今年11月30日に、日本食品照射研究協議会の教育講演会に参加し、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部の畝山智香子氏のお話を伺いました。そのスライドは、日本食品照射研究協議会の次のサイトで公開しています。
http://jrafi.ac.affrc.go.jp/kyoiku(1).pdf
この4ページ目をご覧ください。食の安全について、畝山氏をはじめとする専門家の本を読むなり、講演を聴くなりしたことがない一般の人は、食品は本来真っ白いイメージの安全なもので、それに「天然自然でない」というイメージの食品添加物や残留農薬といった「特別な悪い化学物質」が入っているととらえがちです。ところが、食品リスクの研究者は、全ての食品をグレーなイメージでとらえます。仮に、大量に摂取すれば、発がん性も含め種種の問題を起こす化学物質も少量含まれていて、未解明なことだらけ、と考えます。
上記4ページの一般の人のイメージは「食品を示す白いバック」に「リスク要因のグレーの斑点」があり、斑点が非常に濃く見えます。それに対して、研究者の方は「食品を示すグレーのバック」に「一般の人と同じ濃さの、リスク要因のグレーの斑点」があり、班点のグレーは目の錯覚のため薄く見えます。
この一般の人と研究者とのイメージの乖離が問題です。上記26ページにあるように、専門家は「食品添加物や残留農薬は、どういうものかたいへんよく分かっており、きちんとコントロールされていて、リスクはゼロと考えてよいほど量が非常に少なくて問題ない。」と考えます。
仮にリスクを数字で表せると仮定して、専門家は「既に10,000ものリスクがある食品に、1のリスクが加わっても、全体としてのリスクは変わらない。ただし、10,000ものリスクがあっても、ただちに影響が出るわけではない。」という風に考えます。しかし、一般の人は「1という少ないものであっても、多くなったのには違いない。」と1を深刻にとらえがちです。この後者の考え方を使っているのが「無添加」のうたい文句です。正直なところ、ずっと以前は私も後者の考え方でした。しかし、何人もの専門家の本を読み、お話を伺う内に「きちんとした専門家は前者のように考えるのだな」と考え直すようになりました。
「科学は確率しか与えない」ですが、税金をはじめ公的資金の配分には、感情でなく、リスクの大きさで優先順位を考えるのが公平と考えます。食品表示の優先度についても、同様と考えます。
各自が持っている、食品のリスクに対する、ときには古くて一部分しか視野に入っていず、不正確なこともある「イメージ」だけに頼るのではなく、新しくて全体を見渡した正確な情報をもとにして判断していきたいです。
短く正確で分かりやすく書くのは大変困難ですが、詳しくはスライドや本をご覧になって頂くとして、せわしい年末ですし、説明はこれくらいにさせて頂きます。
本年も私の拙文にお付き合い頂きまして、感謝申し上げます。皆様、良いお年をお迎えください。
■参考文献等■
畝山智香子 日本食品照射研究協議会2012年11月30日教育講演会スライド
http://jrafi.ac.affrc.go.jp/kyoiku(1).pdf (日本食品照射研究協議会のホームページ)
畝山智香子 <「安全な食べもの」ってなんだろう?>放射線と食品のリスクを考える 日本評論社 (2011)
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