オトナの食育 
所感編 第30回(通巻60回)2011/4/10号掲載 千葉悦子(高28)

大震災後、今私たちが必要なこと

 
  本年3月11日は怖かったです。被災された方に、お見舞い申し上げます。
 被災された方、福島の原発のすぐ近くにお住まいの方は、これから書きますことを「甘ちょろい」と思われるかもしれませんが、私の住む東京都から静岡県辺りにお住まいの方を主な対象として書かせて頂きます。

○買いだめはやめましょう…冷静な消費行動を
 3月13日(日曜)午前10時過ぎの、近所のスーパーでの様子には驚きました。どの人の買い物かごにも商品が山と積み上がっていて、レジがたくさんあるのに、反対側の壁近くまで長蛇の列でした。しかも、いつもより男性客が多かったです。私は時間がないと諦め、他の小さなスーパーで買い物を済ませました。
 そして、スーパーの棚からほとんどの商品がなくなりました。呆れたことの一つは、米がなくなったことです。日本では長年米が余り、減反政策をしてきたほどです。私の卒論は、当時の農林省から調理研が頼まれた「古米の食味の改善」でした。また、備蓄米もあると聞きます。産地や銘柄を選ばず、少し待っていれば、米を得られるはずです。
 近所のお米屋さんが「(1軒で)3袋ください、なんて言うのよ。(小売店に対する米の供給の)計画があるから、いっぺんにたくさんは買えないのに・・・」とこぼしていました。
 精白して何週間もたつと、まずくなりますから、精白米の買いだめは愚かです。日頃から食料についての大まかなことを知っていれば、ここまで買いだめをしなくて済むと思うのですが・・・。
 3月28日の「江東区報 臨時特集号」に「必要以上の購入は、被災地への物資供給にも影響を与えます。」とあります。
 皮肉なことに、品薄がひどかったのは、この区報の出る前です。となると、平時から上記のことを皆が知り、行動につなげる必要があります。
 ところで、私が高1の年、第1次オイルショックで買い占め行動があり、トイレットペーパーや砂糖が品薄でした。それを題材にした授業が、私の受けた韮高の家庭科でありました。冷静な消費行動が、結局は消費者のためになることは、国民が分かったはずでしたが、今回その教訓が生かされず、残念でなりません。
 このようなことも家庭科で普段から教えていきたいし、だからこそ、家庭科の授業数を確保する重要性を、皆様にご理解頂きたいと存じます。
 
○飲食物の放射性物質は量を考えて、過剰な心配をせず、
               リスクのトレードオフを考え合わせましょう

 水道水から乳児の暫定基準値を上回る放射性物質が検出され、都などは非常に迅速な対応を実行しました。ニュースが出た翌日には、私の住む江東区では「乳児に水を配布するので、母子手帳を必ず持って、お近くの保健所へ」の旨、屋外放送がありました。やる気になれば、これほど迅速な対応が出来る国なのだと心強く思う反面、過剰反応が心配になりました。
・乳幼児の特質を忘れずに
 ペットボトル入りの水がなんでも良いとは限らず、ミネラル(無機質)の多い硬水は乳児用粉ミルクを溶かすのに不適です。乳児用粉ミルクは、日本の水道水、すなわち軟水を想定しているので、粉ミルクにミネラルがたくさん入っています。それなのに硬水を使うと、乳児のミネラルの処理能力を超える場合があります。
 乳幼児は、単に大人を小さくしただけの存在ではなく、体の機能が十分備わっていないということを忘れないようにしましょう。
 また、体重1kg当りの水分は、年齢が低いほど高く、乳幼児は体重の割に水分を多く必要とします。放射性物質が少し入っている水道水を恐れ、ペットボトル入りの水がないからと、水分補給が不足すれば、その方が生命の危機です。基準値というのは、長期間摂取した場合でも十分大丈夫である値(参考1)ですから、1〜2日基準値を多少上回る物を摂取しても大丈夫です。
 このように、Aというリスクを恐れて対策をとっているつもりで、Bというもっと重大なリスクを背負うことリスクのトレードオフと言い、そうならないよう、賢く行動したいものです。
・大人は正確な情報をもとに、乳幼児に配慮して譲りましょう
 乳児に悪い水なら、大人にも悪いだろうと考えて、ミネラルウォーターを買い占めるのは、自分勝手と言わざるを得ません。電力不足で増産が難しく、輸送用のガソリンが不足する状態で、大人までミネラルウォーターを使っては、本当に必要な乳児や被災地の方々に行き届きません。
 「でも心配」という方は、朝日新聞2011年4月8日朝刊「セシウムでの健康被害 未確認 チェルノブイリ事故」の記事の、次の部分をお読みください。
 国際機関と共同でチェルノブイリでの健康調査を実施してきた山下俊一・長崎大教授(被曝医療)によると、セシウム137の影響を受けた健康被害は確認されていないという。
 山下さんは「現地の人は汚染されたキノコや野菜を食べ続け、体内にセシウム137を500〜5万ベクレルぐらい持っている。しかし、何ら疾患が増えたという事実は確認されていない」と話している。

 セシウム137の半減期は30年という記事を初めて目にした時、私は絶望的な気分でした。しかし、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」の、日本原子力研究開発機構にお勤めのメンバーが「セシウム137の生物学的半減期(セシウム137の半量が人体から排泄される日数)は大人で約100日、子どもや乳児はもっと短い」とメーリングリストに書いてくださり、気持ちが落ち着きました。いったん体内に入ったら全部蓄積する、というわけではないのです。
 もちろん、ヨウ素131の方も心配でしょうが、半減期が8日と比較的短いですから、缶詰のように保存の効く食品にすれば、自然と減りますし、大人は影響を受けにくいそうです。また、甲状腺がんは万一かかっても、治る確率が非常に高いそうです。
・煙草を吸いながらミネラルウォーターなど、徳を疑う
 日本経済新聞2011年3月25日朝刊「「生活習慣の方が健康には悪影響」の記事に、秋葉澄伯・鹿児島大学医学部教授(公衆衛生学)が次のように説明なさっています。
 (前略)この程度なら、放射線よりも喫煙や食生活、運動などの生活習慣の方が健康に大きく影響する。(後略)
 煙草を吸い、運動不足で、バランスの悪い偏った食生活をしている人が、水だけ気にしてミネラルウォーターを飲んでも、ちっとも健康になりません。
「私の自由」と主張したとして、現在の社会状況では、わがままと受け取られても仕方ないと私はとらえます。
・栄養不足にならないよう、野菜も十分食べましょう
 ホウレンソウなどの出荷制限があり、怖くなってどの産地のホウレンソウなどの葉物も食べないのは、栄養不足になる可能性があります。残留農薬と同じように、洗ったり、ゆでたりすれば、かなり減らせます。
 野菜や果物などには機能性成分もいろいろ含まれ、癌を抑える物質も含まれることも考え合わせましょう。

○4月号の終わりに
 書き足りないことが多いでしょうが、今回はこのくらいにさせて頂きます。多少難解でも正確で詳細な情報を知りたい方は食品安全委員会のH.P.等をご覧になればよいでしょうが、それではとつきが悪くて読みにくい方のために、「今、生活上必要なこと」として書きました。
 私は3月11日以降、2週間くらいで体重が1kg減るほど、心配で、落ち着きませんでした。「このまま減り続けては大変!」と思いました。「正しく怖がる」言い換えると「過剰に心配せず、『安易に受け止め、知ろうとしない』ということもしない」ことの大切さを改めてかみしめます。
 皆様、体を大切にしながら、危機を乗り越えて参りましょう。



 ←コートのベルトに線量計をつけています。
   
 
2011/4/5日本原子力研究開発機構の研究所(@高崎)へ食品照射の実験に参りました際の写真です

                                ↓照射施設の出入口には個人線量計が置いてあり、
                                     毎回測定値を記録して異常がないことを確認します。 
                              

 
            
引用文献等
 (参考1)日本経済新聞2011年3月23日夕刊「識者の見方 規制値、非常に厳格■消費者に情報を」より
 放射性物質の安全性に詳しい学習院大学の村松康行教授の話
 
かなり高いレベルの放射性物質が検出されて少し驚いている。もちろん食べることは避けなくてはならない。ただし、国の暫定基準値は非常に厳しいもので、一定量を毎日食べ続けた場合を想定している。暫定規制値に比べ2ケタ大きな値のレベルでも、毎日食べ続けない限りすぐに健康被害が生じるとは考えられない。

「江東区報 臨時特集号 緊急 地震特集号」3月28日
朝日新聞2011年4月8日朝刊 <汚染の度合い 距離だけでなく>
 <「飛び地」状も■セシウムでの健康被害 未確認> <チェルノブイリ事故>
日本経済新聞2011年3月25日朝刊「水対策、冷静対応呼びかけ
  放射性物質検出で国・自治体」「時間経過で規制値以下も」<Q&A 水道水、
  母親が飲んでも大丈夫?赤ちゃんに影響「ほぼなし」>「生活習慣の方が
  健康には悪影響」
 
主な参考文献等
食品安全委員会H.P.放射性物質に関する食品の安全性について
 http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/emerg_torimatome_bunki.html
食品安全委員会e−マガジン 第231号 平成23年4月8日
食のコミュニケーション円卓会議H.P.
  東北地方太平洋沖地震に伴い発生した原子力発電所被害による食品への影響について
   
 http://food-entaku.org/20110311.htm
FOOCOM.NET「食」が変わる!〜東北地方太平洋沖地震   http://www.foocom.net/
ガッテン!食品照射―放射線のことがわかる本・食品照射のことがわかる本
  (社)日本原子力産業協会(2009)
朝日新聞2011年3月21日朝刊 「農産物に放射能 計5県 規制値越す 千葉・栃木・群馬も」
  「正しく怖がって 30キロ圏の拡大は不要」  「山下俊一・長崎大教授に聞く」
日本経済新聞2011年3月21日朝刊「海外論調」「福島原発事故 どう見る」 「ルネサンス」に影響/代替エネ困難」
  「生命責任と透明性に課題」
朝日新聞2011年3月22日朝刊 「放射能 食の対応急ぐ」 「風評・市場混乱を懸念 葉物野菜は対象拡大も」
  「出荷自粛・回収相次ぐ」
朝日新聞2011年3月23日夕刊  「野菜、風評被害に懸念 長引けば品薄にも」
  <野菜農家「もうお手上げ状態」> <酪農家「生計の見通し立たない」> 
  「乳幼児は注意必要 摂取制限、対象を広く」
  「4県産の農産品 米当局輸入禁止  福島・茨城・栃木・群馬」
日本経済新聞2011年3月23日夕刊  「摂取制限の範囲は 家庭保管分も対象」
朝日新聞2011年3月24日朝刊
  「水道水 どうすれば」「Q赤ちゃんがいるのですが粉ミルク溶くのは控えて」
  「Q大人はいいの? 今は心配する必要ない」 「Qこれからは?数値の変化推移見守ろう」
朝日新聞2011年3月25日朝刊 「池上彰の新聞ななめ読み」「原発事故報道専門用語が不安を増幅する」
朝日新聞2011年3月25日朝刊
  「Q水道水と赤ちゃん 現状は?母乳の心配なし 妊婦も影響なし」 「Q料理は?歯は?うがいは?
  子どもを別にする必要なし」 「大人は譲ろう」「都、いったん制限解除 金町浄水場ヨウ素半分以下に」
日本経済新聞2011年3月25日夕刊
  「放射線 少量なら健康被害なく」「万一のとき、身を守るには 距離をとる・外出時間短く・衣服で肌覆う」
日本経済新聞2011年3月27日朝刊
  「経済論壇から 東京大学教授 福田慎一 大震災が示す日本経済の課題 今度こそ構造改革を」
朝日新聞2011年3月30日朝刊
  「食品安全委 セシウム暫定基準 維持 厚労省に結論委ねる 最低限の線引き急ぐ」
朝日新聞2011年3月30日夕刊
  「海水 放射性ヨウ素3300倍 福島第一から330メートル南」