輪が 自由勝手旅の醍醐味

第16回  
☆トリコロール訪仏/TGV・ロワール地方・モンサンミシェル☆(1997/Winter
2007/12/10号掲載
栗原 一  
  (高2回卒)


かなり揺れた乗り心地でしたけど、速かったですね!
着いたら よろしく    マロン













































      



















古城と言えばヨーロッパ それも由緒あり、美しく、城史に話題性を持ってと思いを巡らせるとノイッシュバン城に代表されるドイツと方向性が強くなりますが、シーズンから考えて寒気の厳しそうなイメージが足かせとなり、今回はフランスのロワール地方に決めました。それも城宮殿を兼ねたホテルも加えて選択したのです。ヨーロッパへ飛ぶAirラインで最格安のロシア・アエロフロートに初めて矢を立てました。北極に近い自国土の上空を縦断してフライト出来るコースを独占するので可能な運賃なのでしょう。それでも国際線なので、旧式なツボレフやイリューシン機ではなく、機体はエアバス社製でムソログフスキーとニックネームが付いていました。

 成田APを離陸してから日本海を北西に飛び、カムチャッカの西側からシベリアを経由、ロシアの友人ユーラの住むウラル山脈を一気に越えて、10時間足らずでモスクワに着陸しました。パーサーがドアをOpen!まるで冷凍庫の扉を開けたような冷気が吹き込みました。一時間のトランジットで空港の中を歩きましたが、薄暗い倉庫のような雰囲気でした。制服の係員に何か質問しても「ニエット」だけ。不安が一層高まるのは、表示が殆ど無かった故もあります。情報の省略は恐ろしいと実感しました。やっと便名が出て機内に戻り、英語のアナウンスに空腹を思い出しました。

 パリのド・ゴール空港で入管を済ませ、市内への白タクに乗ってようやく人心地が回復したのです。プチホテルのシャワーの嬉しかった事!半端な睡眠をとっただけで起床。TAXIを呼んで貰いモンパルナス駅に直行です。発券の窓口で自作のイラスト入りスケジュ−ル表を示してTGVの乗車券を依頼しました。窓口の係員は口笛を吹いて我が表を眺め「ボン!」と言ってくれました。
 初乗車のTGVはサプライズと興味多い新特急列車でした。ホームでガチャンと刻印し、指定車輌を探します。この時も親切なムッシュが教えて呉れました。日本の新幹線ではお目に懸からない編成で連結されているのですから!日本では先頭車同士が鼻突き合せて睨めっこする繋ぎ方は見たことないでしょう?朝食抜きで飛び乗ったのですから、先ずビュッフェに行きました。解るのはカフェオレとクロワッサンとチーズ。窓外の景色は流れるように飛んで行きます。次の驚きは在来線と同じ線路なのです。ゲージが同じなので当然ですが保線はどうなのでしょう。考えると揺れが多いように感じます。時速300`ですからネ。

 行き先はロワール地方のゲート駅トゥ−ルです。TGVも入線可能ですが私達は分岐点で下車、2両連結のローカル電車で一駅逆行し街に着きました。変でしょ?一泊目のシャトウHotelTaxi20分南方の丘に在りました。一般道から左折して一本道を正門まで約1`、ゴルフ場のクラブハウスのように建つ古城でした。敵の侵入に備えてか入り口は頑丈ながら小扉でした。4階建で内装は樫の木造で床もカウンタも階段も黒光りし、踊り場に甲冑と槍、明かり採りはステンドグラス、中世そのままです。窓からの展望はさすが領主の城だけの証しは存り、見渡す限りの芝生と点在する大木で境界は見えません。視界の果ては葡萄園との事でした。ブッキングは英文のFAXで申し込んだのですが、一時間も待たずに「Welcome」とAが送信されました。アクセスの一つとして自家用機のエアポートの準備が有ると記されていました。彼我とのスケールの差を知らされました。スペシアルデイナーの案内も有って、これは料金も明記されていたので予約済みでした。部屋の環境は広く、Wベッドが置かれバスルームと共に気に入りました。次の城ホテル/マルセイが楽しみになりました。

 翌朝迎えのTaxiで最初の目的古城シャトウ:シノンを訪れました。歩きながら8_カメラで撮影中、教会の鐘が鳴り音も効果的に収録されました。ゲートに架かる石橋を渡るとき、川底に巨大なパチンコが残り投石機と認められました。アーチ型の門を透して内景を望んだとき、英軍を迎え撃つべく馬上に雄々しく槍をかまえ先頭に立つ女雄姿が眼に浮かびました。正にあのジャンヌ・ダルクは、私の歩むこの石橋を駆け抜けて戦場へ向かったのです。勇者の砦の屋根は落ちて青空でしたが、ロワール川を見下ろす城壁は思いを巡らす最高の舞台でも有りました。現実に戻って、チケット売り場の女性に教えてもらったブラッスリー(気楽なレストランテ)の扉を引きました。それこそ気さくで明るいマダムにメニュウを聞きながらテーブルの脇を通る料理を指さして注文し、村人と同じランチを満足しました。そして海外で初めてカードでの支払いを経験しました。サインだけで便利だと思いましたね!月へ行けるのだからと納得したのです。

 翌日は有名なチョコレートの会社がオーナーになっている名城シュノンソーと、それ程離れていない古城アンボワーズを巡り、それぞれの歴史と興味の湧く逸話の足跡を確かめ、城ホテルに帰宿しました。フランスでは珍しくない交通のストライキを、離日の時点から心配していましたが、運よく免れて移動できました。3日間英語は「OK」だけだったミシェルの車でトウールまで送られました。

 自動車レースで名高いル・マン市に泊り、再びTGVに乗るべく駅へ急ぎました。この日は世界遺産のモンサン・ミシュエルを目指していたのです。気温はマイナス18度近く北海道並みの寒気です。震えてホームで駅員に聞きますと制服の襟を立てながら「この寒さだものTGVだって遅れるサ!そのうち来るよ」30年ぶりの冬便りだったのです。降りた駅ポントルソンでは駅舎の窓に氷紋が咲いていました。
 Taxiで5分、視界が開けた先にあの特徴ある修道院の尖塔をシンボリックに頂いた島の遠景に、唾を飲み込みシートから身を乗り出しました。門内はぎっしりと土産店がウインドを接し、ホテルのオープンキッチンでは手品のように巨大なオムレットを職人が機械のように作成していました。かなりの勾配を持つ坂みちをのぼりながら、建設時に過酷な労働を強いられた囚人達の呪いの吐息を寒気と並行して感じた気がします。頂上の修道院の回廊の美しさを堪能し、眺望台から潮の引いた海面の半ば結氷しかけた縞の曲線に、自然の不思議さを強く眼底に刻まれました。 

 印象に残った出会いのシノンのブラッスリーのマダムは後年再訪時にランチのメニュウは勿論、泊まった古城ホテルまで覚えていたのに驚かされました。英語は「OK」だけだったTaxiのミシェルは引退し、持参した写真は同業のドライヴァーに託しました。年々歳々 皆同じからず。

モンサンミシェルの修道院最上階の回廊も美しい

 シャトウHotelマルセイの甲冑です。
ゴブラン織りの壁掛けも時代物