オトナの食育 所感編 第43回(通巻75回)2012/7/10号掲載 千葉悦子(高28)

照射食品その8 ・・・生レバー禁止に関連して
 

 


牛のレバーを生食用に提供することが71日から禁止に
 ・・・その前に放射線照射したレバーの観察をしました

 今年71日から、牛のレバーを生食用に提供するのは禁止となりました。
そうなると、生レバーが手に入りにくくなり、実験しにくそうということで、6月下旬、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」では、照射した牛の生レバーと照射していないものとを比較しました。ただし、「生食用」として通販で販売されているとはいえ、生レバーは危険である場合があるので、今回は照射したものも含めて試食はせずに、外観やにおいだけ比較しました。
 そのことなどが、朝日新聞2012630日朝刊1438面(社会面)に載りました。冷凍したまま照射した牛生レバーは、少なくとも外観やにおい、および、私が半解凍の状態で切った感触について、非照射の物とほとんど変わらず、使えそうな技術と感じました。
 詳しくは、「食のコミュニケーション円卓会議」のホームページの「カフェ円卓 照射食品官能テストの結果速報! 冷凍牛生レバー」をご覧ください。

リスクの大きさを知って、行動を
 7月から禁止という決定後、駆け込み需要が非常に多かったというニュースを見ました。法律で禁止するか否かの前に、その食品のリスクの大きさをよく知って、行動すべきと思います。
 厚労省ホームページの<牛肝臓の生食(「レバ刺し」等)に関するよくある質問>を読むと、牛の肉の部分と異なり、レバーの場合は外側だけが危険なのではなく、内側に腸管出血性大腸菌が検出されたと分かります。腸管出血性大腸菌は、かつてカイワレ大根が疑われて有名になったO157や、昨年ユッケで死者が出て問題になったO111cf.オトナの食育20115月号)などの総称です。上記ホームページに次のようにあります。
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腸管出血性大腸菌は、少数の菌だけでも、重い病気を引き起こします。
 腸管出血性大腸菌は、29個の菌の摂取で食中毒が発生した事例が報告されています。溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な疾患を併発し、死に至ることもあるとされています。HUSは腸管出血性大腸菌感染者の約1015%で発症し、HUS発症者の約15%が死亡するとされています。なお、腸管出血性大腸菌はヒトからヒトへ2次感染することもあるので注意が必要です

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 衛生的に扱った「魚の刺身」には、腸管出血性大腸菌のようなごくわずかな菌数で食中毒になるような菌はいないので「新鮮だから大丈夫」ですが、「生レバーは新鮮であっても危険」である場合があります。

「食中毒になっても良いから生レバーが食べたい」という人へ
 私が講義を担当している大学生の1人が「死んでも良いから生レバーが食べたい」と私に話しかけました。生レバーが大好きなようです。その学生はたぶん、運良く、これまで食中毒にならずに済んだのでしょう。
 ここから先は科学ではなく倫理の問題と思います。若くて元気そうな学生は、それゆえに命の尊さや重みなど、頓着ないようです。
 幼い人を養育するのは、本当に大変です。また、学生の書いたレポートや試験の採点も、時間や労力がかかります。さらに、何十年も生きていると、トンの単位で、人間以外の生物の命であった食物を頂き、その食物の生産と流通にはエネルギーを使います。エネルギーを作るには、どのような方法でも、環境にそれなりの負荷を与えます。つまり、大学生くらいまで人が育つには、多くの労力と資源やエネルギーが必要で、環境にも負荷をかけています。
 万一、生レバーとかを食べて食中毒になれば、たいがい病院に駆け込むのでしょう。医療は個人だけが支払うのではなく、社会全体で支えている部分もあります。何日間か入院すれば、家族をはじめ周囲の人にも迷惑がかかるでしょう。
 しかし、若いうちは、こういうことはお説教でしかないかもしれません。理性・分別を忘れ去るほど、生レバーの魅力に取りつかれたとも言えましょう。
 あれこれ考え合わせると、中まで殺菌できる放射線照射をきちんと検討しては?と思います。(cf.オトナの食育20126月号)

つまるところ、食中毒についての正しい知識と判断を
 1年中で一番暑い時期、食中毒は自己責任の部分が多いので、十分注意して過ごしましょう。また、ご自分の食中毒についての知識が怪しいと思ったら、食品安全委員会や厚生労働省等のホームページを検索するなど、努力して行きましょう。
 もっとも、知識が乏しいとか怪しいと自覚しないから検索しないのでしょうね。だからこそ、学校での食育も必要ですし、また、自分を客観的に知るチャンスとなる、人とのかかわりを持つことや、忌憚のない意見を頂ける友人がいることも大事と思います。そういう意味でも、同窓会が一つの場・機会と考えます。


■引用文献
厚生労働省ホームページ 牛肝臓の生食(「レバ刺し」等)に関するよくある質問
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syouhisya/110720/qanda.html#q1

■参考文献等
朝日新聞2012628日夕刊 「レバ刺し サヨナラの前にもう一度 来月から禁止」
  「当日枠狙い連日行列」<「看板商品」点は痛手> 「こっそり提供継続も」
朝日新聞2012630日朝刊 「生レバー 未練タラレバ」「新鮮・衛生的でもダメ 食べれば死ぬ恐れも」
  「新技術できれば また会える?」
日本経済新聞201271日朝刊「サヨナラ生レバー」<「最後の日」味惜しむ>
  <きょうから「牛」は提供禁止に>

瀬古博子「牛レバ刺し禁止の影で忘れられていること」201274
 FOOCOM.NET  http://www.foocom.net/column/answer/7132/
食のコミュニケーション円卓会議のホームページ http://food-entaku.no.coocan.jp/
 「カフェ円卓 照射食品官能テストの結果速報! 冷凍牛生レバー」
  http://food-entaku.no.coocan.jp/kouza/cafe-entaku-20120622-repo.pdf