オトナの食育 
所感編 第26回(通巻55回)2010/11/10号掲載 千葉悦子(高28)

2010年11月5日開催 日本食品衛生学会 公開講演会
<「健康食品」の安全・安心とリスク>を拝聴して

 
 今年11月5日開催、社団法人 日本食品衛生学会の公開講演会を拝聴しました。多くの方々に知って頂きたい、危険を避けて、健康に役立つことがたくさんありましたので、私が理解出来た範囲ですが、少し書きます。

「健康食品」はあいまいな言葉だが、よく売れている
 医薬品が法律できちんと定義されるのと対照的に、いわゆる「健康食品」という言葉は無定義で使われ、ごく普通の食品と同じ扱いとなります。
 ですが、市場規模はバカになりません。今回の講演者の1人、蒲生恵美氏によると、トクホを除く健康食品は1兆円、特定保健用食品(トクホ)は6,800億円、ということです。
 たしかに、雑誌やネットのみならず大手新聞にも、そのたぐいの広告が派手にしばしば載っています。ということは、多額の広告料に見合うほど、売れるのでしょうね。

「食品だから安全」と考えるのは危険
 どの講演者も「<食品だから安全>と考えるのが非常に危険である」ということでした。
 「健康食品は医薬品としての審査を受けていない」と「人と健康」にありますし、私も、何度もあちこちの講座でそう拝聴してきました。それだけに健康食品は玉石混交と言いましょうか、粗悪なものもあれば、高品質なものもあると言われます。

表示がいいかげんなものもあり、危険なものもあるので注意 
 まじめな商品もあるでしょうが、ときには、表示と違うものが入っている場合があり、食品に入れてはいけない医薬品成分が、こっそり入っていることがあるそうです。たとえば、ダイエットを標榜する製品に、下剤の作用を持つものや、食欲抑制剤が入っていた事例があるということです。「薬」ですから当然、量が多いと副作用があり、死者も出たほどです。もちろん、医薬品成分が入っていると分かれば流通出来なりますが、分からなければ流通します。なお、危険な成分を検出しにくい理由の一つは、医薬品として知られる成分の化学構造の一部分を変えている場合があることです。似た構造なので作用も似ますが、少し違うため検出に手間取ります。時間を稼いでいる間に、悪徳な業者がどんどん売りさばくのです。

個人輸入は特に危険
 個人が輸入する場合、日本の法律で守られていませんから、安全性の保証はなく、個人の責任であり、国内法の適用がなく、「販売中止」にできないということです。

薬との飲み合わせも考えましょう
 「薬を飲むときは白湯」は常識でしょうが、牛乳やグレープフルーツジュースなどで飲むと、薬が吸収されやすくなったり、されにくくなったり、また、効果が増強したり、減衰したりする場合があるそうです。
 このように、健康食品とは誰も考えない、普通の食品にも薬との飲み合わせの問題があるくらいですから、特定の成分を濃縮する場合が多い健康食品では、作用はそれだけ深刻と考えられます。

たかが「どくだみ茶」と侮るなかれ
 5日の長村洋一氏によるご講演の例で、一番私が驚きましたのは、どくだみ茶です。私にとって「どくだみ」は実家の庭にたくさん生えて困る草で、「出来ものに効く」とか言い、父がたまに煎じて飲んでいました。煎じている間、家中に悪臭が立ち込め、子どもでした私はにおいも味も大嫌いでした。そのくらい、生活に密着したものでして、まさか次のような恐い場合があるなど、思ってもいませんでした。
 「どくだみ茶」は、カリウムが極度に多く、本態性高血圧者の多くは、飲むと血圧が下がるそうです。そこまでは良いのですが、その体験談を聞いて、腎臓が悪く、かつ、高血圧の人が真似して飲むと、ひどい場合は心停止だそうです。なお、本態性高血圧は「応用栄養学」に「高血圧の多くは、本態性高血圧とよばれるもので、その原因は不明であるが、いくつかの遺伝的因子、環境因子の関与が明らかにされている。」と説明されています。
 食品だから、昔から馴染みがあるから、などと過信せずに、薬剤師・医師といった専門家に飲み合わせについて、きちんと聞くことが大事ですね。

最後に
 薬を飲まなくてはならないほどの病気になると、飲み合わせ・食べ合わせに気を付けなくてはならないことが多く、食を気楽に楽しめなくなります。
 個人的なことで恐縮ですが、私は花粉症や風邪の薬以外は飲まずに済んでいるので、ありがたいことと改めて思いました。健康を保つには、食事・運動・睡眠(休養)の3つが大切と、中学の家庭科の教科書にもあり、基本です。
 群馬大学教授、高橋久仁子先生は日経の10月24日の記事を「健康食品で健康は買えません。」と締めくくられています。
 私が出来ることということで、食事のヒントをこれからも少しずつ書いていこうと思いました。


■引用文献等
スタンダード栄養・食物シリーズ1 「人と健康」大塚譲・河原和夫・倉田忠男・冨永典子編 
        東京化学同人(2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ10 「応用栄養学」近藤和雄・鈴木恵美子・脊山洋右・藤原葉子編
        東京化学同人(2005)
日本経済新聞2010年10月24日朝刊 知っ得ワード「フードファディズムC 
        健康食品に潜む落とし穴」高橋久仁子

主な参考文献等
スタンダード栄養・食物シリーズ5「食品学」―食品成分と機能性―第2版 
           久保田紀久枝・森光康次郎編 東京化学同人(2008)
日本食品衛生学会公開講演会「健康食品」の安全・安心とリスク、レジュメ
「薬草カラ―図鑑」伊沢一男 主婦の友社(昭和58年)
日本経済新聞2010年10月31日朝刊 知っ得ワード「フードファディズムD
           健康食品の販売戦略を知る」高橋久仁子