先月から食品安全委員会が開催する「食品を科学する―リスクアナリシス(分析)連続講座―」に参加しています。7月3日に、熊谷進、食品安全委員会委員長のお話を拝聴しました。私が気にしていた卵の扱いについても伺えましたので、今月はそれをテーマにします。
卵で問題になりがちな菌は、サルモネラ属菌
食中毒を起こす菌は種々あり、卵の場合、ふんを介して卵の外側(on egg 型汚染)や、ごくまれに卵が産まれるときから内側(in egg 型汚染)に、サルモネラ属菌がいることがあります。菌数を増やさないようにすることが大事です。年少者や高齢者や抵抗力の弱っている人は菌数が少なくても発症することがあるので、特に注意したいものです。
サルモネラ菌は4℃では増殖しないことから、冷蔵保存が望ましいです。また、サルモネラ菌が1回分裂するために必要な時間は、至適温度40℃で18分です。気温の高い夏は特に、冷蔵庫にすぐ入れましょう。
冷蔵庫のドアでなく本体にパックのまま保存・・・殻が汗をかかないように
温度の上がり下がりが大きい冷蔵庫のドアの部分に卵を置きますと、殻に水がつきやすく、菌がより増殖します。また、冷蔵保存の冷たい卵を取り出して調理せず、そのままにしておくと同様に菌がより増殖します。温度管理だけでなく、殻の外側が乾燥していることも大事です。
スーパーマーケットのパック入り卵は、ほとんどが洗浄・殺菌(滅菌とは異なり、問題のない程度まで菌数を低減すること)済みとはいえ、全ての菌がゼロというわけではないので、他の食品を汚染しないよう、また、衝撃を避けられるように、パックのまま入れておきましょう。
サルモネラ属菌のリスクをゼロにするには、加熱が一番
60℃20分で死滅するので、十分加熱して固まった卵なら大丈夫です。日本では「卵かけごはん」「すき焼きに生卵を溶いたものを付けて食べる」「親子丼等の丼物の半熟状態、」など、卵を生や半熟で食べる習慣が古くからありますが、外国では卵の生食は考えられない、という話を耳にします。
加熱料理後、すぐに食べる
卵料理に限りませんが、料理したら、すぐに食べるのが理想です。家族の帰りが遅い場合は、いったん冷蔵庫へ。
では、ここからは
生や半熟の卵のおいしさを知ってしまったら、どう対処するか?
について書きたいと思います。
卵とサルモネラ属菌をはじめ、食中毒についてよく知って、リスクを低減するしかないと考えます。
食中毒予防の三原則
原因微生物を
1.つけない 2.ふやさない 3.やっつける
3の「やっつける」は加熱ですが、これが不十分な料理を食べたいなら、1と2を徹底する必要があります。2については既にざっと述べましたが補足します。
賞味期限内の卵を使う・・・ふやさない
卵の賞味期限は、「生で食べられる期限」の意味です。賞味期限後も冷蔵保存なら、加熱料理で食べられますが、生や半熟で食べたい場合は、期限表示を守りましょう。ただし、ヒビが入った卵は賞期限内であっても早めに料理し、よく加熱してください。卵の殻は微生物の侵入をかなり防いでいますが、ヒビがあれば防げなくなります。
生卵を置く場所を選ぶ・・・つけない
卵かけごはんを供するときなど、卵を溶くための器に生卵を入れてはいけません。卵の殻は無菌ではないからです。料理の途中で、卵を冷蔵庫から取り出して、転がらないよういったん置く場所にも注意しましょう。
洗浄・殺菌済みなら洗わない…時代によって扱いが変化・・・つけない・ふやさない
私が幼児の頃、実家で鶏を飼っていて、卵の殻にふんが付いていることがあり、気味が悪かったものです。その当時は、販売されている卵にも、そういうものがありました。このような場合は、よく洗って拭いてから料理しますが、今時の業者が洗った卵は、家庭で洗うと、殻の気孔(ごく小さい穴。胚の呼吸に必要な酸素を取り入れ、内部で発生した炭酸ガスを排泄するガス交換を行う。)から外側に付着する菌を中に押し入れてしまったり、気孔を水でふさぎ、白身の酵素の活動をさまたげてしまったりと、逆に菌の繁殖を増やすことになりかねず、かえって危険です。
パック入り卵の殺菌とは?
「食品衛生学」p.64に次のようにあります。
各地のGPセンター(grading
and packing center)では、おおよそ以下のような工程で殺菌されている。自動的に選別ラインに乗せられた卵は、
① 50~60℃のお湯で洗浄
② 50~60℃の次亜塩素酸ナトリウム(150~200ppm)で殺菌
③ 50~60℃のお湯で洗浄
④ 風乾工程で乾燥
⑤ 計量、ひびなどの検査
⑥ パック詰め
⑦ 出荷
割卵後はすぐに食べるか、料理する・・・ふやさない
殻にヒビのない卵は持ちますが、割ると急速に悪くなります。生で食べる場合は割ってすぐに食べ、また、料理直前に割るようにしましょう。
in egg 型汚染の確率
どんなに気をつけても、鶏の卵巣内で、既にサルモネラ感染している場合は、防ぎようがありません。1990年代の調査では、3000~4000個に1個の割合でしたが、2010年代の調査では、ざっと3万個に1個程度です。毎日生卵を1個ずつ食べるとして、一生に1回程度まで、リスクが低くなっています。
知識があるはずの人が、なぜあたるのか?
私の知り合いの30歳代男性が、近頃「すき焼きで食べた生卵にあたったようだ」ということでした。お若くて健常な知識のあるはずの人が、なぜあたったのかと疑問でしたが、熊谷氏のお話で思い当たることがありました。通常の光では見えないごく小さなヒビの入った卵は、サルモネラの侵入頻度がヒビの無い物より高いという研究結果があるそうです。ということは、ヒビの有無は見ただけでは分からない場合があるので、リスクを低減するには、つまるところ、よく加熱するしかないです。GPセンターで殺菌やひびの検査をしても、輸送中・買い物帰りに目に見えないヒビを入れてしまえば、リスクは高まります。
特売だからと遠くの店で卵を買って、下手な運転の私が自転車で運ぶのはやめよう、もっと丁寧に扱おう、と思いました。
卵より生肉・生魚に注意
あまりにリスクが高いので、小学校家庭科では生肉・生魚を扱わないことになっているほどです。今回、比較的リスクの低い卵の事だけ書きましたが、生肉・生魚を扱った後は、卵以上に手や器具等をしっかり洗って他の食材を汚染しないなど、基本を忘れないようにしましょう。
暑い時期は睡眠を十分にとり、バランスの良い食生活を
寝苦しいですが睡眠を十分とり、また、栄養的にバランスの良い食事にし、抵抗力を高めておきたいものです。同じものを食べても、食中毒になる人とならない人がいるし、症状の軽重が違います。
なお、健康の3要素は食事・睡眠・運動ですから、私の苦手な運動も水分補給等をしながら、お忘れなく。
■引用文献
一色賢司編「新スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学」東京化学同人(2014)
■主な参考文献等
久保田紀久枝・森光康次郎編「スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学―食品成分と機能性―第2版補訂」(2011)
本間清一・村田容常編「スタンダード栄養・食物シリーズ7 食品加工貯蔵学 第2版」(2011)
食品安全委員会 委員長 熊谷進 「相手を知ってやっつけよう~主な細菌性食中毒の特徴と対策~」
(食品を科学する―リスクアナリシス(分析)連続講座―(平成26年7月3日)資料)
Newton別冊『身近な飲食物から栄養素・サプリメントまで 食品の科学知識』(2014)
http://www.newtonpress.co.jp/separate/back_general/mook_140215_a.html
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