オトナの食育 所感編 第19回(通巻48回)2010/4/10号掲載 千葉悦子(高28)
我が家に体脂肪計付き体重計がやって来た!
年齢とともに健康の基本を再確認し、食生活についてリスクの程度を考慮し、優先順位を考えましょう
暖かくなると薄着になり、お腹周りが目立ちます。 我が家の今年に入ってからの夫婦の会話から。 夫(23回生)「うちの体重計、壊れたのではないかな?」 私 「前から少し多めになるんだけど・・・」 (これは本当です。他で量ると少ない値が出ました) 夫 「うーん、だいぶ多い・・・」 私 「それは、あなたが太ったからでしょ。」 夫 納得できない様子 私 「あの体重計だいぶ古いから、新しいのを買う?」 というわけで、いつ購入したか思い出せないほど長く使った体重計の代わりになるものを求めて、珍しく2人そろって買い物に行きました。 時間貧乏な私は何の下調べもせず、都内家電量販店へ行き、クラクラしました。体脂肪計も付いているものが主流で、その上、種類が多過ぎ、浦島太郎の気分でした。 「肥満は体重が多いことではなく、脂肪組織が過剰に蓄積した状態」 と講義する立場の私としては、体脂肪を推計するだけとはいえ、測れる機械に興味津々。一方、体重計だけの機能なら、2,000円〜3,000円は安価で、貧しい国の人が飢餓で苦しんでいるのに、日本の自分たちがそういう機械を所有するのは後ろめたく思いました。また「数字に振り回されるのは愚か」とも思い、迷いましたが、「自分たちのお腹周りと体脂肪がこれ以上大きくならないように、気を付けるきっかけになれば良いではないか」と考えて、体脂肪推計の機能のついた体重計を選びました。 なお、朝日新聞2010 年3月15日朝刊「あなたの安心」によると 体脂肪計は脂肪が電気を通しにくい性質を利用し、体に弱い電気を流して、流れやすさを測り、脂肪量を推計する。 ということです。 4名まで、あらかじめ身長・年齢・性別を機械に覚えさせておくと、体重と体脂肪率だけでなく、BMIや骨格筋率の推定や内臓脂肪レベル、おまけに「体年齢」まで出ます。 お風呂に入る前に、恐る恐る体重計に乗りますと・・・。現在、毎日一緒に暮らしている家族4人、それぞれ、それらしい納得できる値が出ました。運動している順に体脂肪率が少なく、骨格筋率が高かったです。 夫は、実年齢より20歳以上も若い体年齢でしたから、笑いながら、自分の体重が以前より増えたことを納得した様子。家族が「体重計が壊れたのではなく、お父さんが太った」と強く言う代りに、新しい体重計が示すことにより、家族関係がぎくしゃくしないですんで良かったとも考えられます。 長女は「大人のおもちゃね!体脂肪は推計するだけだから、どれだけ正確か分からないけれど、この機械なりに増減は出るわね。」と私が考えていたことと同じことを笑いながら申しました。 末子が高校生となり、幼い子がいない生活の中で、久しぶりに新しいおもちゃが我が家にやって来て、笑えました。 食生活についてリスクの程度を考慮し、優先順位を考えましょう このところ「トランス脂肪酸の表示を」などというニュースが流れますが、従来の日本人の食生活では、欧米と違い、もっと注意すべきことが別にあります。年齢が上がると、運動不足がはっきり体に現れることは、私たち夫婦の体験からも分かります。まずは適度な運動が大事でしょうが、あと、夜遅くに食べないといったことも若い頃よりきちんと実行する必要があります。もちろん、肉ばかりでなく、魚や大豆製品からもたんぱく質を摂りましょう。 高血圧の予防には、塩分を控え、カリウムの多い野菜・いもなどを十分摂り、果物も適量、召し上がることが基本です。 また、栄養の過不足のないバランスの良い食生活―これまで「オトナの食育」で書いてきたこと―を実行することが大事です。脂質を摂り過ぎなければ、おのずとトランス脂肪酸も問題なほどは摂らないですみます。たとえば脂質の多いお菓子の食べ過ぎは、トランス脂肪酸以前の問題といえましょう。 仮にトランス脂肪酸の表示が実現しても、それだけ減らしたところで、上記のような基本を忘れては、健康にはなりません。それどころか、リスクとしてほとんど問題ないトランス脂肪酸について、数字に振り回され、少ない表示のものを選ぶことにより安心してしまい、別の大きなリスクの対策を忘れては、かえって不健康です。 さらに、表示の義務を増やすと手間が掛かり、その分商品の価格が上がります。消費者にとって、「諸外国に倣って表示する」ことが必ずしも善とは限りません。以前書きましたが「木を見て森を見ず」のような瑣末な栄養情報に惑わされず、個人や社会にとっての優先順位をしっかり見極めましょう。そのためには、表示の充実よりまず、食育を土台から充実させたいものです。 ■引用文献等 朝日新聞2010 年3月15日朝刊「あなたの安心」 <隠れ肥満」にご用心 (3) >「体重の変化など記録し予防に」 ■主な参考文献等 「スタンダード栄養・食物シリーズ1 人と健康」大塚譲・河原和夫・倉田忠男・ 冨永典子編 東京化学同人(2003) 「スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学 第2版」倉田忠男・鈴木恵美子・脊山洋右・野口忠・藤原葉子編 東京化学同人(2007) 「スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学 第2版」―食品成分と機能性― 久保田紀久枝・森光康次郎編 東京化学同人(2008) 「スタンダード栄養・食物シリーズ13 臨床栄養学各論」 小松龍史・近藤和雄・脊山洋右・森田寛編 東京化学同人(2008) 「食のリスク学」―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点― 中西準子 日本評論社(2010) 「ほんとうの「食の安全」を考える」―ゼロリスクという幻想― 畝山千香子 化学同人(2009) 日本経済新聞2010 年3月7日朝刊「ほどほど健康述」「楽してやせる方法なし」 日本経済新聞2010 年3月14日朝刊「ほどほど健康述」「減量法に王道なし」 朝日新聞2010 年3月13日朝刊「あなたの安心」 <隠れ肥満」にご用心( 1) >「見過ごされやすい内臓脂肪」 朝日新聞2010 年3月14日朝刊「あなたの安心」 <隠れ肥満」にご用心 (2) >「いい加減な食事で脂肪率増も」 朝日新聞2010 年3月16日朝刊「あなたの安心」 <隠れ肥満」にご用心 (4) >「バランス5点」を心がけて 朝日新聞2010年3月23日夕刊「トランス脂肪酸 お菓子で取りすぎ?」 「30〜50代女性 高い傾向」「東大など調査」 食品安全委員会のホームページにあるファクトシート「トランス脂肪酸」 FoodScience うねやま研究室 (残念ですが日経フードサイエンスは3月に終了し、4月からはネットで見られません) うねやま研究室●食品リスクへの対応--トランス脂肪酸への対応を例に-- うねやま研究室●トランス脂肪酸の表示に潜む問題 |