オトナの食育 
所感編 第101回(通巻141回)2018/2/10号掲載 千葉悦子(高28)

食品への放射線照射に関する国の動き

   

 この冬は何十年ぶりの寒さや雪で、野菜が品薄で高いです。その対処方法は、バックナンバーをご覧ください。

 今月は、私にとって雪解けの気配を感じる話題です。昨年11月9日、農林水産省の「レギュラトリーサイエンス研究推進計画」の別表が更新され、私の所属する消費者団体がパブリックコメントとして提出した、放射線照射処理についての意見が反映されました。
 同省は、科学的根拠に基づいた食品安全、動物衛生、植物防疫等に関する施策・措置を実施していくために、「レギュラトリーサイエンス研究推進計画」を立てて、これに係る研究の推進をはかっています。この計画には「農林水産省が必要としているレギュラトリーサイエンスに属する研究」についての「別表」があり、同省が重要とする関連研究が、重要度や行政課題とともに整理されています。
 この「別表」、植物防疫の部分「輸出解禁を進めるための殺虫等の処理技術の開発」において、「 輸出する品目の品質を確保しつつ有効な検疫処理技術(低温処理、放射線照射処理等)を開発する必要がある 」と研究の必要性について記載されました。(p.33)
 専門用語の羅列となったので、用語の説明をします。

 レギュラトリーサイエンスとは、第4次科学技術基本計画p.15によると「科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学」です。
 植物防疫は、外国旅行をする際に「植物や生の果実や野菜等は、お土産に出来ない」という検疫で、一般の人が関わることでしょう。外国の生の植物等は、日本にない虫や病気を持っている場合があり、天敵がいない等のことから虫や病気がまん延し、日本の農業が壊滅する場合があります。外国にしてみると、日本の農産物を輸入するにあたり、自国の農業を守るために防疫をするというわけです。
 地方の人口減少が著しい日本の対策の1つとして、農産物の輸出を増やしたいものです。農産物の内側に潜り込んだ虫に対処するには、透過力が強い放射線照射処理が向き、温度上昇がほとんどないことから品質の確保をしやすいです。しかも、オゾン層破壊物質の臭化メチルといった化学物質も使わないので、環境にやさしく、残留性もないです。そういうわけでWHOは、他に良い方法がない場合、放射線照射を検討するようにと勧告しているのですから、前向きになりたいです。

 寒い時期にはピンと来ませんが、地球の温暖化が進んだり、異常気象で食料が十分確保できなかったりする際の輸入や、国産品の保存性向上も考えて、食品の処理技術を法制上、拡大しておくことが必要と考えます。その一つとして、放射線処理について理解が進み、また、故郷の農林水産業も発展するよう期待して、今月の話題としました。


■引用文献等
農林水産省HP 「レギュラトリーサイエンス研究推進計画」「別表」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/regulatory_science/pdf/rsplan2.pdf

第4次科学技術基本計画 平成23年8月19日閣議決定
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/4honbun.pdf


■主な参考文献等
農林水産省HP 「レギュラトリーサイエンス研究推進計画」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/regulatory_science/index.html#rsplan

朝日新聞2018125日朝刊 稲垣康介(編集委員)「ザ・コラム」「地球温暖化 お酒やスポーツで考えよう」
朝日新聞2018126日朝刊「「温暖化影響軽減へ新法」「災害や熱中症 計画的に対策」
日本経済新聞2018年23日夕刊 2018年126日朝刊
  「食材高騰 給食に寒風」「アジの開きがちくわに メロンの大きさは半分」「栄養確保へ値上げも」

■■オトナの食育 全メニューへ