オトナの食育 
所感編 第109回(通巻149回)2018/12/10号掲載 千葉悦子(高28)

変わった料理方法にご注意

   

 12月は大忙しで、料理に手が掛けられない場合がある半面、年末年始の人が集まる際に、珍しい料理を作りたくなりがちでしょう。

 125日放送のNHKテレビ「ガッテン! 小松菜 健康効果だけじゃない大発見!味の万華鏡!濃厚おひたし▽絶品鍋 ほっこり洋風スープ」という番組で、衛生上の注意点を強調しないことから、今月はこの話題とします。

 和食で有名な野崎洋光氏が、小松菜をゆでる際に沸騰した湯ではなく、低めの温度で酵素を働かせながらさっとゆでて、アブラナ科特有のピリッとした味を出すという場面がありました。野崎氏のなさることなので、そのこと自体に異議はありませんが、衛生に関する知識の乏しい人が、安易に行うと、危険な場合がありえます。

 食品安全委員会HPの腸管出血性大腸菌O-157などの、調理に関する食中毒予防の注意事項に「75℃、1分以上の加熱」「野菜類はよく洗浄」などとあります。なお、ノロウイルスには、より高い温度が必要です。

 「土のひみつ」によると、「(前略)最近では、DNAや遺伝子の量から微生物の数を推計する手法も発達している。これらの方法で土壌中の微生物を計数すると、細菌が最も多く、(中略)培養できない物を含めると(中略)10億~100億(千葉注:1 g中)にも達する。」ということです。

 土で栽培される野菜は、洗って土等をしっかり除くことが大切ですが、当然のことのせいか、上記番組内で強調されていなかったです。しかし、中学生~大学生の調理実習を見ていると、心もとない場合があります。それで、私が小学校の教員を目指す学生に教える際は、食品安全委員会の委員でいらした石井克枝先生の「流水洗いのデータの例」を実習前に知らせます。カイワレ大根の流水30秒洗浄で、菌数は100分の1近くに減りますが、3分間洗ってもたいして減らず、ゼロにはならないです。

 この番組では、「小松菜に塩をしてから、空気を抜いたプラスチック袋に詰めて1晩冷凍し、解凍後、水気を絞って切ると野沢菜漬けの様!」という「なるほど!」と感心する方法も示しました。それ自体は賢い方法でしょうが、扱いやすいように根に近い部分は切り取らずに行っていて、よほど注意深く洗わないと、土を除くのが難しいと思われます。

 なお、業者が加熱なしの漬物等を製造する際は殺菌料を使い、それが残らないように、しっかりと水洗いするそうです。しかし、家庭で漬物を作る場合、薬剤は使わないので、それ相応の衛生的な取り扱いが必要です。

 要するに、目新しい料理方法を見かけても、いったん自分でよく考えて、特に衛生面には注意が必要です。年末年始は病院も休みですから、食中毒にならないよう特に気をつけましょう。

 私が食品や栄養や調理の話をすると、学生や生徒は眠くなりがちなのに対し、テレビ番組は楽しく飽きさせない工夫が満載で、「興味を引く」という点では負けます。特に、NHK「ガッテン」は健康に役立つとは思います。しかし、「野菜をよく洗う。葉菜類の根元は特に注意してしっかり洗う。」といった基本事項が身に付いていないと危険な場合もあるので、家庭料理が衰退しつつある現在、学校教育で調理実習を含む家庭科に時間数を十分確保する必要を改めて強く感じます。


■主な参考文献等
日本土壌肥料学会「土のひみつ」編集グループ編「土のひみつ」朝倉書房(2015
食品の安全を守る賢人会議「食品を科学する 意外と知らない食品の安全」大成出版社(2015
一色賢司編「食品衛生学 補訂版」東京化学同人(2016
内閣府食品安全委員会HP腸管出血性大腸O-157:H7による食中毒」
石井克枝 食品安全委員会 平成26年度リスクアナリシス連続講座 第3回資料

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