オトナの食育
所感編 第155回(通巻210回)2025/3/10号掲載 千葉悦子(高28)
備蓄米の古米は、放出後の環境が良ければ十分おいしいはず
45年前に書きました私の卒論の題は「米の調理に関する研究 古米の食味改善について」でしたので、今月末あたりから放出される備蓄米の2023年産米(古米)等についてです。 当時の農林省が調理学研究室に依頼したテーマで、その頃は米が余り、古米の在庫量が膨れ上がっていました。同省から頂いた米は茨城県産日本晴の玄米で、前々年産の古米は20℃に保存し、前年産は搬入以降5℃貯蔵にしました。精米後は劣化するので、少しずつ精米しては使いました。 私は主に「炊き込みすし飯」(炊く前に酢と食塩も入れる)にすることにより、古米の粘りがなくてポソポソすることや硬くなる傾向を緩和させました。ただし、いわゆる古米臭は消えませんでした。 秋以降は、新米の入手をお願いすべきでしたが、それを怠り、冷蔵保存の前年産と20℃保存の前々年産とを比較し続けました。それで、図らずしも冷蔵であれば、古米であっても十分に美味であると体験できました。 自分の卒論とはいえ、詳細をすっかり忘れておりましたが、その緒言に「常温貯蔵した古米はまずいと言われる。それに対し、低温貯蔵米は3年後でも品質がよく保たれ、悪くても1年後の古米よりはかなりよく保持されているという報告もあるが、低温貯蔵には経済的な問題がある。」という部分があります。これは、農林省食料研究所の食料技術シリーズ第7号「米の品質と貯蔵、利用」が参考文献でした。 最近のテレビ・新聞・ネットでの備蓄米に関する報道を見ていると、備蓄米は温度や湿度を適切に保管しているそうです。山下一仁氏は備蓄米について「古古米でも美味だし、古古古米でも食えるが、それより古いと食えない。」といった発言をテレビ朝日のモーニングショーでなさいました。食味に関しては感度や好みが人それぞれでしょうが、長年農水省に勤務されて備蓄された古米等を試食した人の言葉は、頼りになるでしょう。 米は、ほとんどの日本人にとって必需品ですが、だからこそ米の価格の高騰に対して慌てず、大騒ぎをせず、冷静に受け止めたいものです。精米は冬でも1か月程度で食べきるのがおいしいです。慌てて精米を大量に買うとまずくなりますし、これからの季節は気温が高くなり虫やカビの問題も生じやすいので、買いだめしないことが大事です。また、多くの消費者が浮足立って多めに買うと、需給のバランスが崩れてより価格上昇に拍車を掛けそうです。 なお、米が安く販売されていても、ひょっとしたら保管方法が悪い、あるいは、もともと品質の悪い米の場合があるかもしれないので、注意するようお勧めします。 備蓄米の放出後の保管状態が良ければ、古米も含めて十分美味なはずなので、この原稿を書く時点では、消費者が手に取る際に備蓄米という表示はないそうですが、それについては心配しないで済むと判断します。
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