「知的財産」、「知的財産権」の意味・種類のご紹介

                                       弁理士 林  實(高18

                                                        2020/2/20 龍城のWA! 掲載

   

第1 はじめに



 近年、しばしば「知的財産」、「知的財産権」の言葉を目・耳にします。
これらの用語は、書き手・話し手、各自夫々の意味を持っていると思います。
 これらの用語の意味は、必ずしも明らかでなく、どれほど定まっているのでしょうか。
 国語辞典記載のとおりと回答できますが、興味をお持ちの方に、法律的観点からご紹介させて頂きます。

 小生は、高18回の林 實と申します。韮山高校時代は、物理部に所属し、韮高アマチュア無線クラブ局(JA2YCZ)を創設致しました。(最近、韮高28年後輩の高田弁護士から、同人もJA2YCZのメンバーであったと聞き、感激でした。)
 高校入学当初は、このアマチュア無線の延長で、当時主流であった工学部(通信、電子、電気)に進学すると漠然と思っていました。しかし、高校後半には、社会に出る前に社会(世の中)のことを知る必要性を感じ、法学部が良いと思うようになり、受験勉強しないで入学できそうな大学の法学部に進みました。
 高校時代から、大学に行ったら勉強(学問)してみようと思っていました。
法学部に進むと、弁護士という職業の他に、法律・技術・語学を生かした国際的な職業として「弁理士」があることを知りました。そこで法学部在学中頃からマイナー法分野といわれていた「工業所有権法」、「無体財産法」(現 知的財産法)を勉強し、50年前(1970年)に、幸運にも弁理士試験(国家試験)に合格できました。
 そのためか、当時「特許日本一」といわれた企業の特許部(総勢約300名、年間特許出願件数約25,000件、1996年特許実施料収入約500億円*)への就職もスムースにでき、企業における知的財産業務と同時に又はその後、知的財産法について種々の大学の講師、経産省・特許庁関係事業の講師、文科省の産学連携コーディネータ、地方公共団体の講師、業界団体の講師、企業の講師、また、中国北京での日本知的財産法の講師(質疑応答要員)を経験しました。
 古希も過ぎ、大学講師の定年も過ぎ、振り返りますと、「韮高に行って良かった」と思っています。
 そこで、せめてもの恩返しとして、専門知識を生かした「知的財産」、「知的財産権」の法的観点から紹介(概説)をさせて頂きます。皆様のご参考になれば幸いです。

*荒井寿光著(元 通産省通商産業審議官、元 特許庁長官)「特許戦略時代」日刊工業発行



第2 知的財産、知的財産権の法的観点からの意味

Ⅰ 知的財産知的財産権の用語の沿革

  知的財産、知的財産権の用語が、法律条文に現れたのは、平成14(2002)に制定された知的財産基本法2条に規定されたのが始まりです。それまでは、工業所有権の保護に関する1883年のパリ条約(公定訳文)第1条に「工業所有権」(Droits de propriété industrielleの規定があり、また、特許法、実用新案法、意匠法、商標法を総称して、学問的に「工業所有権法」(Industrial Property Law)、更に、これに著作権法を加えて「無体財産法」と通称されていました。
 企業においても、特許部と称しながら、特許権の他、実用新案権、意匠権、商標権等も取り扱っていたため、近年では知的財産権部又は知的財産部と名称変更しています。
 なお、日本の法律用語は、制定の経緯から欧米語の造語的翻訳が多く、翻訳された日本法律用語の原語を知ると、理解が深まる場合がありますので、ご参考までに記しますと、知的財産は、Intellectual Property、知的財産権は、Intellectual Property Rightとなります。


Ⅱ 知的財産の法律的意味、内容、種類

  知的財産とは、発明、考案、意匠、著作物、植物の新品種、その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、 商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの 及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいいます(知的財産基本法2条第1項)。この知的財産が知的財産権の保護対象となります。

  この知的財産につき、次に種類分けして概説します。


1 人間の創造活動により生み出されるもの

  (1)発明
      発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいいます(特許法21項)。
      発明は、特許権の保護対象になり得ます(特許法68条)。
    発明を換言すれば、新しい技術の創作で、発明品としては、トランジスタ、IC(集積回路)、
    LSI(大規模集積回路)、ラジオ、テレビ、電子計算機、ディジタルカ
メラ、携帯電話、
    自動車、量子コンピュータ等があります。

   ・世界の発明王として、エジソン(Thomas Alva Edison 18471931)が知られています。
   その代表的な発明品としては、①蓄音機、②白熱電球、③映写機、
    ④電気自動車用ニッケルー鉄電池、⑤炭素マイク、⑥トースターがあります。

   ・日本の発明家としては、特許庁ホームページ(HP)では、次の十大発明家が紹介されています。
      ①豊田 佐吉(木製人力織機、特許第1195号)
      ②御木本 幸吉 (養殖真珠、  特許第2670号)
      ③高峰 譲吉  (アドレナリン、特許第4785号)
      ④池田 菊苗(グルタミン酸ナトリウム、特許第14805号)
      ⑤鈴木 梅太郎 (ビタミンB₁、 特許第20785号)
      ⑥杉本 京太 (邦文タイプライター、特許第27877号)
      ⑦本多 光太郎 (KS鋼、    特許第32234号 )
      ⑧八木 秀次  (八木アンテナ、特許第69115号)
      ⑨丹羽 保次郎 (写真電送方式、特許第84722号)
      ⑩三島 徳七  (MK磁石鋼、 特許第96371号)

   ・大村智博士(2015年ノーベル賞受賞者)の発明
    大村博士は、韮高旧学区(学区は撤廃されました。)の伊東の川奈ホテル(ゴルフ場)から
   採取した土壌中の微生物(放線菌)に基づき、アフリカや南米の熱帯地方に蔓延している
   河川盲目病(オンコセルカ症)の特効薬を発明し、延べ10億人以上を救い、人類の福祉と健康に貢献
   しました(2007年 レジオン・ドヌール勲章を受章)。
   また、この特効薬の特許実施料(ロイヤルティ)は、250億円以上で、研究現場に還流し、
   北里研究所を再建したとのことです。
      余談ですが、大村先生のノーベル賞受賞決定発表直後に、韮高同期(18回)の大川公一さんと
   共に、韮崎市の大村先生の実家や隣接する大村美術館を祝意も兼ね訪問しました。
     また、同期の樋口さんは、大村先生がストックホルムで購入されたノーベルチョコレートを頂いた
   とのことです。小生は、毎年川奈ホテルで、大村先生の業績を思い出しながら健康、友情を温めてい
   ます。

 (2)考案(実用新案)
     考案とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいいます(実用新案法21項)。
    法理論的には、発明を含みますが、実務的には小発明と捉えられています。
    物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案(実用新案)は、実用新案権の保護対象になり得ます
    (実用新案法16条)。

   ・有名な考案(実用新案)として特許庁HPでは、次の掲載があります。
    ① クイックルワイパー(掃除道具)出願人:花王 実用新案登録第2055025
    ② スタンパー(朱肉のいらないスタンパー)権利者:シャチハタ工業 実用登録第1120473

 (3)意匠(Design
     意匠とは、物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、
    視覚を通じて美観を起こさせるものをいいます(意匠法21項)。
       換言すれば、物品の外観に表された美感であり、概ね物品のデザインといえます。
      商品(例、自動車、ハンドバック)を選ぶ場合、同程度の品質・価格であれば、
    気に入るデザインの商品が選ばれる機能が財産的価値となります。
      意匠は、意匠権の保護対象になり得ます(意匠法23条)。

     ・有名な意匠としては、特許庁HPでは、次の掲載があります。
       ① 超立体マスク(権利者:ユニ・チャーム㈱)
       ② 電気ケトル(権利者:象印マホービン㈱等

 (4)著作物(Work
   ① 著作物の意義
       著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲
     に属するものをいいます(著作権法211号)。
       具体的には、小説、脚本、論文、講演、音楽、舞踏、絵画、版画、彫刻、建築、地図、映画、
     写真、コンピュータプログラム等があります(著作権法10条)。
     著作物は、著作権の保護対象となり得ます。

   ② 著作者
     著作者とは、著作物を創作する者をいいます(著作権法212号)。

        韮高同期(18回)で有名な著作者として、金属造形家の鈴木丘さんがいます。
     狩野川千歳橋(伊豆長岡)近くの堤防に鈴木さんの作品(著作物)が設置されています。
     その他に、首相官邸にも飾られていると本人から聞いています。
        また、同期(18回)で、多くの著書が有る大川公一さんがいます。
     例えば、
「無欲越え 熊谷守一 評伝」(求龍堂)があり、美術館売店の本棚に置かれています。
       更に、他の有名な著作者(彫刻家)として、旧制韮山中学の同窓生の澤田政廣氏(文化勲章
     受章者)も忘れてはならない方です。韮高在学時代、確か正面玄関横に立派な木彫の女性像が
     なぜか飾られ、不思議に思っていました。後に、著作者が、同窓生と知り、納得しました。
    (他の作品例としては、韮高同窓生なら全員知っている江川担庵公胸像があります。)

     なお、著作物(work)は、玄人(プロ、専門家、芸術家)の創作的表現と思いがちですが、
素人(アマチュア)や子どもの創作表現でも(全くの模倣でなく、個性の発揮があれば)
著作物になり、創作者となります。「著作物」の法律用語は、「作品」(work)程度と考えた方が、
適切なようです。

 (5)植物の新品種
 植物の新品種は、育成権の保護対象になります(種苗法)。
登録品種の例として、農林水産省HPの育成権の紹介個所に、次の3件が掲載されています。
① コシヒカリ新BL(おいしさを保ったまま、病気に強い稲)
② シャインマスカット(皮ごと食べられるマスカット(葡萄))
③ ぽろたん(渋皮が簡単に剥ける栗)

 (6)その他(例、回路配置)
    回路配置とは、半導体集積回路における回路素子及びこれらを接続する導線の配置をいいます
   (半導体集積回路の回路配置に関する法律2条2項)

     半導体集積回路は、小型化、処理速度の向上、動作安定が求められ、そのための効率の良い
    回路配置が必要となります。回路配置は、回路配置利用権の保護対象になり得ます
   (半導体集積回路の回路配置に関する法律11条)。

2 事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの〔標識〕

 (1)商標(Trade mark
     商標とは、商品又は役務(サービス)を区別するために使用する標識で、文字、図形、記号だけ
    でなく立体的形状、色彩、音も構成要素となります(商標法21項)。この商標のことを
   「ブランド」ともいっていましたが、最近、ブランドは、より広義に捉え、標識(マーク)の価値を
    重要視した企業イメージ総体として捉えられるようになってきました。
    商標は、商標権の保護対象となり得ます(商標法25条)。

 ・世界のブランド価値トップ10等が、20191017日 日本経済新聞に掲載されていました。
 次のとおりです。
  1位 アップル、2位 グーグル、3位 アマゾン、4位 マイクロソフト、
  5位 コカ コーラ、6位 サムスン、7位 トヨタ、8位メルセデス・ベンツ、9位 マクドナルド、
  10位 ディズニーとのことです。


10位以下の日本企業のブランド価値では、21 位ホンダ、52位 日産、56位 ソニー、
  61位 キャノン、81位 パナソニック、89位 任天堂とのことです。
・「ゼロックス」ブランドの富士ゼロックス社の使用料は、1年で、100億円強と報じら
  れています(202016日 日本経済新聞)。

・地域ブランドによる地域の活性化
 韮高旧学区の周知商標(需要者の間に広く認識されている商標)の例として、
 ①「三島馬鈴薯」(商標権者:三島函南農業協同組合、商標登録第5457531号)、
 ②「みしまコロッケ」(商標権者:三島商工会議所、商標登録第5912295)、
 があります。
  これらの商標登録は、平成17年、26年の商標法一部改正に伴う地域団体商標制度
(商標法7条の2)を機敏に活用したもので、地域おこしに貢献しています。
  この法改正の機敏な活用(地域産業の活性化)は、同窓の三島市長、副市長(当時)、
 経済部長(当時)等の英断によるものと、頼もしく思っています。

(2)商号(Trade name
    商号とは、商人(例、株式会社)が自己を表示するための名称をいいます。
    具体的には、会社名、屋号等です。
    
商号は、商号権(商法12条、会社法第8条)、不正競争防止法(2条)により保護されます。

      実務的には、会社が取り扱う商品又は役務について、会社名又はその略称(「株式会社」
    の部分を除いた主要部)の商標登録をお勧め致します。

(3)周知商品等表示等
     周知商品等表示とは、周知の人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは
    包装等をいいます(不正競争防止法211号)。この周知商品等表示等は、不正競争防止法
    により保護されます。



3 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報

  営業秘密

   ① 営業秘密の意義
     営業秘密とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術
    上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法26号)。
    従来、ノウハウ(know-how)と通称さていました。
      具体的には、製造ノウハウ、設計図、販売マニュアル、顧客リスト等です。
   ② 営業秘密事件例
      新日鐵住金(現 日本製鉄)は、2012年自社の電磁鋼板の技術を盗まれたとして、
      自社退職者と韓国の鉄鋼メーカーのポスコを訴えました。
    韓国ポスコとは、約986億円の賠償請求に対して300億円の和解金で、和解が成立したとのことです
    (2017101日 日本経済新聞、渋谷孝弘著「日韓産業スパイ」日本経済新聞出版社)。



Ⅲ 知的財産権の法律的意味、種類

   知的財産権とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、育成者権その他の知的財産に
  関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいいます
  (知的財産基本法2条2項)。


  この知的財産権につき、次に種類分けして概説します。

1 特許権

 (1)特許権の意義
    特許権は、知的財産権を代表する権利です。
      特許権は、特許発明(特許を受けている発明)の実施を独占することを内容とし、排他的効力
    を有する権利です。
この権利の存続期間は出願の日から20年で、延長が可能です
    (特許法68条、67条)。

 (2)特許制度の趣旨(特許権で発明を保護する意味)
    特許権で発明の保護をする趣旨は、発明(新技術)の公開の代償として、一定期間、一定条件
    の下に特許権を付与し、この公開される発明の利用の機会を与え、発明を奨励し、技術の進歩
    を図ることにより、産業の発達に寄与することにあります。産業の発達は、人類幸福福祉の
    増進に繋がります。

 (3)特許権侵害の法的救済等
   ① 民事上の救済
      特許権は、排他的効力を有することから、無権原(無権限、正当な理由なく)の他人の
    実施は禁じられます。
       権原とは、ある行為を正当化する法律上の原因(title)をいいます。
      正当な理由なく他人の特許発明の業として実施は、特許権侵害となります。
      特許権者は、侵害者に対して、差止請求権(特許法100条)、損害賠償請求権(民法709条)、
    不当利得返還請求権(民法702,704条)、信用回復措置請求権(特許法106条、民法723条)を
    有します。
   ② 刑事罰
      特許権を侵害した者は、10年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金又はこれの併科となり、
    両罰規定として法人に対して3億円以下の罰金が科されます(特許法196条、201条)。
  ③ 税関による輸出入の差止
    税関で特許権等侵害品の輸出・輸入の差止ができます(関税法69条の269条の11)。
   この輸出入の差止の規定は、各国にも存在し、貿易戦争の手段として用いられるようになりま
   した。

・小生は、企業在職中、日本の半導体は、有力米国企業の特許権を侵害する不公正輸入であると
して訴えられ、米国への輸入が税関にて差止めされるか否かの裁判で、米国の首都ワシントンD.C.
に何度も出張した思い出があります(ITC訴訟,International Trade Commission,
米国国際貿易委員会 米国関税法(Tariff Act)337条の執行機関)。

 このような輸出先国の輸入差止問題の予防のため、三島商工会議所では、中国で好評であった
「みしまコロッケ」の中国における商標登録をしました(商標登録第19095211号)。

(4)発明の特許権による国際的保護
    今日、発明は国際的に利用され、特許権により国際的に保護される必要があります。
     そこで、国家間の約束、即ち条約締結により外国に特許出願し、特許権取得が可能となります。
     日本が締結している特許権等に関する主な条約には、次のものがあります。
    ① パリ条約(工業所有権の保護に関する1883年のパリ条約)
      1883年(明治16年)条約創設、日本1899年(明治23年)加入、加盟国177か国
     ② 特許協力条約(PCT Patent Cooperation Treaty
        1970年(昭和45年)創設 日本1978年発効 加盟国153か国
 
 
(5)特許権侵害の裁判例(切り餅事件)
    越後製菓㈱は、自社の切り餅がきれいに焼ける「切り込み」技術に関する特許権
   (特許第4111382号)を侵害するとして、佐藤食品工業㈱を訴えました。
    第1審の東京地方裁判所は、特許権侵害を認めませんでした
    (東京地方裁判所 平成21年(ワ)第7718号)。
    第2審(控訴審)の知的財産高等裁判所は、特許権侵害を認め、佐藤食品工業に切り餅の
    製造・販売禁止と約8億円の賠償を命じました
   (知的財産高等裁判所 平成23年(ネ)第10002号)。


2 実用新案権

 (1)実用新案権の意義

実用新案権は、登録実用新案の実施を独占することを内容とし、排他的効力を有する権利で、
存続期間は出願の日から10年です(実用新案法16,15条)。

 (2)実用新案制度の趣旨(実用新案権で実用新案を保護する意味)

実用新案制制度の趣旨は、特許制度の趣旨と同様です。更に述べますと、明治、大正、昭和
の時代は、発明の水準を高く維持すると同時に技術思想の創作意欲の減退を防ぐ意味もありました。
しかし、平成5年の実用新案法の一部改正において、登録要件の実体審査を廃止したことに伴い、
ライフサイクルの短い技術の早期権利化等の現代的意味を有することになりました。

 

3 意匠権

 (1)意匠権の意義
      意匠権は、登録意匠及びこれに類似する意匠の実施を独占することを内容とし、排他的効力を
    有する権利で、存続期間は設定の登録の日から20年です(意匠法23条、21条)。

(2)意匠制度の趣旨(意匠権で意匠を保護する意味
      すばらしい意匠(デザイン、美感)の商品は、需要者の視覚を刺激し、需要を喚起し、
    その商品の生産の増加に繋がります。その意匠を意匠権により保護することにより、意匠の創作
    を奨励し、産業の発達に寄与することになります。

(3)意匠権侵害の裁判例

① 体重計デザイン事件(体重測定機付体組成測定器
     オムロンヘルスケア㈱は、自社の体重測定機付体組成測定器の意匠権(意匠登録第1425652号)
    を侵害するとして、㈱タニタを訴えました。
    東京地方裁判所は、意匠権侵害認め、㈱タニタに129153662円+遅延損害金(年5分)を
    支払えとの判決を下しました(東京地方裁判所 平成24年(ワ)第33752号)。

   ② スーパーカブ事件(自動二輪車、オートバイ)
      本田技研工業㈱は、オートバイの意匠登録第146113号の意匠権(正確には訴外本田技研研究所
    から設定された専用実施権)を侵害するとして、鈴木自動車工業㈱
を訴えました。
    東京地方裁判所は、意匠権(専用実施権)の侵害を認め、鈴木自動車工業㈱に7億6100万円+
    遅延損害金(年5分)を支払えとの判決を下しました
   (東京地方裁判所 昭和43年(ワ)第11385号)。
   
  ちなみに、この意匠の創作者は、本田宗一郎氏でした。なお、現在では、この意匠権は消滅しま
    したがこのスーパーカブの立体的形状は、商標(立体商標)として登録されるに至り
    (商標登録第5674666号)、更新により半永久的な権利となりました。

自走式クレーン事件
     ㈱神戸製鋼所は、自社の自走式クレーンの意匠権(意匠登録第766928号)を侵害するとして、
    ㈱加藤製所を訴えました。
東京高等裁判所は、意匠権侵害を認め、㈱加藤製作所に4億5117万円
   +遅延損
害金(年5分)を支払えとの判決を下しました(東京高等裁判所 平成9年(ネ)第404号)。

4 商標

 (1)商標権の意義
      商標権は、指定商品又は指定役務(サービス)について登録商標の使用を独占することを内容
    とし、排他的効力を有する権利で、存続期間は設定の登録の日から10年で、更新可能です
    (商標法25,37,19条)。

 (2)商標制度の趣旨(商標権で商標を保護する意味)
     商標に化体される業務上の信用を商標権で保護することにより、一定の商品又は役務は一定
    の出所から提供されることを確保することとなります(出所表示機能、品質保証機能)。
    この商品又は役務の取引秩序を維持することにより、産業の発達の寄与し、あわせて需要者の
    利益を保護することになります。

 (3)商標権侵害に関する裁判例の概要(韮高旧学区の事件)
 
   ① 熱海の「天の川」饅頭事件
     被控訴人の営業努力により名声を得た商標「天の川」を利用するために、訴外明治製菓㈱
    から商標「銀河」の商標権を譲り受け、この商標権を侵害するとして、競争相手の商標
   「天の川」の使用差止を裁判所に求めました。
       最終的には、東京高等裁判所は、商標権を譲り受けた商標権者(控訴人)の行為は
   権利濫用として、商標権侵害を認めなかった珍しい事件です。
     〔東京高等裁判所 昭和30628日判決、昭和28年(ネ)第2096号〕

     小生は、半世紀前に、この権利濫用の法理を用いた判決に接し、感動しました。
    熱海に行くと、この判例を思い出し、「天の川饅頭」を土産として購入しました。
      

② 函南の「湯~トピアかんなみ」事件
      山梨県で温泉ホテルの経営等をしている㈱湯-とぴあは、函南町の入浴施設の提供、送迎バス
    等に「湯~トピア かんなみ+花(ハコネザクラ)図形」標章の使用は、自社の商標権
    (商標登録第3112304号、商標「ランド健康パレス 湯~と
あ(二段書き)」)を侵害
    するとして、訴えました。
       1審の東京地方裁判所は、商標権侵害を認め、差止請求と損害賠償請求(約8400万円)
    を認めました(東京地方裁判所 平成25年(ワ)第12646号)。

       函南町は、この判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴しました。
      2審(控訴審)の知的財産高等裁判所は、「函南町の標章(商標)の使用は、商標権を
    侵害するものではない。(両商標は、非類似)」と判断し、差止請求、損害賠償請求は、
    棄却され、認められませんでした知的財産高等裁判所平成27年(ネ)第10037号)。

 (4)商標トピック(ロイヤルティ-)

      英国ヘンリー王子夫妻の英国王室(Royal Family)離脱が話題となっています。
    これに加えて、離脱後の収入源として、ご自分の爵位「SUSSEX ROYAL」を商標登録し
   (出願番号:英国UK00003408516)、商標使用料(ロイヤルティ-、Royalty)を年約106億円得る
    との報道がありました。


     小生は、商標の財産的価値に着目した点で感心し、Royaltyの意味は、「使用料」の他に「王族」
   の意味が有り、その語源はRoyal(国王の、王室の)と辞書で見た覚えがありますので、
   妙な納得感が湧きました。


5 著作権

 (1)著作権の意義、種類
      著作権とは、著作物の利用を独占することを内容とし、排他的効力を有する権利です。
    この権利の存続期間は、著作物の創作の時から原則著作者の死後70年です
    (著作権法17条、51条)。
      著作権の内容・種類には、支分権として複製権(著作権法21条)、上演権及び演奏権
    (同法22条)

    上映権(同法22条の2)、公衆送信権等(同法23条)、口述権(同法24条)、
    展示権(同法25条)、頒布権(同法26条)、譲渡権(同法26条の2)、
    貸与権(同法26条の3条)、翻訳権、翻案権(同法27条)、
    二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法28条)があります(著作権法17条)。
      したがって、法律上「著作権」は、上記の支分権の束となります。

 (2)著作権制度の趣旨(著作権で著作物を保護する意味)
      著作者に、その著作物について独占排他権を付与して保護することにより、創作活動の基盤を
    提供し、文化の発展に寄与することを目的としています。

 (3)著作権の発生時期
      著作権の発生には、他の知的財産権と異なり出願、審査、登録を必要としません(無方式主義)。
    著作権は、著作物の創作により発生します(著作権法51条)。

 (4)著作物の国際的保護(条約)
    日本の著作権の効力は、外国に及ぶでしょうか。
      日本の法律の効力は、日本の主権の及ぶ範囲(領土)に限られますから、米国、中国、英国、
    ドイツ その他の外国には及びません。
      今日、著作物(音楽、映画、コンピュタプログラム等)の利用には国境なく国際的に利用
    され、国際的に保護される必要があります。

    そこで、日本の著作物を外国で保護するためには、外国と約束、即ち条約を結ぶことに
    より、外国で保護されることになります。この反面、外国の著作物も、日本で保護されること
    になります(日本著作権法5,6,憲法982項)。

 ・日本が締結している著作物の保護に関する主な条約には、次のものがあります。
         ベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)
            1899(明治19年)創設、日本1899年(明治32年)加盟、177か国締結
       ② 万国著作権条約(UCC)
            1952(昭和27)成立、日本1956年(昭和31年)加盟、100か国締結
       ③ 著作権の関する世界知的所有権機関条約(WIPO著作権条約)
             1996年(平成8年)採択 日本2000年(平成14年)6月批准、192か国締結
       ④ 知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)
            日本1995年(平成7年)11日発効 160か国締結
       ⑤ 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP協定)
            日本2018年(平成30年)1230日発効(米国未締結 トランプ政権)

 ・条約の有無トピック
    今年(2020年)の正月は、条約の有無をめぐり、騒然とした事件が起こりました。
    それは、日本における被告人(著名な元経営者、保釈中)が、日本から密出国し、レバノンに
    逃亡し、現地で自由を満喫していることです。
    日本とレバノン間には、犯罪容疑者の引き渡しに関する条約が締結されていないため、
    容疑者の日本への引き渡しが義務付けられないことが明らかになり、条約が再認識されました。

  () 著作権侵害の裁判例(映画「ローマの休日」事件)
     映画「ローマの休日」の著作権者と主張する米国パラマウント・ピクチュアズ・コーポレーション
    は、この映画の著作権(複製権及び頒布権)を侵害するとして、日本企業に対し、この映画を複製
    したDVDの製造・販売の差止め及び廃棄等の訴えを起こしました。
      東京地方裁判所は、所管官庁の文化庁著作権課の著作権は存続するとの見解に反し、本件映画の
    著作権は、平成151231日に満了し、消滅したと判断し、著作権侵害を認めない判決を
    下しました
    (東京地方裁判所 平成18年(ワ)第2908号、東京地方裁判所平成18年(ヨ)第22044(仮処分))。

   ・余談ですが、映画「ローマの休日」に関連して、次の思い出があります。
    韮高在学中(約55年前)、クラスメートのKさんは、教室内に映画雑誌を持参し、休み時間中に
   映画「ローマの休日」
(ラブコメディー)の主演女優の名前を「オードリー・ヘップバーン」
   連呼し、彼女の写真を小生共に自慢げに見せてくれたことを思い出します。
      また、小生が、知的財産事件の解決のため、英国ロンドンに出張した際、由緒ある家柄の上品
   な英国弁護士に、「オードリー・ヘップバーン」さんのファンと伝えたところ、その英国弁護士に
  「Audre hepbun」の発音が違うと指摘された恥ずかしい思い出があります。更に、その英国弁護士に
   彼の法律事務所近隣のオードリー・ヘプバン主演の映画「マイフェアレディ」(My Fair Lady)の
   撮影現場(花市場での花売り娘のシーン)に案内して頂き、親睦をより深めた思い出があります。
   まだ、これらの映画をご覧になっていない方には、一見をお勧め致します。

 
(6)著作権侵害の現代的注意事項
  著作権法一部改正により、いわゆる違法ダウンロードをすると(私的使用目的であっても)、
   刑事罰が科されますので、「うっかり違法ダウンロード」に、ご注意下さい(著作権法1193項)。


6 育成者権

   育成者権は、登録品種等の使用を独占することを内容とし、排他的効力を有する権利で、
   存続期間は、品種登録の日から原則25年です(種苗法2019条)。



7 上記1~6の他の知的財産に関して法令により定められた権利又は
    法律上保護される利益に係る権利
には、次のものがあります。

 (1)商号権
     商号権は、不正な目的をもって、他の商人と誤認されるおそれのある名称又は商号を使用されない
    権利で、排他的効力を有する権利です(商法12条、会社法8条)。

 (2)回路配置利用権
      回路配置利用権は、登録回路配置の利用を独占することを内容とし、排他的効力を有する権利で、
    その存続期間は設定の日から10年です(導体集積回路の回路配置に関する法律第11条、10条)。



第3 おわりに

1 日本の将来

今後、日本がより発展し、幸せな国となるには「知的財産権」を疎かにできないと考えます。
現在の日本は、知的財産活動(例、技術開発等)について、米国・中国に遅れを取っているように
感じられ、気掛りです。これが杞憂であれば幸いです。

2 韮山高校同窓会の皆様へのメッセージ

    皆様が、事業を開始する場合又は事業を継続する場合は、他人又は他社の知的財産権の侵害を
しないようご注意下さい。知的財産を侵害しますと、事業の停止につながります。
 その対策として、知的財産権の調査・確認をする必要があります(特許法103,100条等)。
知らないでは済まされません。CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任、
倫理法令遵守)時代になっています。

 今日の自由競争社会において、知的財産権は、模倣・盗用を防止し、経済的利益を独り占めできる
法的独占が認められています。この知的財産権をもっと活用すべきと考えます。勿論、独占禁止法
の適用除外(独禁法23条)となっています。

 企業、国として、知的財産制度を熟知・活用しなければ、これからの時代を幸福に生き残れない
と思っています。

3 現役韮高生へ

   「弁理士」(Patent Attorney)という、法律・技術・国際能力を生かせ、
社会に貢献する職業があることを知って頂ければ、幸いです。
                                                                    以上