オトナの食育 所感編 第4回(通巻33回)2009/1/10号掲載 千葉悦子(高28)

「やつがしらの含め煮」を例にとって煮物について思う

 


 新年おめでとうございます。
 今年もこの連載への応援、よろしくお願い申し上げます。
 皆様、このお正月におせち料理を召し上がりましたか?作られた方はどのくらいいらっしゃるでしょう?

やつがしらの含め煮をめぐっての会話
 先月、天皇誕生日に、長年住むマンションの餅つきの手伝いをし、久し振りに近所の方々と話しました。私より少し年長の主婦と「やつがしら」を煮る話になりましたら、数歳若い主婦に「作るんですか?話についていけません。」と言われました。「普通の家族がいちばん怖い 徹底調査! 破滅する日本の食卓」を読みましたし、私の末子の友人のお母さん方は私よりずっと若く、料理をしなくなっていることは承知していました。が、「はっきり言われちゃったな」と思いました。

八頭は縁起物の一つ・期間限定もの
 やつがしらは名前からして「縁起物」とすぐ分かります。しかも、正月前後しか普通のお店には売っていないので、この時期限定の楽しみです。広辞苑をひくと、「芋は濃密・粘質で美味だが、収量は少ない」とあり、それで長期間売っていないのだと合点しました。母が毎年煮て私も好きですし、普通の里芋と異なり正月らしい食べ物なので、私もこだわります。

味付けは昔のレシピよりぐっと抑えて
 自分が駆け出しの教員の頃使いました「食物U」の教科書のレシピのたしか半分の味付けに昨年したのに、濃過ぎました。それで、今回は思い切って1/4に減らしましたところ、作りたてはOKでしたが、日がたつといくらなんでも味が薄過ぎ、私としては納得いきません。次女は「素材の味が生かされているんじゃない?」と言ってくれましたし、他の子どもたちも嫌がらずに食べていましたが、いつも薄味を好む長女さえ「ちょっと薄い。」と申しました。
 そこで、あと少し濃い目の味でこの正月に作ってみました。

やつがしらの含め煮は時間の経過とともに味が大きく変わる
 黒豆をはじめ煮豆もそうですが、やつがしらは非常に味が変わるので、味見をしながら味を決めるのが難しいと思います。もちろん熟練者は煮終わりの味で、1日後2日後の味をそれぞれ思い浮かべられるのかもしれませんが、私はまだその力がありません。そうなると、味付けの濃度を記録しておき、次の参考にするしかありません。

煮物の味付けは好みが様々
 東京のデパチカの煮物や会合のお弁当に入っている煮物の味付けを、自分の好みよりずっと濃いと感じます。そういう私がだいたい良いのではないか?と思いました後述のレシピは、家庭科・家政学の調理の先生方が拠り所にする「新版 調理と理論」よりずっと薄い味付けです。ですからこれが正統とは言えませんが、もし、従来の味付けでは、「濃過ぎる」とか「食べた後重い」などと感じる場合は参考になさってください。

伝統をいかに次世代に伝えるか
 たしか、私が学生時代、調理学を教えてくださった島田敦子先生が、何かに「伝統の味付けのままでは若い人には合わないが、伝統をだいじにしたいという思いもある。どの程度の味付けを良しとするかは悩ましい。」といった主旨のこと書いていらしたと記憶します。私の力ではとうてい解答は見つけられそうにありません。が、遠慮して何も書かないでいると、お節料理をはじめ、家庭料理を手作りする頻度がますます減りそうなので、批判覚悟で今回書きます。
 「これが正統の煮物の味」などというのが存在すると堅苦しく考えるから、自分で作ってみようという気持ちがなくなるのではないでしょうか?いっそ「自分で手作りすれば、市販品よりずっとおいしい自分好みの味になる。結果的に薄味で健康的!」というのがポジティブな考え方と思います。
 「奥薗壽子のラクうま料理&おやつ大好き!」にも似た記述がありますが、冷蔵庫があって保存が容易な時代には、砂糖も塩(しょうゆも含む)も減らしてかまわないと思います。味が薄くて、量も少なめにすれば、「お節に飽きる」こともないでしょう。

私のレシピ(「食物U」の教科書をもとにしています)
 やつがしら 300g(皮をむいた重さです。お間違いなく。
             なお、今回いもの塊約半分400g強ほどのものから約300gとなりました。

 だし汁   いもと同量、ただし直径の少な目の鍋を使うならその7〜8割
 砂糖    いもの3% 大さじ1
 (みりん  いもの6% 大さじ1 も入れるとよいかも)
 塩     いもの0.5% 小さじ1/4強

作り方
(1) やつがしらは、小さくなり過ぎないように切り、さっとゆでてぬめりを洗う。
(2) だし汁を熱くしておき、煮る。このとき、だし汁の温度が低過ぎると、「ごりいも」
    (いくら加熱してもやわらかくならない)になるかもしれないので、気をつける。
    沸騰したら弱火にする。
(3) 砂糖・塩の順に味を含め、最後にしょうゆを加え、火を止める。
   なお、焦がさないように火加減は弱火にする。
   最後は煮汁といもの煮崩れたものとが混ざった汁が少し見える程度で消火する
   と、焦げずに安心。汁気は時間が少し経つと、いもの中に自然と含まれる。

(1)の「下ゆで」について
 原稿をメルマガ編集委員さんに目を通して頂きましたら次のコメントを頂きました。
栽培している人に聞くと「ハツ頭は下茹でしてはいけない」といわれます。理由は、サトイモと違いぐちゃぐちゃに柔らかくなってしまうから・・・と味をしみこませるためです。
 ごく新鮮ないもが手に入る場合は、これが正解でしょう。しかし東京の生活では収穫後何日も経ってから料理しますし、また、1度に使いきれないと、さらに数日冷蔵庫保管してから料理することになります。今回、料理したてのやつがしらを試食したら、2回とも「えぐみ」のようなものを感じましたから、下ゆでも意味があるだろうと思います。やわらかくなり過ぎないように、「さっと」ゆでる必要がありますね。

みりんを入れないで作ってみての感想
 作った直後は、しょうゆの味がとんがっていましたが、時間の経過とともになじんでいき、翌日はちょうど良く感じました。従来の味に比べ、甘さが極度に控えてあるので、それが気になる方はみりんも入れると良いだろうと思いました。みりんの量は「新版 調理と理論」に拠ります。
 
プロセスを大事にして、料理をお楽しみください
 年末に青山学院大学の男子学生に「先生はお節とか作るんですか?」と聞かれ肯定しました。返答はありませんでしたが、どうやら「こんな人まだいるんだ!」といった驚きのあまり、また、評価をする立場の人に失礼ないことを言ってはいけないという遠慮もあるのか、目を丸くしていました。
 料理の最中やその後の変化、味付けによる違いなど、過程を楽しむという気持ちを持つと、作ること自体を楽しめると思います。
 畏れ多い引用ですが、皇太子様が20歳代くらいのお若いときに
「プロセスを大事にしたい」といったことを仰ったと新聞記事で読んだ記憶があります。
 「プロセスを大事にする」というのは、余裕を持つことなのではないでしょうか?そのような1年であることを祈ります。

引用文献
「広辞苑第5版」岩波書店
おもな参考文献等
「新版 食物U」松元文子・宮崎基嘉監修 中教出版(1980)
「新版 調理と理論」山崎清子・島田キミエ・渋川祥子・下村道子共著 同文書院(2003)
「普通の家族がいちばん怖い 徹底調査! 破滅する日本の食卓」岩村暢子 新潮社(2007)
「奥薗壽子のラクうま料理&おやつ大好き!」主婦の友社(2003)