オトナの食育 
資料編 第21回(通巻111回)2015/7/10号掲載 千葉悦子(高28)

松田友義編「食品の安全と安心 考える材料と見る視点」の薦め

   

 この本は、千葉大学園芸学部で行われている市民向けの公開講座「食の安全と安心Ⅰ・Ⅱ」のテキストとすることを意図したものです。いわゆる教科書的な、基礎基本を意識して書いていると思われ、分厚くない1冊だけで食の安全や安心に関して、基礎をもれなく知るのに適します。執筆者13名の内、顔を合わせれば私をすぐ分かってくださりそうな先生が6名いらっしゃいます。その6名のご講演を拝聴したことがあり、傾聴に値すると思います。
 千葉大学や食品安全委員会の講座、あるいは私の所属する「食のコミュニケ-ション円卓会議」の公開講座や例会等で、直接話を聴ければより良いでしょうが、お住まいが遠かったり、お仕事が忙しかったりで、直に聴くことが難しい場合、この本はお勧めです。

 私は数学や物理が不得意なので、「6章 放射性物質による食品汚染を考える」の章だけ、スッとは読めない部分もありましたが、他の章は「難しくて、なかなか次の行に進めない」ということはなかったです。また、物理方面のことがあまり理解できなくても読み物として読める部分が6章にも多く、特に知らせたい部分を抜き書きます。アンダーラインは、後述の3章からの引用部分も含めて、私が引きました。

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.64(小林泰彦氏)

食品の放射性汚染と食の安全
 20113月末からの放射性物質の「暫定基準値」も、翌20124月以降のさらに厳しくなった基準値も、子どもの健康にも配慮された、相当安全側に立った目安であり、ずっと食べ続けても問題ないと考えられるレベルである。基準値を少しでも超えた食品を食べてしまうと有害、と思うのは間違いである。(後略)

.6869

「放射線」を巡る真の「不幸」
(前略)
 今回の事故で深刻なのは、放射線による健康影響ではなく、避難生活や外遊びの制限、間違った対策などによる健康影響であり、家族の離散や土地利用の制限などの生活上の負担、生活習慣の荒廃と不安ストレスによる心理的・精神的影響である。これこそがチェルノブイリ事故の重要な教訓でありその教訓を日本で活かせるかどうかが今まさに問われている

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 どうしてこういう結論になるのかは、本書をお読みになってのお楽しみということにして頂きたいです。


 私はお話を拝聴したことのない先生方の章で、今回、特に皆様にお知らせしたいのは、
3章 農業の有効性(栽培)と安全性(残留)」の最後の部分です。

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.29(本山直樹氏)

食品テロと食品残留農薬は全く別問題
(前略)
 栽培段階で使用された農薬の収穫後の残留濃度は検出限界以下がほとんどであり、たとえ微量検出されたり、基準値を若干超えたとしても実質的に安全性に問題はない。したがって、無農薬栽培された農産物は農薬を使って栽培された通常農産物よりも安全であるとする主張には根拠がない。商品の差別化のために、いつまで国民をだまし続けるのだろうか。結局、登録農薬を適正に使用して栽培された通常農産物が一番安全で安心できるということに、国民ははやく気づいて欲しい。

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 農薬にせよ放射性物質にせよ、基準値の意味を知り「基準値を少しだけ超えた食品は大丈夫」と理解することは、リスクのトレードオフあるいは風評被害などの無用なパニックを避けることにつながります。さらに、国家や個人にとっての限られた収入の範囲で健康的に、しかも資源を大切にしながら暮らすのに役立ちます。これまでの「オトナの食育」で書いてきたことと重なるとは思いますが、今年出版された本書が良かったので、ご紹介しながら、食の安全について特に注意を払って頂きたいことを書かせて頂きました。

 この本が高校の図書室や各地の図書館にあると理想と私は思います。

引用文献
松田友義編「講座Ⅰ 食品の安全と安心 考える材料と見る視点」幸書房(2015

参考文献等
幸書房のホームページ
http://www.saiwaishobo.co.jp/books/#ID-20150210130004JST

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