オトナの食育 所感編 第16回(通巻45回)2010/1/10号掲載 千葉悦子(高28)

照射食品について その5
食品についても新技術の開発が必要

   
 新年おめでとうございます。
 私が照射食品について体験実験をしていることなどを旧友に話したら「もうこれ以上、自然でないものは増えないでほしい」と激しい拒否感情を伴って言われました。この気持ちは、最近の食の事情を学ぶ前の私の気持ちと重なります。旧友はお子さんが二人いて、病院の世話になることもあり、子育てや自分の健康について、よくある程度に苦労している様子だからです。
 しかし感情的に共感できる面があるとはいえ、そればかり言っては、食料の安定供給が難しくなりますし、税金の無駄遣いをなくすことができません。
 今回は、どうして食品についての新技術の開発が必要なのか、例を挙げてご説明したいと思います。

栗にも殺虫処理が必要
 昨秋、私を含む「食のコミュニケーション円卓会議」のメンバー数名で、
秋の味覚の一つである栗に照射してみようということになり、専門家のお話を伺ったり、調べたりしました。
 栗は収穫後、何も処理しないとクリシギゾウムシという虫が発生します。
庭に栗の木がある方にとっては常識でしょうが、そうでない都市に住む多くの人には、知られていないでしょう。店頭の栗には、たいがい殺虫処理が施してあり、消費者はクリシギゾウムシを見る機会がないからです。

臭化メチルはオゾン層を破壊する→新技術の必要性
 栗の殺虫には長く臭化メチルという農薬が使われてきたそうです。が、オゾン層を破壊すると分かり、先進国では2005年には全廃することが決められました。
 頼り切ってはいけないウィキぺディアですが、それによると「臭素原子は塩素原子の60倍ものオゾン層破壊力を持つため、モントリオール議定書ではオゾン層破壊物質として指定されている」などとあります。
 ただし、臭化メチルに代わる方法が見つからない場合「不可欠用途」として申請し、認められたものに限って、2005年以降も臭化メチルを使えるそうです。とはいえ、オゾン層破壊力の強いものは使わないに越したことがないので、他の新技術を探す必要があることは素人の私にも理解できます。

とりあえずの代替法はヨウ化メチル、ただし万能ではない
 臭化メチルはくん蒸剤としてだけでなく、土壌滅菌や採種時の滅菌などに広く使われてきました。臭化メチルの代わりにヨウ化メチルが農薬登録され、とりあえず使われるそうです。とはいえ、ヨウ化メチルにも毒性がありますし、農薬といった化学的方法には、耐性菌や耐性のある虫の発生が時間の問題で発生することもあり、何も問題がないとまでは言い切れません。
 食品総合研究所(以下、食総研と略します)のT研究員によると「できるだけ安全で利用しやすい物理的な殺虫方法を開発して、選択肢を増やしておくことも中長期的には必要と研究者は考える」そうです。

物理的方法を試してみました
 昨秋、私たちグループは食総研に伺い、未処理の栗・1日冷蔵庫で保存した栗・
ガンマ線400 Gy照射の栗・高圧二酸化炭素殺虫処理(3MPa/30分)の栗―4種類を試食する機会を得ました。味は、4種ともほとんど差がなく、むしろ栗の個体差の方が大きいようでした。
 照射はまだ日本ではじゃがいもにしか認められていないことが、残念であると思いました。食総研の方が観察してくださり、照射や高圧二酸化炭素殺虫処理により、確かに虫の発生を食い止められるからです。
 高圧二酸化炭素殺虫処理の方は、すでに農薬登録してありますが、経済面で使いにくいそうです。というのは、まるで韮山の江川邸にある昔の大砲のようながっちりした筒の中で圧力をかけなくてはならず、その装置1台に何千万円もかかるからです。
 食総研の宮ノ下明大氏は、今後もっと低い圧力で殺虫出来る方法を考え、装置を経済的にして行くというお話でした。

デパ地下の栗が高価なわけ
 今回、食総研の方が用意してくださる栗が幅4cmくらいの大きなものだということで、ゆで時間を推定するためにデパ地下の幅4cmの栗を初めて購入してみました。単に大きいだけでなく、見た目も変色したところがなく、ゆでて食べると、虫がほとんどの栗に付いていなくて捨てるものがなく、高品質であることを感じました。
 宮ノ下明大氏のお話によると、落ちた栗を丹念に拾い、虫が発生しないようによく管理すると、栗園のクリシギゾウムシが少なくなるので、そもそも栗に付く虫の数が少なくなるということでした。
 また、食総研で私たちが実験するとき、外側から見ていかにも虫にやられていそうな黒っぽく変色している栗は、はずしました。購入から1日経っていたので当然でしょうが、はずした栗がけっこう多かったです。
 虫の付かないおいしい栗を育てて商品化するには、工夫や労力がたくさん必要であることを理解しました。デパ地下の高価な栗には、それなりの労力がかかっているらしいことも理解できました。

日常食は経済性も大事
 しかし、毎日の食事は「デパ地下価格」ではやっていけません。それほど栗園に手をかけなくても、栗のクリシギゾウムシを殺虫する安全で経済的な技術が必要と考えます。
 以前はその方法が「臭化メチル」だったのですが、前述のように使えなくなり、他の良い方法を開発する必要が出てきました。
 このような栗の例により、食品についての新技術の開発が必要であるとご理解頂けたのではないでしょうか?

引用文献等
ウィキぺディア

主な参考文献等
「食のコミュニケーション円卓会議」URL: http://food-entaku.org/
「不可欠用途臭化メチルの国家管理戦略改定版」2008年4月 日本政府 農林水産省 http://www.env.go.jp/earth/ozone/cfc/methyl_ja.pdf#seach=‘臭化メチル’


↑黄色いものが          ↑高圧二酸化炭素殺虫処理装置
    クリシギゾウムシ