多ければ30g近くの糖分となります。他の甘いものを食べずに、みかんだけにすれば良いでしょうが、各種スイーツを食べてきた人が、スイーツや食事を減らさずにみかんを増やしたら、糖分やエネルギーの摂り過ぎの問題が出てきそうです。育ち盛りで運動をするような子の場合、みかんも含めてたくさん食べるのは問題ないですが、たいして運動をしない大人が毎日みかんを4つも食べ続けるのは、多過ぎではないか?と考えます。もちろん、糖分を減らしていない清涼飲料水をがぶがぶ飲むよりはずっと健全ではありますが・・・
 みかんは、ビタミンCが豊富なのはよく知られているでしょうし、各種ビタミンや無機質や食物繊維も含まれ、「食品学」に「発がん抑制効果が認められているリモノイド類が含まれている。」とあるので、骨の健康だけでなく、体の健康のために少しずつ食べるのは良いことでしょう。しかし、食べ過ぎれば、場合によってはお腹が冷えたり、糖分の摂り過ぎになりやすかったりしますから、他の食品と同様に、ほどほどの量にしておきたいものです。
 以上のようなことを各人が考えながら、上手にトクホや機能性表示食品等を使いこなせるようになると良いと思います。


 新年度から食品について新しい法律や制度となり、消費者がより知識を持って適切に選んでいけるようになることが求められます。ということで、そのお手伝いが少しでも出来るように「オトナの食育」を続けて行こうと思いました。

■引用文献
消費者庁「食品表示」食品表示基準及び新たな機能性表示制度に係る説明会資料 http://www.caa.go.jp/foods/index18.html#m01-15
県産温州ミカン 「保健機能」表示:静岡:中日新聞(CHUNICHI Web)
http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20150225/CK2015022502000095.html?ref=rank
「食品学―食品成分と機能性―第2版補訂」久保田紀久枝・森光康次郎編 東京化学同人(2011

■主な参考文献等
社団法人全国調理師養成施設協会編 「オールフォト食材図鑑」(平成8年)
女子栄養大学出版部 「食品成分表」(2011
朝日新聞201533日朝刊141面<「体によい」食品に指針 第3の表示制度 今夏にも発売>
朝日新聞201533日朝刊132面<「食べれば効果」許可不要>
 <健康食品業界「チャンス」>「第3の表示 責任は業者」<「消費者にリスク」不安も><監督人員「十分でない」>
日本経済新聞201521日朝刊 「食品表示② 新制度 条件満たせば審査なし」「知っ得ワード」
日本経済新聞201528日朝刊 「食品表示③ 薬代わりの利用は禁止」「知っ得ワード」
日本経済新聞2015215日朝刊「食品表示④ 食生活の改善に一役」「知っ得ワード」


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