輪が 自由勝手旅の醍醐味

第21回 
ITALY再訪・ヴェネチアからフェレンチェ・ナポリ・シチリア☆2001/FEB
2008/5/10号掲載  栗原 一 (高2回卒)


ヴェネチア仮面フェスティヴァルの会場 サンマルコ寺院の前にて
自作能面 乙姫と般若をつけて デモる

















































      









 この年、以前から念願だったヴェネチアの仮面フェスティバルに参加するプランを立ち上げ、長靴国土の先端シチリア島まで南下する5週間の、貧乏人には不向きなコースを練りました。今号はイタリアを縦断する欲張った日程で、とても訪問地の各所を紹介する紙数は有りませんので、特に印象に残った地点とイタリア人の個性的キャラクタの切り口を勝手流に記述したいと思います。

 仮面祭りに参加するには小さな人工島の何処かにホテルを確保するのが最低条件です。駄目なら本土から鉄道かバスで通う面倒な事になります。ホテルが予約し難いのは、常連さんが毎年チェックアウト時に来年のリザーブを済ませてしまうからと知りました。私達は幸運にもキャンセル待ちで落手、しかも会場のサンマルコ広場に100mと近いホテルでした。仮面祭りは一週間開催で初日の朝、ホテルの前の路地は観光客の列が出来ていましたが急がず笑顔の余裕でした。性急な日本人には見られない光景でした。私達もルパンタイプの眼鏡マスクを付けて会場に行きますと、既に多勢の仮面を着用した参加者が各所でカメラのモデルになっています。自信ありの人々は常連らしくカップル有り、グループ有りでドッカーレ宮殿やサンマルコ寺院の階段などでポーズを決めています。
たそがれになって私達もコスチュームを変え、絶対に同類のいない能面のマスクを着用して会場に向かいました。私は般若、ワイフは乙姫を選びましたが勿論制作者は本人です。もっとも私の般若は荒彫りしただけで面相・毛描き・仕上げはワイフですが・・・殆どの人が初見参だったでしょうから怪訝の表情でした。
 三日目モータボートで1km沖のムラーノ島に渡りガラス工房をみました。ヴェネチアンガラスの作品が眼の前で職人芸によって次々と造形されます。特に馬や犬など動物の躍動感の表現には唸りました。その後骨董市で求めた姿見は我が家で一番の値打ち品かも・・。
運河を漕ぐシンボルのゴンドラにも乗りましたが最低料金が2万円というご祝儀相場にも驚きました。千秋楽の日は雪となりヴェネチアはベニスらしい化粧を見せてくれ満足感をもって列車の人となりました。

 走り出して間もなく雪も消え春らしい景色の街フィレンチエに着きました。TAXIで山の中腹に建てられたヴィラ・フィエゾ−レという名前にふさわしいホテルに降り立ちました。荷物は階段に沿ったリフトでフロントに運ばれます。観光には少し不便だと思いましたが部屋に案内されて総てに満足しました。バスルーム、レストランの雰囲気、ルームサービス皆洗練されたプロ意識で統一されていたからです。
この街の象徴はウイッツィ美術館、ピッティ宮殿、ドーモ、ヴェッキォ橋でしょう。入場するのに2時間も並んでボッチェルリの「ヴィーナスの誕生」の前に立った時は半時間も離れ難かったのです。展示室に入ってきて立ち止まらず素通りして出てゆくのは日本人らしき人ばかりでした。

 快適なフィエゾーレホテルに連泊してドーモの佇まいやヴェッキォ橋の賑わいを後に列車で300km南下、ローマに入りました。駅から徒歩10分の便利なhotelサンレモにチェックイン、ぐっと格が下がっても我慢。救いはレストランのウエイトレス。その笑顔にハムもチーズも味が判らず呑み込みました。お手軽に地理を知るため市内観光のバスに乗りましたが、円形コロッセオの見学時間が20分で次の三越ローマ店が2時間との馬鹿らしさに降りて歩く事にしました。トレビの泉の横で駐車違反の取締り実演を観て、フランス広場の路上卓でランチを註文、隣の卓の女性客が洗面器に山盛りのグリーンサラダを平らげるのをドキュメントで見物しました。 翌日フォノロマーノを一日かけて見学した帰路、煙草やバスの回数券を売っている店で絵葉書用の切手を買おうとしました。枚数を問われて「20枚」と答えましたら「No!」 理由を聞くと「後の人が困るから!」眼の前に余分が有るのにですヨ。やっと10枚売って頂きました。日本では想像も出来ない事ですが2001年の現実です。

 筆を進めないとマフィアの島シチリアまで到達しませんから加速しますが、自由勝手旅でないと前述したような見物や体験には遭遇しません。Hotelサンレモにスーツケース一個を預けテルミニ駅から200km。ナポリに入り、湾からヴェスビオス火山まで見える眺望の良いhotelに第一泊。それに地下鉄の駅まで徒歩5分バス停も近いし山上には古城や商店街もあって散歩も出来るロケーション。近郊観光には大変便利と納得。

先ずは世界的遺跡ポンペイに出掛けました。ローカル電車で指しゃぶりしているマザコンの青年を横目で見ながらシチリア行きであろうフェリーの大きさなどを話している内に駅に到着。遺跡に入り案内図を見ながらこんな街並みを一瞬にして埋め尽くしたヴェスビオス火山を背景に、2000年前ローマ人により建設された古代都市を自分たちの脚でたどり歩きました。敷石に深く残る輪だちに誘われて・・・ナポリ湾に突き出した卵城への橋を渡って行く私達を、ゲート側にいたTV局のカメラが撮影、ちょっとした取材に応じた後城に入ると、アンテイ−クなコスチュームを飾った室に三人の女性、興味有りげに笑顔で「チャオ!」この城を舞台に上演される「トスカ」のアリア「星は光りぬ」を唄いますと大喜び!ワイフの帽子を指さし「そのキラキラシャポーちょっと被らせてヨ」並んで4ショットの後彼女らとワイフの合唱で別れを惜しみました。

 長靴に蹴られたシチリア島へは、時間が掛かりますが鉄道にしました。船を辞めたのは夏まで待てなかったからです。車輌は個室で快適でしたし、途中から同室になった二人組の女性とも歌でご縁が重なりました。アルゼンチン出身のたくましく生きる出稼ぎウーマンでした。本土と島の鉄道連絡フェリーは海上より列車の乗降作業の方が何倍も時間が掛かり日本の海底トンネル技術の優秀さを再認識しました。
 シチリア最大の街パレルモに到着。船なら4〜5時間なのに11時間を要し、名門Hotelグランドデ・パルメにやっと着きました。クラシックなパレス風装飾の建築で白やマーブルの大理石が多く用いられていました。街に出ると多様なデザインのアンテイック建築物が、ブロック毎にしっかり保存され眼を愉しませてくれます。車やスクータの交通が多いのに犬たちが悠然と車道に寝ているのが人間愛の豊かさを教えてくれます。シチリアは地中海でも最大の島で紀元前からギリシャの影響強く、ローマ時代やイスラム文化の残した遺跡も各地に発見され、イタリア本土とは異なる文化が育っていたのです。ヨーロッパ最高峰の活火山エトナも白煙を吐き、それを背景にタオルミナには最大級のギリシャ劇場が保存よく残され、シラクーサにも円形劇場や美術館があり、東海岸のアグリジェントはローマ時代の神殿遺跡が林立し、被写体は無限でした。

 雪のヴェネチアから南端のシチリアまで来ますと、砂浜にビーチパラソルが並びサーフィンを愉しむのも見られ一ヶ月で四季を感じました。
 今度の自由旅で最も強い印象を受けたのは「世界一野次馬的好奇心の強い性質を持った国民である」と感じました。一般的には陽気で開放的で屈託の無い人種と思われていませんか?ところが私達に見せた一般市民の反応は想像を絶するものが有りました。地下鉄のホームに立てば臆せず2周回する人、バス停に立てば自家用車が徐行し、中にはバスにお構いなく停車し友人・家族が観察し終わるまで走り出さなかったり、バスに乗って運転士の横に立てば交差点の真ん中で正面に停車したドライバーが此方を見上げて、首を振りハンドルを叩き、後続車が渦巻き状態になっても平チャラ!オープンレストランの歩道側のテーブル客が、フォークを置き一斉に注目したり、好奇の態度を示すのはインド人以上だと思いました。「イタリア人は美に対する好奇心が非常に高い」と言われています。決して私達が奇妙な態度を取った訳では有りません。美術館の中で展示されている絵や彫刻をスケッチしている若い人達の多いのも頷けます。「屋根の無い美術館」イタリアは無限の芸術性の連続と、飽きない人間性の切り口を満喫させてくれた5週間でした。


ローマ郊外のアステカ・アンテカ遺跡の 劇場入り口です


シチリア島北部の遺跡タオルミナを巡った時の観光タクシー。
ベンツでしたけどドライヴァーの運転テクニックに舌を巻きました。
     サイドミラーに3aの余裕があれば何処でも自転車なみに走り抜けます。