オトナの食育 
所感編 第69回(通巻103回)2014/11/10号掲載 千葉悦子(高28)

和食の欠点―塩分低減の工夫
カリウムたっぷり「アボカド入りポテトサラダ」にわさび

 

 10月後半は、ハロウィーンのお祭り気分でした。デパートの中には、仮装した子どもにお菓子を配布していたところもあるとか。東京ディズニーランドでは、その期間は大人も仮装OKだとか。当日は、渋谷に仮装した若者が集まったというテレビニュースもありました。
 深く考えない欧米のマネは、食以外にしておきたいものです。欧米の食事は、脂質やエネルギーの過剰が問題です。そういう意味では和食が良いです。とはいえ、塩分摂取の多さは、和食の大きな欠点です。

塩分とり過ぎの現実を知る
 本年914日のNHKクローズアップ現代で、佐々木敏・東京大学大学院教授が、尿を全てためるという方法で測定をなさり、従来言われたより日本人が多く食塩をとっている(男性14.0g、女性11.8g)という研究結果を示し、減塩運動の推進についてお話しなさいました。現在の食生活は加工食品の占める割合が高いので、イギリスで行われているように、国策として加工食品の減塩を企業が進めなくては、大きな改善は難しいということでした。
 それに異論はなく、減塩商品を選ぶ意識を高めることも必要ですが、個人や各家庭で手軽にできる対策や、それが急務である理由をおもに書きます。
 日本の食事摂取基準2010版は、食塩について成人の目標量、男性9.0g/日、女性7.5g/日未満、2015版では男性8.0g/日、女性7.0g/日未満です。また、日本高血圧学会では16g未満を推奨し、WHOは世界の減塩目標を5g/日にしています。
 私は大学生に調理実習を指導しながら、自分たちの作った料理の塩分計算をさせたり、みそ汁の塩分を測定したりします。「食事摂取基準2010版の基準を守ることでさえ困難」とほとんどの学生が感想を書き、また、私自身もそう思います。そうであるからこそ、日常的に意識をして減塩に取り組まないことには、生活習慣病になりがちでしょう。
 塩分を減らさないと、ナトリウムの摂取量が多くて、高血圧をはじめ胃がんの発症リスクが高まるなど、健康に悪影響を及ぼします。しかし、これを知ってはいても、食習慣を変えるのは難しいです。


血圧の上昇を抑えるカリウム豊富な、野菜やいも等の料理を
 そこで、減塩しきれない分を、いわば、ナトリウム帳消しをしてくれるカリウムをしっかり摂取することで、カバーをするということを考え合わせましょう。カリウムが豊富なのは、野菜・いも・豆・果物等です。
 スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学 3」東京化学同人(2011p.142に、次のようにあります。
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 日本人では食塩の摂取量が多いほど高血圧の割合が増加する。(中略)
 カリウムの摂取量を増やすと、血圧の上昇を抑える。カリウム(マグネシウムやカルシウムも)の摂取は電解質代謝に影響を与え、かなりの人で降圧効果がある。健常者では、低カリウム食は逆に体内のナトリウム量が増加し、高血圧になる。(後略)
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野菜・いも・果物の少ない現実も知る
 栄養計算をすると、おかずを減らせば塩分も減ると気付きますが、それでは栄養不足になり、カリウムもとりにくいです。日本の基準は、成人1日当り野菜350g、女子栄養大学の香川芳子案ですと、いも100g、果物200gです。今回、この例を写真で載せますので、参考になさってください。キャベツの千切りや、レタス主体のサラダといった生野菜ですと、かさが多くて食べにくいですが、この例のように加熱料理主体なら比較的食べやすいです。

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1日、野菜350g(内1/3は緑黄色野菜)・いも100g・果物200gの献立例

<朝食>
野菜炒め…キャベツ80g・ピーマン25g・人参25g(バター・油・塩・胡椒)
(ご飯またはパン、卵料理あるいはハムやソーセージ、牛乳等)
               
 

<昼食>
アボカド入りポテトサラダ…じゃがいも50g・アボカド30g・人参10g・レタス20g・
                   (マヨネーズ8g・練りワサビ少々)
                      

みそ汁…長ネギ(白い部分20g、緑の部分5g)・(豆腐40g・みそ10g程度)
(ご飯、主菜…たとえばハンバーグ・焼肉・シュウマイ等)
               
            長ネギ(一人分)
<おやつ>
りんご…りんご100g
(牛乳やヨーグルトを組み合わせるとより良い)
                              

<夕食>
ふろふき大根…大根100g・(みそ15g程度・砂糖・出し等)
            
ほうれん草のお浸し…ほうれん草50g・(しょうゆ小1/3・出し小2/3
            
さつまいもの甘煮…さつまいも50g・(砂糖・みりん・しょうゆ少々)
            
かきたま汁…生椎茸10g・三つ葉4g・(卵・塩・しょうゆ・出し・でんぷん)
            
デザートの果物…柿70g
(ご飯、主菜…たとえば焼き魚とか煮魚とか)

            

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 朝から、野菜炒めをこんなにたくさんは召し上がれない場合、キャベツの半量を昼食に回して、主菜の付け合わせにしてもかまいません。いずれにせよ、朝から野菜や果物をある程度食べないことには、なかなか目標に達しません。
 残念ながら、日本人の野菜の平均摂取量は300gにも満たないですし、いもと果物は基準の半分強です。
 大学生の調理実習で、野菜やいもの重さを量らせ、実習1回ごとの摂取量を算出させると、多くの学生が、日常の野菜不足に気付きます。「(おいしく調理され)目の前に出されれば、理想の量の野菜を食べられるが、実生活の朝は簡単に済ませるし、昼はおにぎりだけのことが多く、(親に用意してもらう)夕食くらいしか十分(1日の基準量の1/3程度)食べていず、野菜不足と改めて認識した。」といった感想が多いです。
 要するに、減塩を意識しつつ、主菜に必ず野菜・いも・豆などの多い副菜をたっぷり組み合わせるようにしましょう。


塩分を控えつつ、脂質もとり過ぎないようにするには?
 おいしさを損なわないように塩も脂質も減らすのは、難しいものです。そいうときに活躍するのは、香辛料や香味野菜の利用や、酸味や旨味をうまく組み合わせることです。
 これを踏まえ、具体的な副菜として自分の家族用に思いついたのは、アボカド入りポテトサラダに練りわさびを混ぜることです。秋が深まると、きゅうりの味が今一つになるので、緑色の他の材料を選びました。また、味の問題だけでなく、冬にビニールハウスや暖房を使って栽培する夏野菜より、南半球でとれるアボカドを使う方が省エネと考えます。
 アボカドは「森のバター」と言われるほど油が多いですが、脂質を構成する脂肪酸の80%は不飽和脂肪酸で、肉に多い飽和脂肪酸に比べて比較的体に良いです。しかもアボカドは、100g当りのカリウムが、きゅうりの3倍以上です。いももカリウム豊富なので、今回のアボカド入りポテトサラダ(レタスなし)だけでカリウムを420mg(成人男性の1日当りの目安量が2500mg、女性が2000mg)くらいとれます。ポテトサラダに混ぜるくらいの量であれば、総合的に考え、アボカドは油が多い欠点より、カリウムをはじめ無機質が豊富で、ビタミンB1B2も比較的多いという長所が大きいと考えます。アボカドは、マグロの刺身の代わりにわさび醤油で食べるとおいしいと感じる人がいるくらい、わさびとの相性が良いです。副菜の定番であるポテトサラダの風味を、たまには胡椒以外に変化させるのはいかがでしょう?
 わさびマヨネーズが市販されますが、それを買うと冷蔵庫に入れる物がますます増えるので、マヨネーズに練りワサビを混ぜることにしました。試すと、十分美味でした。マヨネーズを控えめにし、塩も足さず、代わりにわさびで風味を付けることにより、満足感を得ます。
 同じようなことを考える人がいるだろうと、ネット検索すると、クックパッドの人気のあるメニューとして載っていました。料理自体は新しくないですが、わさびを混ぜる意味や効果の解説ができたので、今回書きました意義があると存じます。
 皆様、どうぞご自分の好みに合わせて考えながら、野菜・いも・果物を十分とり、少しずつでも減塩と脂質の低減とを実践なさって、より健康でいらしてください。

引用文献
「スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学 第3版」東京化学同人(2011
主な参考文献等
大塚譲・河原和夫・須藤紀子編「新スタンダード栄養・食物シリーズ1 社会・環境と健康」東京化学同人(2014
久保田紀久枝・森光康次郎編「新スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学―食品成分と機能性―第2版補訂」
    東京化学同人(2011
朝日新聞20141025日夕刊「あのとき それから」「理想の食生活 まさに日本食」
                    「昭和52年(1977年)米国で和食ブーム」「マクバガン報告書」
朝日新聞2014111日朝刊「ハロウィーン 渋谷占拠 警官も出動」
NHKクローズアップ現代2014914日放送「道は険しい? “減塩社会”への挑戦 
            http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3546.html
松永和紀「世界の朝食を比べてみると・・・食塩摂り過ぎ大国ニッポンが見えた!FOOCOM.NET 
            http://www.foocom.net/column/editor/11805/

佐々木敏氏らの塩分の研究の要約   http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25111316
クックパッド アボカド入りポテトサラダ☆わさび風味  http://cookpad.com/recipe/1716687
香川芳子監修「食品成分表」女子栄養大学出版部(2011


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