オトナの食育 

所感編 第141回(通巻195回)2023/5/10号掲載 千葉悦子(高28)

鶏肉等は洗わない


   
 暑い日もある季節なので、食中毒予防の基本の一つを取り上げます。

 食品安全委員会や農水省は、今年4月、自炊を始めた人向けに「鶏肉等の生肉を洗わないでください。」とツイッターで発信しました。食品の取り扱いについて、よく知る方々にしてみれば「そのような基本が、なぜ分からないのだろう?公的機関が発信するほど必要なのか?」と訝しがることでしょう。しかし、長年、調理実習をする私としては、調理しないまま、また、注意深く調理の様子を見ることなく、大学生になった人が増えている実態があるので、発信するのは時代に合うと思います。

 生肉を洗わない理由は、水がはねると、一緒に飛び散る食中毒菌によってキッチンや食材が汚染される可能性があることです。「鶏肉」を例に挙げるのは、肉の中でも特に汚染率が高く、鶏肉につくカンピロバクタ―という細菌が問題だからです。比較的すぐ表れる下痢などの症状だけではなく、多くはないけれど、ギランバレー症候群になりえます。数年前のテレビ番組で、医師自身がこの病気にかかり、ほとんど動けなくて、話すなどの意思表示も不可能だったというのを視聴しました。

 「『今まで食中毒が起きなかったのだから、これまでの方法で大丈夫』とは限らない。運が良かっただけ。」と考えたいものです。これは、今年423日開催の「食中毒微生物のリスコミの在り方」というフォーラム等で小暮実氏(食品衛生アドバイザー 長年、東京都中央区保健所に勤務 NHK「あさイチ」でも説明)がお話しなさいました。

 家庭でも、お店でも、食中毒対策を見直しませんか?特に、お店を営業なさる方々は、食中毒を出すと営業停止や多額の賠償金もあり得るので、「これまで起きなかったから、今後も起きない」と決めつけないことをお勧めします。

 なお、生肉の入っているパックの汁は、不要の紙や布に染み込ませて、流しに流さないといった工夫もするとより良いでしょう。さらに、『食品衛生学』によると、カンピロバクターは「20℃以下の凍結や、真空パックおよびガス置換パックした包装生肉では1カ月以上も生存する」ので、冷凍等の生肉についても、注意する必要があります。


::::::::::::::::::::::::::::::::::

■引用文献

一色賢司編『食品衛生学 第2版』東京化学同人(2019

■参考文献等

農林水産省さんはTwitterを使っています: 「鶏肉等の生肉を水で洗うのは控えましょう。 洗ったときの水がはねると、一緒に飛び散った食中毒菌によってキッチンや周りの食材が汚染される可能性があります。 汚れ等が気になる場合は、キッチンペーパー等でふき取るようにしましょう。 https://t.co/EDzuL3BFym」 / Twitter


内閣府食品安全委員会事務局_広報さんはTwitterを使っています: 「この春 #自炊デビュー した皆さん、 #食中毒予防 のため、「#生のお肉は洗わない」でください! 細菌が飛び散って周りの調理器具や食品についてしまうおそれがあります。 https://t.co/HYkGKko6uj」 / Twitter


NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)主催 食のリスコミフォーラム第1回『食中毒微生物のリスコミのあり方』(4/23):講演レジュメ


■■オトナの食育 全メニューへ