オトナの食育 
所感編 第122回(通巻167回)2020/9/10号掲載 千葉悦子(高28)

健康食品をはじめ、「食品だから安全」と考えない

 


本年830日開催の、講演とパネルディスカッション「健康食品のリスコミ~天然成分のリスクは?」に参加し、お伝えしたいことを書きます。このイベントの主催は、NPO食の安全と安心を科学する会SFSS)で、8月号にてご紹介しました畝山 智香子氏や、国民生活センター理事の宗林 さおり氏、食の安全と安心を科学する会理事長の山﨑 毅氏の講演がありました。3氏の講演レジュメやスライドは、食の安全と安心を科学する会HPに掲載されています。

 宗林氏によると、健康食品に関する相談件数や健康被害が2019年度は非常に多くなったそうです。以前から食品安全委員会や厚労省や消費者庁等が注意喚起をしてきたにもかかわらず、問題が多くなっていると分かり、今回の話題にしようと思いました。

 20206月に改正食品衛生法が施行され、健康食品の素材の中でも、作用が強く健康被害が生じやすいものを指定成分等」として管理することになりました現在、プエラリア・ミリフィカ、ブラックコホシュ、コレウス・フォレスコリー、ドオウレンが、指定成分等となっています。この4つは植物で、外国ではハーブや野菜であったりします。ネットで検索すると、「ブラックコホシュはアメリカインディアンの間で痛みやリウマチ炎症、女性の生理に関係する症状に使われていたハーブ」、コレウス・フォルスコリーについては、<インドの伝統医学である「アーユルヴェーダ」では、心臓病、腹痛、呼吸器疾患、排尿痛に有効とされています。>などとあります。けれど「そのように古くから使われているなら安全だろう」などと早とちりするのは、とても危険です。

 なお、畝山氏によると「この4つ以外にも危険な成分を多く含むものがある」そうですから、健康食品の選択は特別な注意をはらいたいものです。

 一般に「天然・自然(のイメージの物)は安全、人工的な食品添加物や残留農薬は危険。野菜や果物といった食品には、危険な物は全く入っていない。そこに、人工的な添加物が加わったり農薬が残ったりすると危険。」という感覚があるかと思いますが、むしろ逆と再確認したいものです。化学物質は使い方によっては危険だからこそ、食品添加物や残留農薬等には厳しい規制があり、基準値を守りますし、医薬品には副作用があるから用量を守ります。しかも、安全性や有効性に関して厳しい試験・検査があります。

 しかし、食品は食品衛生法の網(食中毒を起こさない)はありますが、食品の成分はむしろ未知な部分が多いです。健康食品は、たとえ形状が薬のような錠剤風とかであっても、日本の法律では「食品」に分類されるので、医薬品のように成分の種類と量が厳格でなく、ばらつきがとても大きいです。

 その上、購入者が「食品だから」と安易にとらえ、早く効果を得ようと使用量の目安よりも多く食べがちです。さらに、定期購入の形が多く、どんどん送られるので、摂取し続けがちなのだそうです。そういうわけで、摂取量、つまり、暴露量が増えることがあり、健康被害が出やすいということです。

 「食品だから安全」とは言えない、ということを広めてゆきたいです。「昔から食べてきたから安全」と感じるのは、無理もないです。しかし、たとえば、食塩も大昔から食べてきましたが、調査・研究が進むにつれて、必要な物ではあるけれど、過剰摂取の現状から減塩が健康のために求められるようになりました。

 人生50年の時代なら、高血圧をはじめ食塩の過剰摂取が引き起こす問題が大きくなる前に、結核等の病気で亡くなりました。感染症の予防や治療のために魚の干物や塩漬けでもいいから、たんぱく質をはじめとする栄養を十分摂ることが重要だったのでしょう。しかし、現在は平均寿命が非常に伸び、佐々木敏氏によると「平均的な日本人は、10年で6 mmHg程度血圧が上がる」そうなので、減塩の重要性が非常に大きくなりました。

 畝山氏の今回の講演資料p.1の「リスクのものさし」では、なんと、鉛・カドミウム・水銀・ヒ素・ジャガイモのアルカロイドよりも、塩の方がリスク管理の優先順位の指標において高いです!なお、基準値違反の残留農薬はこのグラフの一番下に位置し、優先順位が低いです。リスクの物差しは種々あるとはいえ、このような考え方もあるほど、食塩の過剰摂取は問題です。そういうわけで、今後も、減塩に関する工夫に関して、書きたいと存じます。

 添加物悪玉論をはじめ、何か(多くは食品添加物や遺伝子組み換え作物や糖質)を使っていないことを売りにする宣伝等は、本当に危険な物を見失いがちにするという意味で、社会に害を及ぼします。また、「指定成分等」の4種以外にも注意すべき健康食品があり、危害が起きては困ります。まずは個々人が「そもそも、食品の成分はよく調べられていなくて、わかっていない。」と謙虚な考え方に切り替え、宣伝だけではなく、国の機関のHP等で調べて取捨選択したいものです。


■引用文献

佐々木敏「栄養データはこう読む!」女子栄養大学出版部(2015

■主な参考文献等

畝山智香子『食品添加物はなぜ嫌われるのか 食品情報を「正しく」読み解くリテラシー』化学同人(20206月)

NPO食の安全と安心を科学する会(SFSS)HP
http://www.nposfss.com/cat9/riscom2020_02.html

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所HP 「健康食品」の安全性・有効性情報 「指定成分等について」
https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail4291.html

食品安全委員会HP「健康食品」に関する情報 平成27年12月8日作成
https://www.fsc.go.jp/osirase/kenkosyokuhin.html

国民生活センターHPPIONETにみる2019年度の危害・危険情報の概要」202093日:公表
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20200903_2.html




 

■■オトナの食育 全メニューへ