オトナの食育 

所感編 第148回(通巻202回)2024/3/10号掲載 千葉悦子(高28)

初めての鯉料理


 

 今月、日本調理科学会関東支部講習会として、葛飾柴又にある川千家で、10代目社長 天宮久氏のお話の後、初めて鯉料理を賞味したので、その話題です。営利を目的としない同窓会での文章ゆえ、極力、特定の店や商品の宣伝をしない、という方針を心に留めてきましたが、学会の講習会として講演を拝聴したことも含むので、今回の話題にご理解ください。

 講演は「江戸の川魚の食文化を学ぶ」というテーマで、食事は「鯉のあらい」(薄切りにした鯉の切り身を流水や氷水でしめて、酢味噌やワサビ醤油などで食べるもの)と「鯉こく」、小ぶりの「うな重」と吸い物・香の物でした。今回は、酢味噌と穂紫蘇で「鯉のあらい」を頂きました。

川魚の泥臭さは「ゲオスミン」という物質により、「雨の後の臭い」や「アスファルト臭い」と言われるそうです。特に、鯉などの水底にいる魚に多く含まれ、200℃で分解することから、煮る温度では残ります。それで、きれいな水に川魚を入れて「泥を吐かせる」ことが、昔から行われてきました。

現在は、食用の鯉をコンクリートのプールで養殖するので、泥臭くないそうです。養殖ですから、エサも工夫するようです。なるほど、食べると泥臭さはありませんでした。とはいえ、私は初めてで慣れないせいか、正直なところ、鯉のあらいに酢味噌をたっぷりつけないと食べにくく感じました。

「鯉こく」はたいへん美味でした。長時間煮込むので、缶詰の魚のように皮や鱗も非常に柔らかく、内臓がトロっとして、しかも、よくある魚の味噌煮缶の塩味よりずっと薄く、程良い塩味や風味で、さすが、調理科学会の委員が選ぶ店の料理と感服いたしました。

川魚の料理を食べる人が減少すると、川魚の料理の文化が衰退するので、興味を持って頂くきっかけになるでしょうから、こうして書くのは意味があると存じます。

 最後に供された「うな重」は、塩味が濃くて、甘さ控えめに感じました。ただし、こういう味付けが、江戸時代から伝わる味なのでしょう。たれの風味も、これまで食べてきたものとは異なりました。それで、故郷である三島の桜家(鰻屋)の味が、自分にとっての鰻の蒲焼きの基準になっていると再認識しました。

 鯉も鰻も日常食ではないとはいえ、今回の体験も踏まえて、幼少期から育つ頃の食習慣や体験の重要さを訴えたいです。手作りを毎食、毎日行うのは大変で、外食や中食の利用もアリですが、選び方や食べ方にも注意を払いたいと改めて思います。その具体例は、別の機会にと存じます。

 柴又駅からすぐに帝釈天の参道となり、古い木造のお店が並び、そこで購入した草団子も美味でした。粒餡と漉し餡を選べて、心楽しい日となりました。なお、「食育」そのものではなくて恐縮ですが、若い人や外国人に昔の日本の風情を体験してもらうには、ピッタリの地域と感じました。帝釈天の木彫も手が込んでいて、近くに江戸川べりの広々した公園もあり、気分転換にもってこいの場所でした。


■主な参考文献

  天宮久嘉   「江戸の川魚の食文化を学ぶ―葛飾柴又の川魚料理―」
                   (講習会で配布された資料)




 「鯉のあらい」



「鯉こく」



「うな重」



川千家 (かわちや)
川千家(kawachiya)
東京都葛飾区柴又




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