オトナの食育 所感編 第18回(通巻47回)2010/3/10号掲載 千葉悦子(高28)

食品安全委員会資料「食中毒を防ぐ加熱」の活用を
弁当作りには特に気を付けましょう

 

 来月からお弁当作りが始まる方、学生や社会人としてお子さんを送り出し食生活についても心配な方がいらっしゃることでしょう。
 暖かくなるのはうれしいですが、食中毒の対策がより必要となります。「お弁当の注意点」の一つが「よく加熱すること」ですね。
 では、「どのくらい加熱する必要が科学的にあるのか?」その具体的なことは、文字だけでは伝えにくいものです。子どもたちがお手伝いをしなくなり経験不足となり、たとえば高校生が学校行事のバーベキューで食中毒を起こすこともあるとか。
 そのようなときにお勧めしたいのは、食品安全委員会資料「食中毒を防ぐ加熱」という畑江敬子先生(食品安全委員会委員)の具体的な解説や写真で構成するスライドです。
 お弁当と言えば「卵料理」「ハンバーグ」が定番と言えましょう。それにぴったりの資料もこのスライドに入っています。

卵料理の注意点
 たとえば卵はサルモネラ汚染がありえます。サルモネラ属菌やO-157 の対策は「75℃、1分以上の加熱」です。ところがおいしいと言われる、中がトロッとしているオムレツですと中心温度は68℃、とこのスライドに写真入りで説明されています。そういうわけなので、お弁当には向きません。中までしっかり焼いて、冷ましてから入れるしかありません。
 <卵のうち0.03%からサルモネラ・エンテリティディスが検出されたという報告がある>とスライドにあり、「スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学 第2版」には、<食肉処理場は近代化が進みつつあり、サルモネラ汚染率も低下してきている。鶏卵は殻つき卵可食部は約0.02%、(中略)汚染されている。>とあります。体調が悪いと賞味期限内でも、ごくまれにあたることがあるかもしれません。
 お弁当ではないですが、親子丼のおいしそうなトロッとした感じが残っている状態や、温泉卵(「オトナの食育」所感編第11回参照)の中心温度は低いです。
 こういった料理を作るときは、賞味期限内のもので冷蔵庫保存した卵を必ず使いましょう。賞味期限とは一般的には「おいしく食べられる期限」を言いますが、卵の場合「家庭の冷蔵庫で保管したときに、生で食べられる期限」です。
 ただし、賞味期限を少し過ぎた卵であっても、良い状態で冷蔵保存してあれば、よく加熱することで安全に食べられます。卵の殻にひびが入っていなければ、卵は長期に保存できる食品であることもお忘れなく。

牛のステーキは外側を焼けばOK、ひき肉や成型肉は中までしっかり焼く
 上記スライドによると<動物の体内で、細菌、ウイルスがいるのは通常気道と消化管のみ。筋肉の内部は無菌。しかし、かたまり肉の表面は、有害な微生物で汚染されている可能性がある。>ということです。牛のステーキはレアを頼んでも大丈夫な理由が分かりますね。
 豚は雑食なので牛と違い、中までよく加熱しなくてはならないことは、広く知られていることでしょう。
 ひき肉は、たとえ牛肉であっても中までしっかり加熱する必要があります。見た目、どのくらいまで加熱するかは、ぜひ上記スライドをご覧ください。
 最近、成型肉が流行りだとか。細かい肉を張り合わせて作るので、ひき肉同様、十分中まで加熱する必要があります。ところが、セルフサービスで焼く場合、お客さんがそのことを知っていて、きちんと焼かないと、食中毒を起こすことがあります。食品製造技術が向上し、安価でやわらかい肉が食べられるのは良いことでしょうが、消費者も知識の更新が必要です。

外国ではハンバーガーのパテを照射する場合がある
 米国をはじめ、レアステーキを食べ慣れた人たちは、ハンバーグまでレアっぽくしたがるという話を耳にします。だから食中毒が日本に比べて非常に多いとか。その対策として、ハンバーガーのパテを冷凍のまま照射したりするそうです。それなら、照射により殺菌するので、赤い肉汁が残るような焼き方でも食中毒を起こさなくてすむというわけです。
 外国での生活の気分のまま、日本で赤い部分が残るひき肉料理を食べるのは危険です。切り替えて生活する必要があります。
 海外旅行が特別なことではなくなったと言ってよいでしょうが、食について前提となることが異なることを忘れないようにしたいです。

■引用文献等■
食品安全委員会のホームページの食品安全委員会資料「食中毒を防ぐ加熱」
http://www.fsc.go.jp/sonota/shokutyudoku_kanetu.pdf
スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学 第2版」一色賢司編 東京化学同人(2005)
■主な参考文献等■
スタンダード栄養・食物シリーズ6 調理学」畑江敬子・香西みどり編 東京化学同人(2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ7 食品加工貯蔵学」本間清一・村田容常編 東京化学同人(2004)
朝日新聞2009年9月12日夕刊
   「サイコロ肉よく焼いて」「成形、内部に菌も」「相次ぐO 157」「原因の36%肉と加工品」
朝日新聞2009年11月28日朝刊
   「あなたの安心」「知ってる?卵(1)」「生や半熟調理で食中毒発生」