オトナの食育 
所感編 第59回(通巻93回)2014/1/10号掲載 千葉悦子(高28)

食について真実を知る勇気と努力を


 新年おめでとうございます。

  健康被害を伴う食の問題さえ起きなければ、晴れがましい気持ちになれることを年始には書きたいところです。しかし、年末からマルハニチロホールディングスの子会社「アクリフーズ」の群馬工場で製造された冷凍食品から農薬が、普通にはありえないほど大量に検出された問題が起きたので、それを入れないわけにはいかないです。

 農薬「マラチオン」が大量に検出されたことや、限られた工場からの検出ということで、意図せざる混入―残留農薬―である可能性はほとんどなく、意図的な混入だろうと推測します。20081月末からメディアに取り上げられた「中国冷凍餃子事件」をきっかけに、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」等で学んできて、そのように直感しました。「食のコミュニケーション円卓会議」のある会員が「会社や社会に不満や敵意を持つ人は、中国だけでなく日本も含め他の国にもいるだろうから、冷凍餃子事件のような犯罪は、残念ながら今後も起きる可能性がある。残留農薬のような『食の安全』の問題と冷凍餃子事件のような『犯罪』『テロ』とは区別して考えるべき。」といったことを話し、私や他の会員も「なるほど、同感」と思ったものです。私自身は、凍り付くような気持ちを抱えながら。

 朝日新聞20131231日朝刊「年の瀬の食卓 不安直撃」の記事の中に次のような部分がありました。
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 (前略)30日朝、(中略)主婦(中略)は、今回自主回収されたえびグラタンを買ったことがある。「子どもに食べさせていたので、心配。中国冷凍ギョーザの中毒事件を忘れかけたころだったのに、今度は国産で問題が起きるとは想像もしていなかった。何を信じればいいのか。」
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 私はこれを読んで、個人はもちろん、新聞をはじめ、メディア等にも責任があるのではないか?と思いました。というのは、「中国冷凍ギョーザ事件」と書くことが多く、読者に「中国」が悪くて日本をはじめ他の国が良いような印象を与えかねない報道でしたから、解説記事をもっと書いて、同様の事件は日本を含む他の国でも起きる可能性があることを、伝えておくべきだったと考えるからです。しかし、徹底できなかったのは、日本人なら日本産を誇りに思いたいものでしょうし、「国産信仰」が都合の良い人や団体があり、それに対して遠慮があるからでしょう。だれでも嫌われたくないものです。ほとんどの人が、仕事を得、収入を確保しなくてはならないので、敵を作りたくないです。本当のことを書くほど、敵を作りかねないです。
 今回、現実として事件が起きてしまったので、私は書かないではいられないと思いました。

 真実を知るのは、時として、辛かったり、耐え難かったりするものです。食のことではありませんが、たとえば、子どもの頃抱く疑問「サンタクロースの正体」を知ってしまったときは、辛かったことでしょう。「どうやって赤ちゃんがお腹の中に出来るのか?」を初めて知ったときは、驚愕という感じではありませんでしたか?
 人は知りたくないことは知らないでいたかったり、自分に都合の良い事や、賛成していることを裏付ける情報に意識が集中したりするでしょう。けれど、私たちは誰でも、食品や外食も含めて買い物をし、「買い物は投票すること」から逃れられず、「社会に対して責任を伴う」(これらは、中学家庭科教科書等に載っています)のですから、大人は本当のことを知る辛さに耐え、知る努力をしなくてはならないと考えます。とりわけ、教える立場の人は、自分にとって心地良くないことも含めて知る必要があります。

 今年の元日の「日本経済新聞」朝刊1面の一番大きな記事は「空恐ろしさを豊かさに」「常識超え新しい世界へ」でした。「経済新聞など、経済中心に決まっている。もっと生活や人間そのものを大事にしないと。」という批判もあるでしょうが、次のような考え方も十分考慮する必要があると考えます。
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 速すぎる科学や技術の進歩に一線を越えたような空恐ろしさを感じることはないだろうか。これまでの常識を覆し、新たな秩序を築く過程では抵抗や反発も避けられない。豊かな未来。それは「リアルの逆襲」を乗り越えた先にある。
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 冷凍食品に農薬が高濃度に入っていた事件については、年始の休みと土日が明けた16日(月)から真相が明かされ、識者のコメントがしっかり出ることでしょう。私は仕事の都合と編集者の都合とで、5日の内にこの原稿を書きましたので、残念ですが6日以降のことは反映することが出来ません。そういう原稿ということをお含みくださいますよう、お願いいたします。

 食について、より本当のことを知るという意味では「食のコミュニケーション円卓会議」の定例会・公開講座等もご利用ください。1月は、「オトナの食育20139月号」で取り上げた「ケンカ白熱教室! 放射能はどこまで安全か?」の著者1名に予め質問を出してからお話し頂いて、疑問点を解消し、理解を深める予定です。

  1月テーマ:「放射線の健康影響の真実」★

  講師:小林 泰彦 氏
  日時:11618時半~
  場所:京橋区民館1号洋室

 また、私が引用文献・参考文献等で取り上げるホームページも、その時々の食の問題の解説をなさるでしょうから、ご活用ください。

 今年も「オトナの食育」のご支援をお願い申し上げます。健康に留意して、今年の内に100号を達成できるようにしたいです。


■引用文献等
朝日新聞20131231日朝刊 
  「異常苦情 13都府県から」「冷凍食品から農薬 公表に1カ月半」「年の瀬の食卓 不安直撃」「農薬検出の商品名公表」
日本経済新聞201411日朝刊
  「リアルの逆襲1」「空恐ろしさを豊かさに」「常識超え新しい世界へ」 

■主な参考文献等
佐藤綾子・金子佳代子ら「新しい技術・家庭 家庭分野」東京書籍(2012
日本経済新聞20131230日朝刊 「冷凍食品から農薬」「マルハニチロ  630万袋 自主回収」
朝日新聞20131230日朝刊 「冷凍食品から農薬」「マルハニチロ630万袋自主回収」
朝日新聞20131230日朝刊 <農薬混入「通常ありえぬ」>「群馬工場 県警に相談」「マルハニチロ」
日本経済新聞20131231日朝刊 
   「農薬 意図的に混入か」「マルハ系
冷凍食品 群馬県警が捜査」<県「製造工程 可能性低い」工場立ち入り>
   「農薬検出は7商品に 計9個、6都府県で販売」「冷凍食品欠かせない/原因分からず不安」
   「消費者困惑、店舗は商品撤去」

朝日新聞20131231日朝刊 「一部商品に高濃度農薬か」「マルハニチロ冷凍食品」
日本経済新聞201411日朝刊 「農薬の毒性 過小評価」「マルハ系冷凍食品 不適切な基準使う」
   「コロッケ 子供、8分の1個でも影響も」「工場出荷前に混入か」「検出の商品 離れた3か所で保管」

朝日新聞201411日朝刊 「高濃度検出 都内で販売」「マルハニチロ 自主回収640万個に」
朝日新聞201411日朝刊 「養殖マグロ育ち盛り」「天然資源、損なわない」「脱・天然依存」
   「国内の水産物消費量、減少傾向」

日本経済新聞201413日朝刊 「同じ部屋で商品包装」「農薬問題、別々に製造後」「マルハ系冷凍食品」
   「回収対象の商品男性 食後に嘔吐」「鳥取、
農薬有無は不明」
朝日新聞201413日朝刊 「農薬検出品 1カ所で包装」「マルハニチロ 社内聴取へ」「コロッケ食べ嘔吐」
   「鳥取の40代 農薬未確認」
朝日新聞201414日夕刊 「農薬検出で工場見分「群馬県警 業務妨害容疑も視野」
日本経済新聞201415日朝刊 「健康被害訴え松山でも1人」「冷凍食品に農薬」
朝日新聞201415日朝刊 「農薬検出問題で従業員聞き取り マルハニチロ」「コロッケ食べた8歳と1歳嘔吐」
内閣府 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】
 [臨時号:農薬(マラチオン)を検出した冷凍食品の自主回収について] 平成251231日配信  
厚生労働省ホームページ
  農薬(マラチオン)を検出した冷凍食品の自主回収について(2)
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000033993.html
  農薬(マラチオン)を検出した冷凍食品の自主回収について
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000033990.html
消費者庁ホームページ
  株式会社アクリフーズ群馬工場が製造した冷凍食品のリコール情報リスト(2)
  http://www.caa.go.jp/safety/pdf/131230kouhyou_3.pdf
  株式会社アクリフーズ群馬工場が製造した冷凍食品は食べずに返品を

  http://www.caa.go.jp/safety/pdf/131230kouhyou_1.pdf
FOOCOM.NET 斎藤勲 新・斎藤君の残留農薬分析 
  「マルハニチロからの冷凍食品4種から高濃度の殺虫剤マラチオン検出 20131230

  http://www.foocom.net/column/residue/10511/