オトナの食育 

所感編 第145回(通巻199回)2023/10/10号掲載 千葉悦子(高28)

卵のコレステロールを恐れ過ぎず、栄養豊富な卵を召し上がって


 


 今年の初め頃は、鳥インフルエンザ等の影響で、スーパーの棚から卵が消え、卵の価格がぐっと上がり、卵を以前ほどは買わない習慣がついた人がいるかもしれませんが、最近はだいぶ落ち着きました。そこで、冷静に卵との付き合い方を考える機会にしたいです。

 何十年間も「卵は物価の優等生」と言われましたが、円安や鳥インフルエンザの問題の前から、価格が低過ぎて養鶏業者が悲鳴を上げていたとか。鶏のエサは、輸入のトウモロコシがよく使われ、養鶏には自給率の低いエネルギーも必要ですから、円安も考え合わせると、消費者は適正価格を受け入れざるを得ないと考えます。具体的には、以前のように、10200円程度の価格になるまで買い控えていては、栄養面が心配です。卵は良質なたんぱく質を含み、ビタミンCと炭水化物以外の多種類の栄養素が豊富です。

 しかし、コレステロールを気にする人は、卵にコレステロールが多いので避けようと考えがちでしょうが、それは断片的で危うい知識です。私は先月末に、「タマゴシンポジウム」で講演を拝聴したり、その主催者である「タマゴ科学研究会」HPの資料を読んだりして、卵を見直すよう提案したいと思いました。

 結論は、『タマゴを読み解く』p.14の「ほとんどの健常者では健康な食生活をしている限り11個程度の卵を摂取してもコレステロール濃度には変化は認められない。」、p.18の「健康な人では1日に1個程度の卵を食べても動脈硬化性疾患のリスクが上がることはない」です。ただし、個人差があることには注意します。

 そもそも、食事から摂取するコレステロールは、体内で合成されるコレステロールの1/3~1/7に過ぎず、血中濃度を一定にする働きが、体に備わっています。卵1個のコレステロールの量は210 ㎎程度(八訂食品成分表ではより低い数値が載る)で、もしも、いくら丼のような感じでイクラを多めにとったり、レバーを食べたりすると、その方がコレステロールの量は多いです。

 『タマゴを読み解く』p.11に「コレステロール濃度に最も影響を及ぼす食事成分は、コレステロールそのものより飽和脂肪酸であり、飽和脂肪酸摂取量と血液コレステロール濃度との間には密接な正の相関が確認されている。」とあります。なお、卵1個の飽和脂肪酸は少ないので、コレステロール濃度に影響しないです。ということで、血中コレステロール上昇に注意したいなら、卵ではなく、飽和脂肪酸が多い獣鳥肉等の脂肪を摂り過ぎないことが第1となります。

 なお、『食品学』p.221に「鶏卵には、コレステロールの動脈壁への沈着を抑える不飽和脂肪酸(リノール酸など)が多量に含まれている。また、卵黄に多く含まれるレシチンは、いわゆる善玉コレステロールの量を増加させるのに役立っており」とあります。『タマゴを読み解く』によれば、卵をほとんど食べない群の方が、死亡や疾病リスクが高いという場合もあるそうで、適度に卵を食べるようお勧めします。


■引用文献

監修:菅野道廣・近藤和雄・磯博康
 『タマゴを読み解く―正しい知識で健康に―』編集・発行:タマゴ科学研究会(2023


 http://japaneggscience.com/information/pdf/2307_read_egg.pdf


久保田紀久枝・森光康次郎編『食品学 第2版』東京化学同人(2021


■主な参考文献等

池田彩子・鈴木恵美子・脊山洋右 ・野口忠・藤原葉子編
 『基礎栄養学 補訂版』東京化学同人(2019



■■オトナの食育 全メニューへ