オトナの食育 
所感編 第25回(通巻54回)2010/10/10号掲載 千葉悦子(高28)

公開講座 メディア情報の読み解き方〜リスクとは何か より

 

 今年10月2日に行った、「食のコミュニケーション円卓会議」主催の講演会に参加して、特にお知らせしたいことを書きます。
 講師は小島正美氏(毎日新聞生活家庭部編集委員)です。リスク関係について、非常に多くの新しい例を挙げてくださり、目が開かれました。食の問題以外とはいえ、自分は事実を知らないものだと、改めて思う例がいくつもありました。
 たとえば、「耐震偽装事件は姉歯の単独犯行だった」「エイズ薬害事件で安部氏は無罪だった」などは、恥ずかしいですが、私は存じませんでした。
 何か、いわゆる事件が大きく報道されるとき、受け手の感情に訴えるほど、また、物語性が強いほど、印象が強いものです。ところが、初期の報道は、報道する側もよく理解せずに、勝手な憶測も交えて、前に報道されたものをもとに作成することが多く、いったん不正確な報道が始まると、それが連鎖しがちということです。そのうえ、間違えを認めたくない心理が働き、訂正記事を載せたがらず、また、載せたとしても小さく報道しがちです。
 また、一記者が従来と異なる記事を書いても、デスクがボツにすることが多々あるそうです。それで、多くの人が初期の大きな報道の印象のままで、その印象とかけ離れた裁判の結果や顛末を知らずにいることが多いです。
 こういったお話を伺うと、私は「例の大々的に報道された事件、本当はどうだったの?」という報道を、歓迎する人が増えることが必要と考えます。きちんとして落ち着いた、事実に基づく説明を歓迎する人が多ければ、その需要に合う仕事が増えるはずです。

安易な形だけの「両論併記」になりがちなのは、どうしてか? 
 小島氏が、「新聞は購読者(お客様)あってこそ。記事に批判があると、僕だって会って話しますよ。」とおっしゃいました。ただし、「遺伝子組み換え反対」「添加物は危険」と信じている人の方が、批判してくるということでした。このような読者がいる限り、無視できないので、そういう意見も取り入れた記事になっていくそうです。
 そこで、「オトナの食育」本年7月号で書きました、「両論併記」の形をとることになります。しかし、正しい科学と偽科学を併記の形で載せることは、その分野についての素人を混乱させます。
 こういう構図があることを、メディアの受け手は十分承知して、報道を受け取っていく必要があります。私は自分自身、気を付けるとともに、受け持つ生徒や学生に伝えていきたいと思いました。

エコナのリスクはざっとポテトチップスくらい
 小島氏の新刊「こうしてニュースは造られる 情報を読み解く力」は、難しい数式は使わずに、「このように考えれば、今までと違った前向きな見方が出来ますよ」と多くの例を挙げて明快に説明なさっていて、お勧めです。
 今回のお話にも、この新刊にもあるのですが、「一頃マスメディアをにぎわせたエコナのリスクは、ざっとポテトチップスくらい」ということです。このように、「何かが危険だ」という報道をするとき、リスクの程度を一般の人が分かりやすいように、たとえば「○○と同じ程度だ」といった工夫のある表現を書き添えることを小島氏は勧めていました。氏によれば「もしも<エコナのリスクはポテトチップスくらい>と書いたら、ニュースにならない。」ということでした。私も共感いたします。
 「オトナの食育」09年11月号で少し書きましたが、エコナのリスクはかなり小さいのです。しかし、報道は小さくなかったです。つまり、リスクの大きさと報道の大きさは比例しません。これを教訓に、今後、何かリスク関係の報道が大きく出ても、冷静に受け止めていきましょう。

記者のバイアスがあることを前提に、情報を受け取りましょう
 小島氏が話されましたが、「メディアの報道は、リスク関係の場合、記者のバイアスがかかることが多々ある」ということを踏まえたいものです。氏が「食品安全委員会のホームページを皆が直接見れば良い。そうすればバイアスがかからない。でも、あの長い説明を読める人は少ないでしょう。」とお話されました。
 私も何度か「オトナの食育」で食品安全委員会のホームページを紹介して参りました。時間がないのはある程度分かりますが、ご自分にとって必要なときは、何とか時間を作って、直接それを読んで頂きたいです。

主体的な消費者を目指すには?
 職業柄「いかに消費者教育を行うか?」と考えます。売り手に都合の良い「忙し過ぎて、よく考えられない生活」「享楽だけに走り、まじめに考えることをバカにする風潮」「結果だけを求め、過程を楽しまず、軽視する風潮」「周りの人とじっくり話すことができない多忙さや関係の希薄さ」などが問題と思います。主体的な消費者になる第1歩は、忙しいなかにも、新しい正確な情報をもとに、自分の生活を振り返り、考える、そういう習慣を付けることではないか?と思います。
 さらに、異なる立場の方々の説明を聞くことも大事と、今回の公開講座で再確認しました。たとえば、7月号に書きました両論併記の形をとる、その背景についても、考えが深まりました。
 皆様はいかがお考えでしょう?
 また、忙しい日常だからこそ短めに、まだあまり知られていない食についての大事なことを「オトナの食育」で紹介する意味があるのだろうとも思います。それで、私はこの連載を続けていきたいと改めて思いました。

引用文献
小島正美 「こうしてニュースは造られる」情報を読み解く力 エネルギーフォーラム(2010)
主な参考文献等
食のコミュニケーション円卓会議」のホームページ URL:http://food-entaku.org/
小島正美 「誤解だらけの「危ない話」食品添加物、遺伝子組み換え、BSEから電磁波まで」
        エネルギーフォーラム(2008)
「オトナの食育」2009年11月号 安井至先生の講演「食の将来と21世紀型リスク感覚」を拝聴して
「オトナの食育」2010年7月号 食情報の捉え方やその教え方 ・・・両論併記について