オトナの食育 所感編 第42回(通巻74回)2012/6/10号掲載 千葉悦子(高28)

照射食品その7…生レバー等の放射線照射を検討しては?
 

 


生レバーをはじめ、危険なものを何でも禁止するだけで良いのか?
 このところ、牛の生レバーを飲食店が提供するのを禁止する動きがあります。私個人は「生は危険」と知っているし、外観やにおいが生ですと気味が悪いので、生ではレバーを食べたことがなく、禁止になっても困らないです。が、世の中には「何としても食べたい」という愛好家が存在し、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」のメーリングリストで「民主党の中に、焼肉を考える議員連盟というものがあって、そこでは、食べられなくなると世間への影響が大きいので厚労省と食肉業界で 全面禁止を回避する方法を検討するよう求めている」と書き込まれたほどです。もしも法律で禁止すると、「裏メニュー」という妙なことになりそうです。そうなるくらいなら、きちんと安全性を確保して「この方法なら大丈夫」と基準を作る方が、世の中全体としては賢明と考えます。

生レバーを衛生的に処理する方法…放射線照射
 私を含む「食のコミュニケーション円卓会議」の有志は、ここ3年余り、食品への放射線照射について体験実験を重ね、それを自分たちのホームページや学会で報告してきました。まだ、生レバーに照射したことはないですが、ベーコン・ツナ缶・イカくんせい・ちりめんじゃこ・かつお節・昆布・チーズ・牛乳・野菜・果物・乾燥果物・栗・茶・米やご飯・うどん等様々な食品にコバルト60のガンマ線照射をして、非照射の物と比べました。
 放射線はDNAを傷つけるという性質があり、これを上手に使うと発芽や発根を防いだり、虫や細菌を殺したりできます。
 照射という方法は、ほとんど温度を上げずに処理できる特徴があり、冷蔵や冷凍状態で照射することもでき、「煮えた感じ」にならずに殺菌等が出来ます。

日本で照射が許可されている食品は、じゃがいもだけ
 1972年に馬鈴薯のガンマ線による発芽防止処理が許可され、1974年より北海道の士幌農協で世界初の商業用食品照射施設の運転が開始となりました。ところがその後、一部の消費者団体による反対運動が激しく、世界各国が採り入れるなか、馬鈴薯以外の品目を拡大出来ずに40年も過ぎました。

日本でも食に関連するものに照射が使われている
 飲料の容器であるペットボトルの殺菌は、照射を使います。プラスチックを高熱にするわけにいきませんが、照射なら温度を上げずに殺菌出来ます。しかも、ガンマ線は透過力が大変強いので、段ボール箱にペットボトルを入れたまま殺菌することが出来て、開封するまで雑菌が付きません。割りばしや爪楊枝や使い捨ての食品容器などが衛生的なのも、この照射の技術のお陰です。
 実験動物のエサも、照射により殺菌されています。

世界の食品照射
 1980年にWHO等の国連機関が「10 kGy以下で照射した食品の健全性に問題がない」、1997年に「10 kGy以上の照射食品の健全性も問題ない」とし、国際食品規格委員会(コーデックス)が1983年に10 kGyまでの照射食品の規格基準を採択しています。
 食品照射実用化は、2003年の時点で31カ国、1地域です。以下、「食品照射Q&Aハンドブック」p.27〜28より抜き書きます。
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 米国では香辛料が年間5〜6万トン照射されており、牛肉挽肉も48の州の1,000以上のスーパーマーケットで販売されている。ハワイ島では熱帯果実の殺虫処理も行われており、宇宙食や病人食、軍用食の完全殺菌も実用化されている。フランスやオランダ、ベルギー等では香辛料や乾燥野菜が大量に照射されており、鶏肉や冷凍魚介類、チーズ等も実用照射されている。(後略)
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 アジアの国々でも使われていて、中国では、にんにくの芽止め等にも使っているそうです。

安全性は?
 欧州食品安全機関(EFSA)は2011年4月に、「照射食品の科学的安全性に関する見解」の結論と勧告に基づいた声明を公表しました。この声明について、食品照射Vol.46 No.1古田雅一氏の総説から抜き書きます。
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 ヒトに対する食品照射の安全性に関しては、喫緊の懸念事項は存在しないこと、今後の許可品目を決定するに当っては既存の品目リストにとらわれず照射処理が必要とされる食品の種類と殺菌の対象となる微生物種の放射線感受性を柔軟に考慮することを勧告した。
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 また、日本食品照射研究協議会のホームページに、安全性等について調べるための一覧が載っています。

シクロブタノン類を怖がり過ぎるのは問題
 朝日新聞今年5月19日朝刊の記事に、食品照射による主な危険として有害物質ができること―具体的にはシクロブタノン―を挙げています。ドイツなどの研究で発がん性が強くなるおそれがあるとしても、
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ラットが食べたシクロブタノンの量は、「人間に換算すれば、放射線を当てた米国製ビーフバーガーのパテを毎日4.8トン食べ続けたのに相当する」と
原子力機構の小林さん。

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ということで、量を考え合わせると杞憂と言えましょう。
 「少しでも危険なものを食べるのは嫌」というのは、個人の自由としても、他の人が食べるのを止める権利はないと考えます。しかも、専門家でない人が「天然・自然、安全に違いない」と感じる食品にも、もしも多量に摂取すれば危険な物質はたいがい入っています。こういうことは「オトナの食育」で書いて参りました。このような基礎知識なしに判断するのは問題です。 
 また、確信犯として、知っていても「言わないウソ」の手法を使い、ヒトが何万トンも食べ続けないと悪影響が出ない程小さいリスクであることを告げずに、リスクを誇大に強調するのは、人々の適正な判断を誤らせ、社会に対して罪と考えます。

リスクを適正に捉え、判断しましょう
 一部の自称「消費者団体」の、量を無視した論に惑わされず、社会にとってどうして行くのが健全で、かつ、公平に個人の自由を尊重できて幸福感を持てるか、判断したいものです。また、「原子力とか放射線といえば、全て悪いもの」と決めつけるような偏見をなくして、冷静に考える姿勢が大切です。
 
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「市民のための公開講座・しゃべり場
  ・・・低線量被ばくのリスクをどう思いますか?」のお知らせ

 「食のコミュニケーション円卓会議」主催で上記のイベントを開催します。
 日 時: 2012年7月11日(水)15:30〜18:30
 場 所: 東京大学弥生講堂アネックス・セイホクギャラリー
      (東京都文京区弥生1−1−1)


 第49回アイソトープ・放射線研究発表会のイベントの1つでもあり、この研究発表会には参加費が必要ですが、しゃべり場だけに参加される場合、事前登録してくだされば、無料です。次をクリックなさり、詳細をご覧の上、申し込んでください。
 「市民のための公開講座・しゃべり場」 低線量被ばくのリスクをどう思いますか? https://jrias.smktg.jp/public/seminar/view/39

 なお、研究発表会自体の様子を知りたい場合は、次をクリックなさってください。私も「新鮮果実への放射線照射の効果や影響」と題して、口頭発表予定です。
 「第49回アイソトープ・放射線研究発表会」 プログラム
http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6.17595.103.212.html
 どうぞ奮ってご参加ください。


引用文献
社団法人日本原子力産業協会「食品照射Q&Aハンドブック」(2007年3月)
http://www.jaif.or.jp/ja/sangyo/qa-handbook_intro.htmlからダウンロード出来ます。
古田雅一 最近の食品照射の国際動向 ―欧州食品安全機関(EFSA)の見解を中心に―
   食品照射Vol.46 No.1日本食品照射研究協議会(2011年9月)
参考文献等
朝日新聞2012年4日27日夕刊 「食中毒から1年 ユッケ 高値の味」
    「1人前2400円 鮮度保てぬ もうけゼロ」「適合生肉提供 わずか104施設」
朝日新聞2012年5日19日朝刊 「今さら聞けない+食品への放射線照射」
    「海外では肉、穀物など幅広く利用」
日本経済新聞2012年5月21日朝刊<「牛レバ刺し」7月から禁止> 「厚労省方針、近く最終決定」
日本食品照射研究協議会のホームページhttp://jrafi.ac.affrc.go.jp/joho.htm
照射バレイショと2-アルキルシクロブタノン類の発がんプロモーターモーター活性についてhttp://jrafi.ac.affrc.go.jp/cyclobutanone%20and%20potato.htm
食のコミュニケーション円卓会議のホームページhttp://food-entaku.no.coocan.jp/