オトナの食育 

所感編 第143回(通巻197回)2023/8/10号掲載 千葉悦子(高28)

カドミウム低減米・・・言葉のイメージに振り回されないで


 

 
 猛暑が続き、涼しい秋が待ち遠しいので、これから収穫される米の新品種についてです。

 イオンビーム照射により、カドミウムの吸収を抑制した「コシヒカリ環1号」をはじめとする米の品種に、いわれなき攻撃があると知りました。イオンビーム照射は放射線の一種なので、「放射線を作物に当てるなんて、怖い」と感じがちでしょう。こういう言葉のイメージを悪用し、人々を怖がらせて利する人がいます。そのような類に振り回されないようにしたいものです。

 ただでさえ、年々、米の消費量が減り、食料自給率が下がるのに、米にごくわずかなリスクがあるといった報道は、控えがちでしょう。残念ながら、日本には以前、鉱山が各地にあったので、仮に、多く摂取すると健康に悪影響の出るカドミウム等が土壌をはじめ環境中にあります。それを稲が吸収し、米はわずかながらカドミウムも含みます。ただし、その濃度について、国が基準値を設け、基準値を上回る米が出回らないように、国が上回った米を買い取る対策をしているので、消費者が過剰な心配をしないようにと願います。

 もしも、基準値超えの米が減れば、その分、税金を使わないで済みますから、そういう点でもカドミウム低減米は素晴らしいと思います。

 カドミウム低減には、湛水(水をそそぐ)のが良いのですが、そうするとヒ素が増えてしまいます。つまり、水稲栽培においてヒ素とカドミウムはトレードオフの関係にあり、どちらも抑えるために、湛水を注意深く調整する知識と手間がかかります。

 カドミウム低減米の研究者である石川覚氏が「温暖化の進行はコメの無機ヒ素濃度の上昇に貢献することが指摘されている(Muehe et al., 2019)。」と述べています。温暖化は1国の努力ではどうにもならないので、ヒ素とトレードオフの関係にあるカドミウム低減米はますます必要でしょう。

 なお、土壌にカドミウムが多い地域では客土をする場合がありますが、米の食味が低下することもあるそうですし、土を運搬するにはエネルギー等も必要で、SDGsに反します。

 日本では米由来のカドミウム摂取量が農作物由来の46%を占めますから、
米に含まれるカドミウムの低減は、非常に大切と考えます。
ですから、言葉のイメージだけで判断せず、基礎知識を得て、冷静に判断することが個人や社会の為になります。


 ところで、厚生労働省HP水産庁や厚生労働省の調査結果によると、軟体動物(貝類、たこ、いか)、甲殻類(かに、えび)の内臓にカドミウム濃度の高いものが認められており、これらを原料として用いた加工食品である塩辛類の一部にはカドミウム濃度の比較的高いものが認められています。」とあるので、同じ種類の塩辛をたくさん食べるのはお勧めできません。おいしくても少量を楽しむのが理想です。もっとも、塩辛は食塩の過剰摂取の方がより問題でしょうが・・・

  つまるところ、同じ食品を大量に食べず、多様な食品を召し上がるのが、栄養面だけではなく、リスク回避にもつながることになります。

 なお、猛暑対策としては、水分を十分とることが急務です。健康の3要素「食事・睡眠(休養)・運動」を再確認しながら、乗り切って行きましょう。




■引用文献等

 石川覚「カドミウムを吸収しないイネの開発と実用化に向けた挑戦」
       肥料科学,第44号,771042022

  https://www.jstage.jst.go.jp/article/fertilizerscience/44/44/44_77/_pdf/-char/ja

 厚生労働省HP 厚生労働省医薬食品局食品安全部 
    「食品に含まれるカドミウム」に関するQ&A 平成22年7月改訂


 厚生労働省:「食品に含まれるカドミウム」に関するQ&A (mhlw.go.jp)


■主な参考文献等

 農林水産省HP  平成31320日更新

 農産物中のカドミウム低減対策技術:農林水産省 (maff.go.jp)



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