オトナの食育 
所感編 第52回(通巻85回)2013/5/10号掲載 千葉悦子(高28)

安全の視点からも「多様な食品をバランスよく」
4月12日開催 畝山智香子氏の講演を拝聴して


 本年412日、FOOCOM会員限定の講演会として、畝山智香子氏(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部第三室長)のお話を拝聴しました。畝山氏のお話を拝聴するのは私にとって3回目ですが、毎回、聴衆をより納得させる新たな知見を入れていらして、目を見開かせられます。なお「オトナの食育 所感編48回 通巻80 201212月号」にも、畝山氏のお話を少し書かせて頂きました。
 氏によると「世界中の食品安全機関が言っているのは『多様な食品からなる、バランスのとれた食生活』」ということです。この「オトナの食育」を始めた200510月号から、広い意味では同様のことを書いた私としては、ホッと胸をなでおろします。

 なお、これまでの連載で一番心配なのは、ヒジキの料理です。<オトナの食育 基礎編 野菜を食べるためにNo.9 20086月号「野菜などの炒め煮」ひじき・玉ねぎ・ベーコンの洋風炒め煮>の、作り方の1番に「ひじきはたっぷりの水で30分程度戻す。ヒ素を除くため、水をたっぷりにすることが安全のために大事。」と書きました。

  畝山氏の<「安全な食べもの」ってなんだろう?>によると、日本の食品安全委員会のニュージーランド版といったNZFSAの局長さんは、「ヒジキを大量に毎日食べるようなことは避けるべきであるとアドバイスしている」そうです。つまり、ヒジキはこのようにアドバイスするほどヒ素が多いです。最近の講演でも、畝山氏はそのことも含めてお話しなさるので、バックナンバーについて、注を書き添えたいと考えます。離乳食にヒジキを使わない方が良いでしょうし、幼児にはあまりたくさん食べさせない方が良いでしょう。幼児がいる家庭なら、特に戻すときの水の量を十分多くするようにし、貧血予防はなるべく他の方法をたくさん組み合わせましょう。

  伝統的な日本の食生活が良いと信じている人には、おもしろくない話題でしょうが、これが科学者の考えなのです。「ミネラル豊富」というのは、体に悪いミネラル(無機質)も多いということになります。畝山氏は他の例も挙げて、天然・自然のイメージの食品より、遺伝毒性発がん物質のない添加物を使う方が安全な場合もあるということも説明なさいました。

  「ヒジキにヒ素が入っているから、食べ過ぎないようにですって?!私はこれまで食べて、何の問題もなかったのに。それより、食品添加物・残留農薬・遺伝子組換え食品・放射性物質の方が危険。」と思いがちでしょう。しかし逆なのです。食品添加物・残留農薬・遺伝子組換え食品は非常にコントロールされていて、リスクは無視できるほど非常に低く、また、日本の食品中の放射性物質の基準値は世界的に非常に厳しく設定されています。消費者庁によると「震災から2年経過した現在、流通前の検査においては、基準値を超過する食品の割合はきわめて少ないレベルとなっている」ということです。

  畝山氏の<「安全な食べもの」ってなんだろう?>に、次の文があります。
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  ヒ素についてはあまり注目されていないので関心も低く心配されていないというだけです。心配されていないからリスクが低いということではありません。ヒ素はガイガーカウンターのような比較的簡単な装置で計測できるようなものではないというだけのことです。
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  日本に住んでいて、気にしなくてはいけない食品に関することは、案外、ヒジキのヒ素といった天然・自然のイメージの食品や、脂肪の摂り過ぎであったりします。気にすべき優先順位を間違わないようにしたいものです。
  畝山氏によると、「全ての食品になんらかのリスクがあり、リスクの正確な中身は分からないので、特定の食品(種類・産地・栽培法etc.)に偏らないことがリスク分散になる」ということでした。つまるところ、私が学生時代、食物学科の栄養学の先生から講義で伺ったことと重なります。

 今回の畝山氏のお話の中で、印象に残ったことの一つを紹介します。
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  身長の高さががんリスクの高さに結びつきます。女性で身長が15cm高いと、生涯のがんリスクは1Svを被ばくしたのと同じくらいになる、という研究結果があるそうです。
 畝山氏は「身長を低くすればがんのリスクは下がるので、小さいうちにご飯を食べさせなければがんリスクが下がる、とは言いません。身長の低い人が身長の高い人に向かって『あなた、がんのリスクが高くてかわいそうね』とわざわざ言いに行ったりはしない。けれど、『福島の人と結婚するな』ということを言う人すらいるのです」と説明なさいました。
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  福島第一原発の作業員は別として、福島県に住むことによる発がんリスクの増加より、身長が高いということの方が、より発がんリスクの差が多いというわけです。福島の人や産物を特別視するのは無意味で偏見であるとお分かりになることでしょう。リスクがあるかないかではなく、「どの程度か?他のリスクと比べてどうなのか?」と冷静に考えたいものです。

 こういったことからも、被災地復興応援として今月24日夜~26日に組んでいる、第2回韮山高校有志東北応援ボランティアバスツアーに参加するのは、少なくとも放射線被ばくという意味では心配ないとご理解頂きたいです。
このようなことは言わずもがなでしょうね。もちろん、どこにいてもリスクはつきまといますし、どこかに出掛けるとなると、心情的には無事を祈る気持ちになるでしょうが・・・
 畝山氏は発がん性について、どのように考えたらよいかについても、今回のご講演で分かりやすく話されました。その一部始終を、FOOCOM会員限定で読めるようにしています。会員になるには、年会費が1万円かかるので、ためらいもあることでしょう。しかし著書ならそれほどかかりません。また、畝山氏は「企業は困るけれど、団体なら呼んでくださればお話に伺います」ということでした。皆さん、ご自分の所属される団体にお招きすることを考えてはいかがでしょう?
 本格的に学ぶ時間や労力等がない場合は、この「オトナの食育」をお読みいただくのも一法かと存じます。また、今年67日開催の関東支部同窓会でお目にかかって、直接お話できると幸甚です。
■引用文献等
畝山智香子<「安全な食べもの」ってなんだろう?>放射線と食品のリスクを考える 日本評論社(2011
消費者庁「食品と放射能に関する消費者理解増進の施策の方針」  http://www.caa.go.jp/jisin/index.html#m10

■参考文献等
FOOCOM会員向けメールマガジン(2013418日)第99
FOOCOMのウエブサイトhttp://www.foocom.net/
Yahoo!みんなの政治[シリーズ復興]福島以外でも続く、風評被害との戦い
  201354日 http://seiji.yahoo.co.jp/close_up/1286/
「オトナの食育 所感編48回、通巻80201212月号」http://www.nirako-dosokai.org/melmaga/shokuiku/shokan48.html