松下政経塾30期生

         石井真人さん(高49)


 新年早々「維新政治塾」が設立されるというという報道がありました。そこで同窓会では、
 政界だけではなく、経済界他にも多くの卒塾生を輩出している松下政経塾の現役塾生で、
 今年3月卒塾予定の石井真人さん(高49)に急遽メールインタビューさせていただきました。


松下政経塾とは具体的にどのような所ですか?  

現在、塾には1〜3年生まで合わせて14人の塾生が在塾し、日々研修していま す。
全員が寮への入居が義務付けられています。それだけに、塾生同士は堅い絆で結ばれています。

毎年200人程度の志願者がいますが、入塾を認められるのは最近では、5〜6人程 度です。
審査の内容は1〜3次まであり、面接試験、筆記試験、宿泊試験等があり、
多面的に人を見て採用を行っています。
ただし、結果的に指導者としての資質が見つ からない時には一人も取らない可能性もあります。  

また、塾には専任教員はおりませんので、その都度塾生が求める識者を招いては講義を受けるという仕組みをとっています。
塾では何事においても自修自得という塾の 基本理念があり、自主性が重んじられます。
そのため、政経塾の2年目の途中から3 年目には、ほとんど塾内での研修はなく、自ら外に出て研修活動をおこなっていま す。  

その資金として、塾生はひと月に25万円(初年度は20万円)の生活費を支給して頂いています。
その資金の原資は、松下幸之助塾主松下電器が開塾時に投じた120億円を運用し、その運用益で賄っています。

☆政経塾に入った動機を教えて下さい。  

私には、一つ上に兄がいます。兄が就職する際も非常に苦労して、障害を持ってい る人にむしろ雇用の機会を与えなければいけないのにそういう人を排除する社会のあ り方に憤りを感じました。
そして自分で何かそういう人たちのためにできないかとい う思いが強まりました。
そこで最初の就職先として浜松市役所を選びました。  

浜松市役所を選んだもう一つの理由として、大学院で防災を専攻し、コンピュー ターを使って災害を把握する技術を研究していたため、大学院生の時から浜松市役所 の方と一緒に仕事をする機会があり、やはり人助けをする仕事っていいなと感じてい ました。
お金を稼ぐよりも弱者を助ける仕事が自分には向いていると思ったのです。  

浜松市役所ではまず防災対策課に勤務し、その時の仕事の1つに、災害が起きた時 の体制を作るということがありました。そのために、いろいろな部や課に協力を要請 したのですが、「防災のことは防災対策課でやってくれ」と取り合ってくれない状況 がつづきました。
「人事も財務もすべての部署が最終的に災害対応に関わることになるのだから、市民のために協力してください」とお願いしても、なかなか動いてくれ ない部署があった。
市民のための体制づくりであるにもかかわらず、「自分の仕事が 忙しくなるからできない」などと言われて、「それはちょっとおかしいじゃないか」 と強く感じました。

「なぜそうした体質になってしまうのだろうか」と考え続けて思 い至ったのは、役所の職員はずっと役所の中にいて、その内部のことしか知らない人たちが役所を動かしているということです。
「役所ってそういう組織だから、割り 切ってやっていけばいい」。それが楽な道であることも分かっていたのですが、「それで本当に市民のためになるのか」と自問した時に、「そうじゃない」と。  

そこで役所の特有の固定観念から自分を開放したいという思いが生じました。
その選択肢の1つとして考えたのが、民間企業です。
市の職員の中で民間企業の経験者は 非常に少なかったのですが、それらの方々と話してみると、市役所一筋の職員とはや はり視点が違う。そうした視点を自分も取り入れるべきだと考えたのですが、どこの企業に行けばい いかが分からない。

それならいっそのこと、複数の企業を俯瞰して見られるところに 行こうということで、慶応義塾大学ビジネススクールに入学しました。そこで私は、ビジネススクールの同期からプロフェッショナル意識の高さを学びま した。企業に勤めていてビジネススクールまで来るような人は問題意識も高く、プロ意識がすごくありました。  

翻って役所は、「俺は市役所の職員だからこれをしなければいけない」というより も、保身だけを考えている人が多いです。「市の職員は安定した職業だから、失敗し たくない」という意識が強く、「市民のためにお金をもらって仕事をしているんだ」 というプロ意識が足りないと気づいたわけです。
役所ではお金は降って湧いてくるんです。
予算という枠の中で「自由に使いましょう」という姿勢なので、お金を使うこ とに緊張感がない。
その緊張感というものを、ビジネススクールで初めて学んだわけです。  

一方で、「自分は企業に向いていない」と思わされる出来事もありました。
ビジネ ススクールの合宿に参加した時のことです。その際、大手都市銀行の行員の方と同部屋になりました。その人が夜中にうなされているのを 聞いたのです。「ウー」とうめいて飛び上がったりして。それが1週間、毎晩続きま した。事情を本人に聞いたら、「仕事で自分の思うようにいかないことがあって、そ のストレスから、寝ながら名刺を渡す仕草をしてしまったりする」という話でした。 お金を貸さなかったら、この人は明日にも自殺するんじゃないかと思うような人が目 の前にいても、貸しても利益にならないから、銀行の方針で融資をストップしなきゃ いけない。 「自分としては目の前の人を助けたいのにもかかわらず、会社の方針で助けられな い。それがビジネスマンなんだ」と聞いた時に、そこまでお金にシビアな世界は自分 には向いていないと思わざるを得なかった。  

むしろ、プロ意識には欠けていたけれども、自分が市の職員としてそれまでやって きたことは、市民の幸せを考えることだった。それをできた自分は非常に幸せな生き方をしてきたなと、改めて思いました。 企業よりは市の職員が向いている。でも、市の職員にはプロ意識が足りない。プロ 意識を持った職員になるにはどうしたらいいのかと悩んでいた時に、「素志研修プログラム」と呼ばれる松下政経塾の研修の一端を体験するセミナーに参加する機会を持 ちました。入塾するちょうど1年前のことです。

それに参加し、複数の現役塾生の方 と意見を交わした時に、自分の悩みや考えていたことを打ち明けたのです。
その際、 「志」について問われた。「志の軸となるものは、君の場合は何だ」と。  
そして「それをもっと突き詰めなさい」と言われた時に、自分に足りないもの、慶応のビジネススクールでも得られなかったものがここにあるのではないかと思ったのです。  
ビジネススクールにはマーケティングやファイナンス、組織論などいろいろな科目 がありますが、案外、教えてないのが経営理念です。
それは「志」と言い換えてもい い。そこの部分は、ビジネススクールで教える人もいません。  
そこで思ったのが、松下政経塾は念や自分の確固たるものを作れる場ではないか ということです。それなくしては先に進めないと考え、ほかにも行く先があるとも思 いましたが、最終的に松下政経塾に進むことを選びました。

☆入塾してよかった点、御苦労された点などありましたら  

一番よかったのは、自分と同じように社会を良くしていきたいという仲間に出会った事です。今まで自分は、一人で世の中を良くしていこうという気持ちが強かったように思います。でも、それでは何も変える事が出来ないという事にも気づきました。
強い「志」を持ち、それに共感してくれる仲間を増やして初めて、志の実現に近づく という事を、政経塾に来て初めて分かりました。  

政経塾の研修では、林業、農業、漁業、製造業の現場を見てきました。
そこでは一 生懸命働いていても最低限の生活をするのが難しい人にも出会いました。それが今の 現状です。
まずいなと第三者として見て思うだけでなく、当事者の目線で踏み出す必 要があると考え、自ら行動に移しKIZARAプロジェクトという組織を立ち上 げました。  
そこで、特に苦労したのは、レールが無い中で自ら道を切り開く「先駆開拓」をするという事に一番苦労しました。  

☆今後の進路はお決まりですか?  

今後は、在塾中に立ち上げた森林の活性化と障がい者や高齢者等の地域雇用の実現 を目指す団体、KIZARAプロジェクト (http://kizara.org)をNPO法人化し、そこを中心に環境と経済の両立を目指し、
私の志である「持続可能な活力のある地域社会の実現」に向け活動をする予定です。

石井さんにとって松下政経塾とは  

人間を磨き志を磨く道場です。
                       
お忙しい中、急遽のご協力ありがとうございました。卒業発表として、昨年9月にシンリン・カンファレンス2011を企画された石井さん。木を薄くスライスして作ったお皿KIZARAを頂きましたが、とても味のあるステキなものでした。
今後のますますのご活躍をお祈り申し上げます。

                             龍城のWA!