オトナの食育 所感編 第46回(通巻78回)2012/10/10号掲載 千葉悦子(高28)

行き過ぎた「ご飯・パンを減らす」手軽なダイエットの危険性
 

 


 今年の9月は観測史上初の高温で、10月初めまで暑かったですね。この文章が公開される頃には、涼しくなり、食欲がわくことでしょう。しかし、中高年になると、お腹周りが気になるもの。

 「ダイエットは何も難しいことはない。毎食のご飯・パン・麺といった糖質を減らせば、後は何を食べても良い。」などという分かりやすく実行しやすい極端な方法がもてはやされているようです。これは「糖質(炭水化物)制限食」と呼ばれる方法の内、極端なものです。なお、「糖質制限食」という名前では、硬過ぎて受けないので、名前を変える場合もあります。

 
糖尿病で、医師や栄養士から指導を受けている場合は別ですが、素人が行き過ぎた制限をすると、健康に悪影響を与えることがあります。

 エネルギー源となるデンプン(糖質の一種)をたくさん含むご飯やパンを減らせば、ダイエットになるのは確かです。しかし、満足感を得るために、肉をたくさん食べると、肉の脂質も同時に多くとることになります。また、デパ地下等のサラダも、植物性とはいえ油をたいがい使っています。さらに、見栄え良くおいしくするために、高脂質のベーコンやハムあるいは揚げた魚や肉なども入れることが多々あります。

 ご飯やパンを減らし、おかずをたくさん食べると、エネルギーに占める脂質の割合が増えがちで、これが問題です。

 食物栄養専攻の学生の教科書である「基礎栄養学 3p.35に「レプチン抵抗性は特に高脂肪食により容易に誘導され」とあります。これについて説明します。

 レプチンはホルモンの一種で、血中に分泌され摂食を抑制すると同時に、エネルギー消費を促進させる作用があります。レプチン抵抗性とは、レプチンに対する感受性が低下することです。

 「レプチン抵抗性は、高脂肪食を中止すると速やかに消失する」と上記の本に書かれています。要するに、過剰に糖質を制限する結果、高脂肪食に陥るのは良くないです。

 また、日本経済新聞201292日朝刊「極端な糖質制限 体調崩す元に」の中に「米ハーバード大学などは、糖質の制限は心筋梗塞や脳卒中の危険性を高めるとの調査結果をまとめた」とあります。

 これまで、ご飯を1食当り23膳召し上がっていたのを、少し減らす程度なら、たぶん問題なく、ダイエット効果があって健康的でしょう。しかし、半膳程度に少なくするとなると、心配です。糖尿病患者に対してどこまで糖質を減らせるかは、専門家が研究している段階ですし、個別の対応が必要なので、ご飯半膳くらいに減らしたいような場合は、専門家に個別に相談することをお勧めします。

 ところで、政治についての文章ですが、食の言説にも当てはまるので、朝日新聞2012927日朝刊の高橋源一郎氏の話から抜き書きます。
大竹文雄は、「選挙は民意を正しく反映するか」という問いに、やはり多数派が、心地よい、「つい信じてしまいそうな主張」に動かされやすいことが、とりわけ「瀬戸際に立たされた政治家」に影響を与える、と指摘する。 

 太字にした部分が、特に食情報にも共通すると私には思えます。

 次もまた政治についての文章ですが、朝日新聞2012928日朝刊の橋本治氏の話から抜き書きます。
みんな」も政治家も、もっと頭がよくならざるをえない時代が来ただけだろうと思う。

 食情報・健康情報についても、市民一人一人がよく学んで、受け取り方を考えるべき時代とつくづく思います。その基礎を作るために、学校教育で家庭科を大事にしてほしいです。目先の狭い意味の「学力向上」にとらわれて、食を含む生活について学ぶ機会をなくすことは、社会の根底を揺るがします。

 「食生活などの家庭教育は家庭で」と言う人がいるでしょうが、現代は断
片的な新しい情報や新商品があふれ、保護者自体が右往左往しがちで、とても家庭教育で太刀打ち出来ないです。ところが、現実には、「女性だから」というナンセンスな理由で、音楽などの他教科の先生が兼任することが多々あります。家庭科の専門性を持った教員を配置し、時間数も確保して行くよう、読者の皆様もどうぞご協力ください。

■引用文献等
倉田忠男・鈴木恵美子・脊山洋右・野口忠・藤原葉子
  「基礎栄養学
 第3」スタンダード栄養・食物シリーズ9 東京化学同人(2011

日本経済新聞201292日朝刊
  「極端な糖質制限 体調崩す元に」「ご飯・
パン我慢する減量法」「臓器に負担かかる恐れ」
朝日新聞2012927日朝刊
  「論壇時評 オピニオン」<変化を求めて「暴論」じゃない、まともだよ> 作家 高橋源一郎
朝日新聞2012928日朝刊
   <
政治を話そう 寄稿 「みんな」の時代
オピニオン> <「国民」というより仲間 ワンテーマで横並び 
    結集したそ
の先は><「上から」のリーダーは終わり もっと頭を使っていかないと>作家 橋本治

参考文献等
朝日新聞2012715日朝刊
    「変わる産業地図」「総菜ビジネス活況」「コンビニでも販売、競争激化」<手作りで挑む「家庭の味」>
NHKクロ―ズアップ現代 830日放送「糖尿病の常識が変わる」
 http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3239_all.html
日本経済新聞ネット版2012105日「健康づくり」「極端な炭水化物制限はNG 1食でおにぎり1個が目安
 http://www.nikkei.com/article/DGXDZO45636070R00C12A9MZ4002/
オトナの食育 本編3回(通巻3回)20062月号 
  バランスの良い食生活その3―脂質の過剰摂取を避けるには―T成人中心
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