オトナの食育 所感編 第41回(通巻73回)2012/5/10号掲載 千葉悦子(高28)

基準値の意味を取り違えず、
自分や社会にとっての優先順位をしっかりとらえましょう


 

 

 
 今年も静岡県に住む親戚から新茶を頂きました。箱の中に「安全証明書」
と書いた小さな紙が入っていて、次のような説明がありました。
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 この商品に使用してあるお茶は、下記検査機関による放射能分析試験の結果、
安全性が確認された茶葉のみを使用しております。安心してお召し上がりください。
*厚生労働省 新基準値に基づき検査しております
 ◆試験結果 検出せず
 ◆検出限界 1Bq/kg
 ◆検査機関 ○○○○○(厚生労働省登録検査機関)
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 やれやれ、「安全証明書」なるものを、静岡県でとれたお茶にもつけるとは、
困ったことです。私にしてみれば、「オトナの食育1月号・3月号」等に書きましたように、飲食物は放射性物質について十分安全と受け止めていますので、そのような労力・資源・コスト等は、別のことに使う方が賢明と思います。
 そもそも「基準値」は、食品添加物や残留農薬にせよ、放射性物質にせよ、
安全側に十分立った値でして、それを少し越えるか越えないかのレベルであれば、
一生食べ続けても問題はないです。「基準値」を超えた物が検出されたら、監督官庁が十分安全であるように指導し始める、そういう値です。
なお、3月号に書きましたように、放射性物質については、産地いじめにつながりかねないという批判があるほど厳しい基準値である、ということも考え合わせましょう。

放射性物質より気にすべきこと
 4月に台北の外食の塩味が薄めで、私はハッとしました。日本人の塩分平均摂取量が減ってきたとはいえ、2010年度の成人男性は11.4g、女性は9.8gでして、まだ、WHOの勧告―1日6g以下よりずっと高いからです。
 また、朝日新聞2012年4日29日朝刊の記事に「出生時の体重が減る一方で、30年前より250g減。妊婦のやせすぎが一因であり、赤ちゃんの将来の生活習慣病に懸念が持たれる。」といった話がありました。この考えは、以前から知ってはいましたが、エビデンス不足でしたので書けませんでした。まだ、これから厚労省が調査を始めるという記事ですから、断定はできませんが、将来赤ちゃんを希望する人は知るべきと思います。
 赤ちゃんの話をすると、たいがい男性は「俺は関係ない。」と冷たくシャットアウトするか、笑いながら伴侶に対して「よろしく」と責任逃れの言動をしがちですが、社会全体の問題ですから、前向きに捉えてほしいです。男性から「近頃太ったんじゃない?」「(妊娠しているにしても)太り過ぎじゃない?食べ過ぎでは?」「オードリーのような、妖精のような感じが好み」などと言われると、女性は必要以上にやせようとしがちです。こういった軽はずみな言動が、回り回って将来の健康保険料等を増やすのです。
 また、下手なダイエットをすると、栄養不足に陥り、骨粗鬆症等にもなりがちです。販売している飲食物の放射性物質については、十分安全性が高いのですから、それに気を取られず、本当に心配すべきことに対して十分な注意を払って行きましょう。

■参考文献等
今井悦子「食物とからだ」放送大学教育振興会(2000)
今井悦子「食品の成分と機能」放送大学教育振興会(2003)
松永和紀「食の安全を読み解く52 放射性物質の新基準値 その功罪は?」
 『栄養と料理5月号』女子栄養大学出版部(2012年)
日本経済新聞2012年4月10日朝刊「イオン、PB生鮮品を倍増」「セブン&アイも参入 安全管理、自社基準で」
日本経済新聞2012年4月15日朝刊「食の安心 流通現場も苦闘」
  「放射性物質 基準厳格化から2週間」「スーパーなど、独自の検査体制」「風評被害 解消狙う」
日本経済新聞2012年4月16日夕刊「トルコ人 塩取りすぎ 国政基準の3倍 遊牧時代の名残?」
  「日本人も摂取多め 山梨トップ、東北が上位」
朝日新聞2012年4日17日朝刊 記者有論 編集委員 高橋真理子「女性と放射線 心配しすぎる必要はない」
朝日新聞2012年4日21日朝刊<放射能「食品独自基準やめて」>農水省通知 スーパーなどに
日本経済新聞2012年4月22日朝刊 <独自基準「設けないで」>
  「放射性物質検査 食品業界に要請 農水省」
朝日新聞2012年4日23日朝刊 声「放射線をPRする冊子に怒り」
朝日新聞2012年4日26日朝刊 社説「食品独自基準 自粛の要請はおかしい」
朝日新聞2012年4日28日朝刊 耕論「福島で食を考える」
  コープふくしま専務理事 野中俊吉さん<不安あおる「ベクレル競争」>
朝日新聞2012年4日29日朝刊 「赤ちゃん 細る一方」「30年前より250g減」
  「妊婦のやせすぎ一因」「将来の生活習慣病に懸念」
朝日新聞2012年5日2日朝刊 「食品の放射能 新基準 超過は9県337件」