オトナの食育 所感編 第14回(通巻43回)2009/11/10号掲載 千葉悦子(高28)

安井至先生の講演「食の将来と21世紀型リスク感覚」を拝聴して
・第45回日本食品照射研究協議会一般講演のお知らせ

 
 オトナの食育9月号で紹介しました「食のコミュニケーション円卓会議」公開講座―安井至先生の講演「食の将来と21世紀型リスク感覚」を10月20日、拝聴しました。
 興味深い様々なお話の中で、特に印象に残りましたことを書きます。

エネルギー自給率は食料自給率よりもっと深刻

 <日本の食料自給率はエネルギーベースで約40%であり、非常に低いと憂慮されるが、エネルギー自給率の3.8%〜4%に比べると高い。エネルギーを専門とされる安井先生にしてみると、40%で心配するのはうらやましいくらい>ということでした。
 10月号で紹介した「本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー」を読んでおりましたので、「確かに」と思いました。もちろん私も食料自給率の低さについて心配をし、生徒や学生に伝えますが、エネルギーの方がもっと問題だという視点は大事です。しかも、農業や漁業自体にエネルギーが必要です。農業機械や船を動かすにもエネルギーがいりますし、ハウス栽培なら暖房用のエネルギーが必要な場合もあるでしょうから。また、たとえば収穫から1年近くたった米がおいしいのは、冷蔵保存のお陰です。品質のそれほど高くない新米より、質の良い古米の方がおいしい場合があるほどです。食料の冷凍や冷蔵にもエネルギーが必要です。このように、食を支えるにもエネルギーが必要なので、食の問題を考えるとき、あわせてエネルギーのことも考えなくてはなりません。

リスクとは
 安井先生はパワーポイントで次の式を示されました。
  実リスク=現象の危険度(Hazard)×現象に遭遇する確率(Exposure)
         ×{対照の脆弱さ(Vulnerability)}
  主観的なリスク???=現象の危険なイメージ×不条理

実リスクは、言い換えると「客観的なリスク」です。
 従来、メディアによるリスクについての伝え方は、必ずしも客観的ではなく、現象の危険なイメージを大げさに伝えるだけで、ハザード自体も、現象に遭遇する確率あるいは暴露量も、的確に伝えてこなかったと思います。
さらに、視聴者がこの辺りを冷静に考えて受け止めないことが多かったと言えるでしょう。
 しかし、赤字国債が増え続ける日本で、主観的なリスクの低減のために公的な資金を使うのは、愚かと考えられます。客観的なリスクの大きさを的確にとらえて、優先順位をきちんとつけ、リスク低減を実行していきたいものです。

タバコやお酒を飲むなら、わずかな食のリスクなど言えない
 現在の日本を含む先進国では、食のリスクは非常に低く、過去最高の安全な状態だそうです。昔の中国の皇帝のような贅沢な食生活と言えましょう。タバコや適量以上のお酒は、BSEだの残留農薬だの食品添加物などに比べ、リスクが非常に大きく、たばこやお酒を飲むなら、その程度の食のリスクなど言えない立場というお話でした。

安全圏という考え方をし、ある程度のあきらめも必要
 <ゼロリスクは存在しないことを前提に、食について考えるべきである。たとえば植物は人に食べられるためにあるのではなく、野菜も自己防衛のためにいろいろな化学物質を含んでいる。
 この程度なら十分安全といった「安全圏」という考え方をしないと、現実的でない。また、人間はいつまでも生きていられるわけでないし、ゼロリスクは存在しないので、ある程度の諦めも必要>というお話がありました。

もしもエコナが家に残っていたら、どうされます?
 エコナの問題は、このところ新聞にも出ていました。詳しい解説は、安井先生や食品安全委員会のホームページをご覧ください。
 私としては、安井先生のご説明を伺って、もしも自分の家に残っていたら、捨てずに自分自身は食べると判断しました。要するに、その程度の低いリスクであり、たとえばタバコを吸う習慣があるのにエコナを廃棄するなど、
「目がつぶれる」といった罰あたりな行為と考えられます。
 でも、正直なところ子どもには食べさせたくないです。人生がこれから始まるのですから。
 なお、そもそも私はエコナを購入していませんでした。なぜなら、私や私と一緒に暮らす家族は、中性脂肪が高いとか対策しなくてはならないほどの肥満とかいった問題をまだ抱えていないからです。
 「オトナの食育」でこれまで書いてきましたように、ご自分や家族の状況を的確に把握し、お財布に合わせて、食品を選択することをお勧めします。
 まだまだ、紹介し足りませんが、今回はこのくらいにさせて頂きます。


第45回日本食品照射研究協議会一般講演のお知らせ
 私を含む「食のコミュニケーション円卓会議」というグループが主となり、本年12月4日に行われる第45回日本食品照射研究協議会のポスター発表をします。3分間、ポスターの宣伝のような感じで口頭発表もします。題は
市民によるリスクコミュニケーションのための食品照射の体験実験」です。
 発表前なので、あまり細かなことは書けませんが、栗・ブドウ・ご飯などの食品に照射処理をして試食をするといった体験を基に考え、専門家からお話しを伺うなどして、食品照射を主としたリスクコミュニケーションについて考えたことをまとめます。詳しくは日本食品照射研究協議会のホームページhttp://jrafi. ac.affrc.go.jp/をご覧ください。
  
主な参考文献等
「本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー」PHP新書546 養老孟司・竹村公太郎(2008)
「誤解だらけの「危ない話」」食品添加物、遺伝子組み換え、BSEから電磁波まで 
   小島正美 エネルギーフォーラム(2008)
朝日新聞2009年10 月15日朝刊<脂肪の吸収・コレステロール低下…トクホ「効果」は限定的
                       条件細かく注意が必要>
同上 「商品情報よく読んで ■ 医薬品とは違う」国立健康・栄養研究所の梅垣情報センター長
朝日新聞2009年10 月28日朝刊「花王が減収減益 中間決算 エコナ問題直撃」
日本経済新聞2009年10 月22日朝刊  経済教室 
   「政府、リスク管理手法磨け 民間に倣い、統合的に 機能不全正し、信頼を回復」林良造
安井至先生のホームページ http://www.yasuienv.net/
食品安全委員会のホームページ 
   高濃度にジアシルグリセロール(DAG)を含む食用油等に関連する情報(最新報)<Q&A>
   http://www.fsc.go.jp/sonota/diacylglycerol_dag5_qa_20091015.pdf