オトナの食育 所感編 第38回(通巻70回)2012/2/10号掲載 千葉悦子(高28)

科学的な考え方を広める年に その2
〜花粉シーズンの対処・・・遺伝子組換え作物も有効な場合も、柔軟に考えましょう〜

 

 


  この冬は寒さが厳しくて雪が多く、雪崩や雪おろしでの事故の痛ましいニュースを聞き、辛くなります。
 春が待ち遠しいですが、この文章が公開される10日からほどなく、花粉症の季節になるので憂鬱です。私自身、スギ花粉症だからです。
 「食のコミュニケーション円卓会議」の例会で、田部井豊氏が遺伝子組換えを使ったスギ花粉症治療イネを紹介され、マウスでは予防効果が確認され、スギ花粉症を自然発症したサルによる研究も進んでいるとのことで、「うらやましー」という他の会員の私語が聞こえ、私も同感でした。
 毎年、耳鼻科で処方された薬を、花粉が飛ぶ前から飲んでおくのですが、花粉の量が多い年は、薬だけでは耐えられない感じがします。そのため、わらをもつかむ思いで、良いのではないか?と言われていること―たとえば、ヨーグルトを毎日食べる―などをしてみます。

花粉症などのアレルギーを抑える食品成分
 上野川修一先生が「食品免疫・アレルギーの事典」p.5に次のように書いていらっしゃいます。
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  食品がアレルギーの原因となる一方で、アレルギーを抑える食品がある。たとえばプロバイオティクス、プレバイオティクス、そしてヌクレオチド、ω‐3系の脂肪酸などである。
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 ヨーグルトにプロバイオティクスを期待します。大量にヨーグルトを食べるわけでなければ、薬の副作用に似たこともないでしょう。ただし、少し食べるだけなので、効果の方も怪しいですが・・・寒い時期、牛乳を飲む量が減り、カルシウムの補給にも役立つので、食生活全体を考えて良いと思います。

ω‐3系の脂肪酸も有望
 ω‐3系の脂肪酸(n-3系の脂肪酸とも言われます)については、「食品免疫・アレルギーの事典」の他のページや、「基礎栄養学 第2版」「食品学 第2版補訂」を合わせて読むと、エビデンスがだんだん出てきているようです。ω‐3系の脂肪酸を十分摂取して、ω‐3系の脂肪酸に対するω‐6系の脂肪酸の割合を下げることがアレルギーだけでなく、高血圧、動脈硬化、心筋梗塞等の予防という意味でも大事です。
 ω‐3系の脂肪酸は、α‐リノレン酸や、〔エ〕イコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などで、EPAやDHAは魚の油に含まれます。ネットで検索すると、日本の食品大手企業もそれらの入ったサプリメントを販売しています。というのは、理想よりω‐3系の平均摂取量が少ない現実があるからと思われます。
 日本人は、ω‐3系の脂肪酸の多い魚を他の先進国より多く食べ、他の国よりは摂取量が多いですが、漁港のある地方とかでないと、理想よりは少ないのです。

遺伝子組換え大豆でω‐3系の脂肪酸を多く産生する技術が米国で開発
 昨秋、モンサント社主催セミナーに参加しました。米国の多くの人は魚を食べる習慣が非常に少ないので、ω‐3系の脂肪酸の1種であるステアドリン酸を多く含む大豆を、遺伝子組み換え技術を使って開発し、今後、この商品化を進めて行くそうです(まだ安全性認可が出ておらず、商品化されていません)。商品化がなされれば、単にオイルやサプリメントだけでなく、豆乳・チーズ・バター・ヨーグルト・キャンディ・ベジタブルバーガー・パンなどといった加工食品での利用が期待されています。
 従来「遺伝子組換え作物」というと、除草剤耐性とか害虫抵抗性ばかり思い浮かべ、「生産者にとって楽になるだけで、消費者には直接のメリットが感じられない」といった批判がありがちでしたが、今回の大豆は直接、消費者へのメリットが明確に感じられます。
 しかも、菜種油や大豆油や亜麻仁油に比較的多く含まれるα‐リノレン酸よりも、ステアドリン酸の方が、EPAやDHAに早く変換できます。

魚の有害物質を避けて、ω‐3系の脂肪酸の利点だけ得られる
 「現時点では、魚を食べるリスクより食べないリスクの方が大きい」と言われていますが、魚介類には重金属をはじめいろいろな有害物質もごく微量は含まれ、地域による量の差もあります。何年か前、ケネディ家の一員である方が、お茶の水女子大学の講堂でお話をしてくださり「アメリカのある川には、メチル水銀が多いので、その川の魚を食べないようにと禁止している地域もある」と耳にしました。
 また「肉ばかりでなく魚も食べる方が良い」と知ってはいても、現実的に難しい状況の人もいます。今後、世界の人口が増加し、魚の栄養的価値についての知識が普及するにつれ、魚を安価に十分食べられるとは限らないと推測されます。
 モンサント社としては、こういったことを踏まえて、ω‐3系の脂肪酸の1種であるステアドリン酸を多く含む大豆を開発したそうです。
  末木一夫氏がモンサント社主催セミナーの資料に次のように書いています。
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  DHA/EPA(ω‐3)の摂取推奨
―主要な健康関連学会・機関―
魚からEPA/ DHAを毎日摂取することを勧奨
・脂肪組織に貯蔵できるω‐3量は、限定的。
・サプリメント等から継続的に摂取も選択肢

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 私は魚をなるべく摂取したいし、それを生徒や学生にも勧めますが、無理な場合は柔軟に考えて、こういったものを選択肢の視野に入れることが賢いと考えます。


 さて、私の所属する「食のコミュニケーション円卓会議」の遺伝子組換え作物に関する公開講座が今月ありますので、お知らせいたします。どうぞお出かけください。

  <公開講座のお知らせ
  日 時 :2012年2月18日(土) 14::00〜16:00
  場 所 :江東区古石場文化センター 第3研修室
  テーマ :「遺伝子組換え農作物や、スギ花粉症治療イネについて 」
  講 師 :(独)農業生物資源研究所遺伝子組換え研究推進室 田部井豊氏
  参加費:1,000円(学生無料)
  主 催 :食のコミュニケーション円卓会議
  ※必要事項をご記入の上、必ず事前にメールでお申し込み下さい。
    お名前(フリガナ)、連絡先(メールアドレスまたは住所)、
    所属(学生の方は学校名)、講師への質問など
    宛先アドレス:entaku002アyahoo.co.jp (アを@に置き換えてください)

 なぜ、本を読むだけでなく、講演会に出かける必要があるのか?については、オトナの食育 所感編 第24回(通巻第53回)2010年9月10日号をご覧ください。


■引用文献等 
日本食品免疫学会編集「食品免疫・アレルギーの事典」朝倉書店(2011)
末木一夫「オメガ3脂肪酸の健康維持・増進に対する効果と海外のヘルスクレームや食品への利用」…2011年10月4日開催、モンサントカンパニー主催セミナーの資料

■主な参考文献等
倉田忠男・鈴木恵美子・脊山洋右・野口忠・藤原葉子編「スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学 第2版」 東京化学同人(2007)
久保田紀久枝・森光康次郎編「スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学 第2版補訂」 東京化学同人(2011)
Richard S.Wikes (モンサント社の社員)「ステアドリン酸ダイズ油:体に良いオメガ‐3を畑から」同上資料
「日本モンサント」ホームページ http://www.monsanto.co.jp/
「食のコミュニケーション円卓会議」ホームページの公開講座の部分http://food-entaku.org/katsudou.htm#koukaikouza