妻に先立たれた一人暮らしの高齢男性へ、食事の工夫について説明するようになり、同様の人が同窓生にいらっしゃるかもしれないと思い、このテーマとします。 経済的に十分な余裕があれば、高価なサービスを使えますが、大多数の人はそうはいかないので、お金や手間をかけずに、調理技術がなくても健康の維持増進に役立つ食生活のヒントを書きます。
「日本家庭科教育学会メールマガジン本年4月号」に、「一人暮らしの高齢者は調理技術が低いと死亡リスクが高まる」という主旨の論文の紹介がありました。上記の高齢男性はまさにそれに該当し、私にとって捨て置けない人なので、工夫や方法を伝えるというわけです。なお、料理に慣れている人からは「こんなのは、人間の食べる料理とは言えない」と批判を頂くのは覚悟の上で。
ところで、小学校家庭科の学習指導要領では「ゆでる・炒める・炊飯・みそ汁」を指定していて、これが出来ればかなり自立できますが、上記高齢男性は、この4種類共行ってこなくて「ハードルが高い」と言います。そこで、電子レンジの活用を提案します。
電子レンジの利点
・量が少ない場合は、時短・省エネ
たとえば、中位の大きさのじゃがいも1個が100 gとして、500ワット3分の加熱ですから、ゆでるより大幅に加熱時間が短いです。
なお、電子レンジ500ワットの場合、食品100 g当り3分程度。
出力に合わせた加熱時間にします。
・洗い物が減る
鍋やフライパン等を使わないので、洗い物が減り、手間がかからない。
・栄養成分の損失が少ない。ゆでると水溶性成分が溶け出すが、それがない。
電子レンジの欠点と、それを補う方法
・加熱し過ぎると、焦げたり、硬くなったり、時には火災の原因に
そうならないよう、料理用秤を使うと良い。秤がない場合は、殻付きの卵Mサイズがおよそ60 gとして、その何倍かで重さを推定する。
短めの加熱時間とし、様子をみながら(イモの場合は竹串やフォーク等で硬さを確認)、加熱時間を調節する。
古い機種や、食材の形が不均一な場合、食塩を含む液体の場合は、加熱むらがあり得るので、途中で上下を替えたり、かき混ぜる。
・水分の少ない食品には使えない。
・使える容器・食器が限られる
金属はマイクロ波を反射して使えないし、金や銀の飾りのある皿も使えない。
『調理学 第2版』によると「メラミン樹脂製、フェノール樹脂製の容器は成分溶出の心配があるので使わない方が良い。」
・まずい成分も残る。
たとえば、じゃがいもの場合、芽の部分を深めに取り除き、皮も厚めにむくと、おいしい。
具体例・・・じゃがいも
朝食にじゃがいもを組み入れると、パンだけよりはビタミン・無機質・食物繊維等もとれるので、安価で健康的です。パンは、これからの季節、特にかびやすいので、小分けにして冷凍保存が良いですが、それも面倒な場合、じゃがいもは保存しやすいという利点もあります。
じゃがいもをよく洗って(古歯ブラシを使うと、窪みを洗いやすい)から、電子レンジで加熱しますが、大手食品メーカーの電子レンジ活用術で、「芽を取り除く」という注意点を省く場合があるので、ここでは強調したいです。また、緑色になった部分も非常に危険です。農水省HPで注意喚起するように、この季節に収穫される「非常に小ぶりないも」も危険なので、食べないようにしましょう。じゃがいもに含まれる有毒配糖体は、調理の温度では分解しないです。
そもそも、じゃがいもの皮は、中よりは有毒配糖体が高濃度ですし、洗ったつもりでも汚れが残りがちなので、皮をむけばよいのですが、皮むき自体が困難な場合、「加熱して軟らかくしてから、皮をむく」方法があります。
なお、包丁の「刃元」や「あご」で芽の辺りを除いてから電子レンジにかけると、破裂しにくいし(破裂すると、庫内の掃除が面倒)、危険、かつ、苦くてまずい部分を取り除けるので、包丁使いが苦にならない人にはお勧めします。
それが無理なら、皮に包丁を少し入れておくと良いです。特に、大きめの芋の場合、半分に切って、断面を下にします。ラップなしでも、加熱し過ぎなければ、皮に覆われて水分があまり蒸発せず、資源の節約になります。
電子レンジに使える皿にいもを置いてから加熱すると、洗い残しが皿だけに付着するので、お勧めです。ただし、食材だけでなく皿も熱くなるので、取り出す際は、やけどをしないようにご注意ください。
いもが軟らかくなったかを確かめて、硬ければ、再度、加熱します。
じゃがいもの食べ方
じゃがバターが美味とはいえ、飽和脂肪酸を多く含む動物性脂肪はコレステロールを上げるので、中高年にはお勧めしません。どうしても召し上がりたいなら、バターの量を控えめにするか、頻度を低くしては? また高血圧等の場合は食塩を控えても美味しくなるように、胡椒をはじめとする香辛料やハーブ、オリーブオイル、あるいは、減塩マヨネーズ等がお勧めです。私は、同時に頂くハムやソーセージの食塩分が高くて香辛料が強いので、じゃがいもには何もつけないことがあります。
毎日のようにじゃがいもを食べるなら、かける物や添える物に変化をつけると良いでしょう。各人が、ご自分の健康状態や好みを考えながら工夫なさってください。
■引用文献
畑江敬子・香西みどり編
『調理学 第2版』東京化学同人(2011)
■主な参考文献等
「一人暮らしの高齢者は調理技術が低いと死亡リスクが高まる」
提供元:HealthDay News 公開日:2024/01/31
https://www.carenet.com/news/general/hdnj/57853
池田彩子・鈴木恵美子・脊山洋右・野口忠・藤原葉子編
『基礎栄養学 補訂版』東京化学同人(2019)
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