龍城のWA! 第45回-3  小池政就さん(高45・日本大学講師)
  
植物工場って何?
 今回は農業しかも工場生産という新しい体系についてご質問を頂きましたので、簡単に説明させて頂きますね。
 「なぜ小池が?」という声もあるとは思いますが、実はこの分野農業だけでなく商業工業連携する農商工連携の一環として注目され、小池が研究者時代にいち早く政策提言した分野でもあるんです。(詳細は日本経済研究センターの「若手研究者による政策提言」を参照ください。)
 最初は京都や千葉、福岡等で展開されていましたが、今では全国に広がり、すぐ近くの清水町卸団地でも(!)昨年から野菜を作る工場が稼働しています。


 それでどのように野菜を作るかというと、室内で最適な生育環境をつくりだすんです。
気温湿度にはじまり、野菜に与える肥料や照らす光の量と質二酸化炭素濃度全て人工的にコントロールします。例えば日光の代わりに蛍光灯やLEDを用い、土も使わずに水耕栽培で養分を送ります。

 そのため場所を選ぶ必要がなく、何と東京の丸の内のビル内でも生産されていたりします。
 その他のメリットとして、栽培日数がとにかく年間20毛作近くが可能で連作障害の心配もありません。また常に一定の質で安定して生産でき、収穫された野菜はそのまま食べられるほど安全です。更に通常の農業のような重労働では全くなく楽な姿勢で収穫や梱包に人手が必要となる程度です。

 私も何度も食べていますが、歯ごたえも良く、味でも露地物にもひけをとらないですね。それに光の質を変えることによって、栄養分まで通常より高めることも可能になります。例えば赤色の光だと葉が大きくなり、青色の光だとポリフェノールやビタミン等を増やす事もできます。

 ・・・と、良い事づくめのように聞こえますが、課題も当然あります
 まず最大の課題、生産コストですね。
設備にかかる初期投資に加えて操業にも電気料金がかさみます。
結果として生産される野菜が少し割高になりますが、一方で捨てる部分も少なく洗浄もいらない加工時のコストは低減できます。また政府は半分ほどの補助金を設定しており、他にも通常の露地栽培と同様の税制にする等の環境整備が進めば普及も進むのではないでしょうか。

 また、需要がしっかり確保できるかという点も課題です。
得てして技術が良ければ、商品が良ければ成功すると思われがちですが、実はこの需要が安定的に確保できるかが大事で、この点で多くの参入者が頓挫してしまうようです。
 そこでスーパー等の小売で安全面を重視する消費者に訴えるだけでなく、飲食店と連携して使ってもらう取り組みも進められています。私の知り合いはラーメン店とも一緒に商品開発を進めたりもしています。

 といった課題もありますが、何より企業にとっては事業計画が立てられる、という点が魅力であり、生産も全てデータ化していつでもどこでも同質の野菜が作られるというのは大きな強みですね。

 最後に、エネルギーを専門とする自分が提言し続けているのが、国内だけでなく国外での展開です。
特に食料問題が今後深刻化する世界で、現地の再生可能エネルギーを使った発電設備との組み合わせとてつもない可能性を秘めています。
 今は中国や中東諸国が食料生産のための農地を世界で買い漁っていますが、「新たな植民地主義だ」として問題になっています。また生産のための水の供給も大きな問題です。
 そこで、場所を選ばず、「水も施設内で循環してほとんどムダにすることのない植物工場」が、日本よりも発電できる太陽光風力を組み合わせればまさに地産地消で、今まで食料の輸送のために使われたエネルギーも節約することができます。
 私もドバイやサウジで調査した際、スーパーで売られている野菜の多くが輸入品で価格もそれなりにしたのが印象に残っています。特にドバイのモールは日本より余程高かったですね。

 また植物工場は日本では「野菜工場」として野菜生産が中心ですが、より強い光量や人工の土壌を使えば穀物の生産も可能です。

 国内の高齢化する農業へ企業参入を促す、設備やノウハウによって世界の市場を拡大し経済を活性化する、そして未来の食料・エネルギー問題解決の一途になる、いっぱいの夢が詰まっています。
 お近くのスーパーで見かけましたら、ぜひその夢も一緒に召し上がってください!

■編集者より■
わかりやすい説明に感謝です。長いですが(笑)、興味のある方や詳しく知りたい方には 本文中にもあるPDFの論文 を読んで欲しいですね!
 イメージとしては9ページの表10がとてもわかりやすいと思います。
この図を見て、「植物工場のコンテナ化をして被災塩害地域や福島で安全な野菜や穀物が収穫できれば新たなブランドが生まれる!?」と閃いたんですけど・・・
「それはもはや夢ではないかも?」ということですよね?
小池さんの論文は2009年のものだから、現在はもっと発展しているのでしょう?



■小池■
ありがとうございます。
被災地での取り組み、既に進んでますよ!
外食チェーンや地元の農家の方をはじめ、計画は着々と増えていますね。
先月には実際に着工も始まった案件もあります。
特区内で法人税や固定資産税の優遇が受けられたり、ファンドとして広くお金を集める仕組みを活用しながら、復興に向けて進められてますね。同じ被災地で今後期待される大規模太陽光発電との相性もばっちりです。
 東北産野菜にあった風評被害を吹き飛ばす新たなブランドとして、また国外に展開できるシステムの構築例として、今後も目が離せないですよ。


【オトナの食育】千葉悦子さんの感想

 以前、頂き物で、「工場で作った○○レタス」といった、生食用の球にならないタイプのレタスを食べました。十分おいしかったです。
 ただし、クイーンズ伊勢丹あたりで売っていたのを見たら、けっこう高価で、レタスの類が比較的安価な時期には手が出にくかったような記憶があります。
 とはいえ「高過ぎて使い物にならない」と、考えるのをやめたり、忌避したりするのではなく、柔軟に考えるのも大事と思います。
 急に、思いもよらない気候変動が起きたり、何年か前、実際、日本であったように、夏が暑過ぎたり、雨が多過ぎたりして、葉物がとれにくかったり、そういう、出来れば起きてほしくないことが起きても、安全な食料が確保できるとか、あるいは、いざとなれば外国に頼らなくても食料が確保できるとかも大事でしょう。
 また、中東諸国でも自国で野菜を作れるのは魅力でしょうし、それを支援する側に日本が立てれば、確かにビジネスチャンスも広がります。
 こういう考え方は、「工場で野菜を作る」という技術に限らず、他の技術にも言えると考えます。
「新しい技術は、なんだか怖くて嫌。今まで食料は日本において、なんとかなって来たのだから、何も新しい技術など開発しなくても良いのに・・・」と消極的・硬直的になっているのは問題と思います。
 柔軟に捉えながら、賢く暮らしたいものです。
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■編集者より■
「クイーンズ伊勢丹」は高級食材を取り扱っているので露地栽培野菜も高いです。
近い将来、近所の八百屋さんで普通に売られるようになるかもしれませんね。