オトナの食育 所感編 第11回(通巻40回)2009/8/10号掲載 千葉悦子(高28)

夏休み特別号
  まだ間に合う自由研究のヒント-温泉卵-

 
 毎日お勤めされている大人は、子どもの夏休みをうらやましく思うことでしょう。しかし、自由研究の宿題が出ているのに、8月10日過ぎてもまだ何もしていないお子さんの親ごさんはハラハラですよね。
 毎年自由研究が課題となるなら、早くから考えておくと理想的です。
二女(大学4年生)が小学生の頃、お絵描き教室で頂いたナスの苗を初夏から育て、当時は新鮮でしたパソコンに観察日誌を書き続け、夏休みの初めには枯れてきましたが「まっいいや。これを夏休みの自由研究としよう」ということで、提出した思い出があります。
 内容としては非常に単純でも、植物の成長を観察し続け、きちんと記録をとるのは、それなりに意味があるでしょうし、本人が楽しく自発的に取り組めれば、親子でぎくしゃくすることもなく、親子共に精神衛生上良いと思います。
 しかし、現実はなかなかそういきません。そこで、親子で博物館に出かけるなどして、何とか形にしようとしたりします。出かけられない場合を想定して、家庭科の教員である私にも考え付くことを提案します。

理科の自由研究でも認めてもらえそうな、料理を題材とした自由研究の案
  ・・・温泉卵を作ってみよう

 息子が小学生の頃、旅館に泊まったら、家では食べたことのない温泉卵が出て、本人が「おいしい!」と気に入りました。そこで、自由研究としてではなく、家でいっしょに作ってみましたら息子が楽しそうでした。親や教員としては、子どもが目を輝かせた時が、一番幸福感がありませんか?
 やり方は簡単。65℃〜70℃の湯に卵を20〜25分間、入れておくだけです。
原理は、卵黄は固まるけれど、卵白は固まらない温度帯を保つことにより、卵黄だけ固まっていて卵白は流動性を保っている、というものです。半熟卵が好きな方には、食べやすいでしょう。
 さて、実験室なら「恒温機」という温度を一定にしておく機械があるので、ボタン一つで微妙な温度帯を保てるでしょうし、スーパーで売っている温泉卵もそういう機械を使って、きっと作っていることでしょう。
 しかし、家庭では、この温度帯をどう保つかが問題です。私はやかんに湯を沸かし、発泡スチロールの箱に先に水を入れて温度計で測りながら、熱湯を加えて71℃くらいの湯を作り、卵を入れました。
 注意点としては、熱湯を最初に入れないことです。発泡スチロールから妙な気体が出るといけません。もちろん、やけどをしないようにしましょう。
 時々ふたを開け、温度計を見て、低過ぎたら熱湯を足し、70℃くらいにします。時間を空け過ぎて、65℃より低くなっていたら、卵黄も固まらないので、湯に入れておく時間をその分長くする必要があります。
 私はアバウトな作り方でしたが、算数の問題によくあるように、何度のお湯何ccと、冷蔵庫の温度の卵X個(卵1個およそ60gと考えればよいでしょう)を足して、70℃になるか?を計算により考えて計画しても良いかもしれません。ただし、実際には発砲スチロールからも熱は逃げていきます。
このあたりは、お子さんが算数を苦にするかどうかにかかってきそうです。
 夏には、クール便の頂き物をする場合があるかもしれず、発泡スチロールの箱が手に入りやすいでしょう。また、気温が高いので湯の温度が低くなりにくく、比較的作りやすいことでしょう。そういう意味でもお勧めです。
 食べ方は、割り醤油(醤油と出しを混ぜる)を少しかけるのがお勧めです。
醤油の割合を少なめにすると、色が美しく、塩分控えめになると思います。
 いつもおなじみの卵が、作り方によって不思議な状態になるところに意外性があると思います。先日、大学生に見せたところ「卵は白身から固まるに決まっている」と思い込んでいた人には、驚きがあったようです。
 小学生ならたいがい、素直な驚きや感動がありそうです。
 作ったらお早めにお召し上がりください。たとえば、「O157は熱に弱く、75℃で1分間加熱で死滅する」と言われますが、今回は70℃程度なので不安です。また、卵というとサルモネラ食中毒が心配ですが「食品衛生学 第2版」p.53に<60℃、20分の加熱で死滅する>とあるので、今回の場合大丈夫そうですね。
 「卵は生のまま冷蔵庫に保存すれば持つけれど、加熱するとあまり持たない」とよく言われます。加熱した温泉卵はどうぞお早めにお召し上がりください。遅く帰る家族のためには、冷蔵庫保存をお勧めします。

 温泉卵ではちょっとね…という方は、08年や07年の「オトナの食育」8月号も参考になさってください。
 子どもが成長すると、「手間がかかったけれど、あの素直な子どもの感動に触れることはもうない」と懐かしくなります。お子様が小学生以下の方々は、何かと大変でしょうが、子どもの夏休みを親としてぜひお楽しみください。

■主な参考文献■
スタンダード栄養・食物シリーズ6 調理学」畑江敬子・香西みどり編 東京化学同人(2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ7 食品加工貯蔵学」本間清一・村田容常編 東京化学同人(2004)
スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学 第2版」一色賢司編 東京化学同人(2005)
「新版 調理と理論」山崎清子・島田キミエ・渋川祥子・下村道子共著  同文書院(2003)