オトナの食育 
所感編 第22回(通巻51回)2010/7/10号掲載 千葉悦子(高28)

食情報の捉え方やその教え方・・・両論併記について

 
 7月6日、19時半からのNHKクローズアップ現代で、「問われる表現▽イルカ漁映画」を取り上げていました。この番組をご覧になられた日本人は、たいがい「クジラやイルカの漁に反対する過激な団体も、この映画の上映に力ずくで反対する側も、ずいぶんだ。」と感じられたのではないでしょうか?
 この例のように、理屈に合わないことや、他者を受け入れられない程度のひどさなどが際立っていると、適切に判断しやすいものですね。
 ところが、食に関する情報には、両論あって素人にはどちらが正しいのか分からない場合がよくあります。
 各教科や総合的な学習で、児童や生徒に調べ学習をさせることがあります。「世の中にはいろいろな説がある場合が多いので、参考文献(ネットの情報も含めて)は3つ以上」などと、私の職場では指示します。それでも、ときには偏った情報をもとにまとめてしまうことがあります。教員がすぐ偏っていると判断出来る場合は良いのですが、正直なところ判断が難しいテーマの場合もあります。
 教師も保護者も含め、専門家でない大人自身が、メディアに両論併記してあると、どう考えたものか理解しがたい場合があります。また、両論併記することは正しい報道の仕方のような気がしがちですが、食品添加物、残留農薬、遺伝子組換え、食品照射などについて再教育講座や食のコミュニケーション円卓会議の例会(詳しくは前号をご覧ください)などで勉強していくうちに、必ずしもそうとは限らないと気付きました。でも、自分の頭で「違う」と思いましても、うまく人に伝えられないもどかしさがありました。
 最近、「食品安全情報ネットワーク(FSIN)」という団体がホームページを立ち上げ、その活動報告の中に、明快な説明がありましたのでお知らせします。http://sites.google.com/site/fsinetwork/katudou/oishinbo
 漫画「美味しんぼ」第592話での遺伝子組み換え作物および農薬の安全性に関して、小学館編集長宛てに訂正要望の文書を出し、話し合いの機会を持った報告です。
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 漫画の構成は一見「両論併記」の形をとっていますが、それは社会通念上認められるものではありません。両論併記とは、たとえば目的にたどり着く合理的な道筋が2つあるようなときに両者を紹介する方法であり、今回のように明確に科学的な決着がついている問題について、正しい科学と偽科学を並べて両論併記と主張することはあり得ません。このような取り扱いは、両者がともに科学的根拠を持つものという大きな誤解を読者に与えるだけです。
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 ただ、困ったことに、専門家にとっては「明確に科学的な決着がついている」のに、メディアを含め一般の人には決着がついていること自体が伝わっていないことがよくあります。科学技術は進展するので古い知識にとらわれないよう、学校教育も社会人教育も大事ですし、それぞれが食品安全委員会をはじめ、なるべく中立公正で信頼のおける新しい情報を得ようと努力することが必要と考えます。
 私のできることとして、この「オトナの食育」で、世の中の食に関する誤解を少しずつでも解いて行けると理想と思います。応援、どうぞよろしくお願いいたします。

■参考文献等■
食品安全情報ネットワーク(FSIN)のホームページ

http://sites.google.com/site/fsinetwork/katudou/oishinbo