オトナの食育 
所感編 第58回(通巻92回)2013/12/10号掲載 千葉悦子(高28)

食についても報道の量に心を奪われず、大切なことに注目を

「ブリのバルサミコ風味、照り焼き」

焦げすぎました。「中火」を守らないといけませんね!


 先月から、食品偽装の問題がメディアにずいぶん取り上げられましたが、私は冷めています。分かっていながら、提供する品物と異なる材料を表示するのは“嘘つき”なので、良くはないです。しかし、どのあたりからウソなのか、線引きするのはけっこう難しそうです。がんもどきに象徴されるように、昔から“もどき”の食品はあり、広く受け入れられる場合もあるからです。たとえば、学生に「片栗粉は、本来カタクリの根からとるデンプンのことでしょうが、現在じゃがいもデンプンであることがほとんどです。」と話すと、「知らなかった。」といった反応が返ってきます。
 また、あまりに厳格になると、食にまつわる“お楽しみ”がなくなってしまいます。このことは、私の食物学科の恩師が、同窓会か何かでお話しなさり、共感しました。
 イタリア旅行中に「おいしい(よ)」と、あちこちの店で声をかけていただき、気分がパッと明るくなりました。中国でも韓国でもなく「日本人かな?」と見ただけで感じ取り、商売のためとはいえ日本語を話しかけてもらえることが、相対的に落ち目である日本の一人として、うれしかったです。厳密な意味などないことが、お互い明らかな場合は、誇張表現が楽しめます。

 さて、食品偽装の問題が報道され始めた頃、道徳の教科化のニュースも新聞で少し見かけました。食の問題ではないので、あまり切り抜いておきませんでしたが、1113日の日経朝刊「春秋」にもそのことが載っています。巨悪をそっとしておいて、アレルギーや食中毒の問題とは異なり、誰も体調が悪くなったりはしない程度の偽装問題だけを大きく何度も報道するのは、一種の目くらましではないか?と疑います。
 もちろん、道徳自体は大切にしたいと私は思います。しかし、人の心の内面まで評価するのは問題です。食品偽造の問題に関しては、新聞2紙を見ていて、参考文献等に載せたようにたくさんの記事が出ましたが、道徳の教科化については、片手以内の本数の記事しか見かけなかったです。

 1年の終わりに、気分が悪くなるような話題で締めくくりたくないので、もっと実用的で、気分が明るくなる話題を今月は主に取り上げます。
 なお、偽装問題について深く知りたい人は、FOOCOM.NETの次の部分と、そこから案内される先をお読みください。
 「ホテルの不適切表示問題。問われるべきは、だれの“罪”?」
 http://www.foocom.net/latest-topics/

 また、食品が危ないのではないか?と心配でならない方は、次をお読みください。
 「食品が危ない!」ブームの空騒ぎ(編集長の視点 松永和紀)
 http://www.foocom.net/column/editor/10377/

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 12月は忙しくて、クリスマスやお正月の準備以外の買い物や料理に、あまり時間をかけたくないものです。近くの店で手に入る材料、しかも、高価でない主菜で、かつ、時間も手間もあまりかからない、見た感じや風味に変化のある、健康的でおいしい料理が求められることでしょう。
 「青魚は体に良いが、いつも同じような味では飽きる」「血合いは鉄分を含んでいて元気が出るけれど、生臭くて食べにくい」といった問題点を解決できるレシピをご紹介します。難点はしょうゆの塩分ですが、酢やハーブやはちみつ(コクが出ます)を使うことにより、塩分控えめにしても満足感があります。
 この料理を作ると、家中にバルサミコ酢等の香りが充満しますので、換気扇は強くつけてください。料理中のにおいがきついですが、食べるとそうではないので、不安にならないでください。
 

「ブリのバルサミコ風味、照り焼き」・・・ご飯に合う!

 日経2012317日朝刊 「<かんたん美味 >ブリのソテー バルサミコ風味」(ベターホームのお料理教室)を作り、非常においしく、ご飯のおかずとして合うので、自分なりのアイディアを加えたレシピを載せます。元のレシピでは、「洋食」の形で、白髪ねぎはなく、カブのソテーを付け合わせにしています。カブの茎を少し残す切り方で、緑色がきれいです。
 しかし、カブの茎を残すには、カブの茎の奥に入り込んだ泥を落さねばならず、私はその手間を惜しみます。しかも、この魚料理は黒っぽくて、何か工夫しないと見栄えが今一つです。そこで、バルサミコ酢を使うこと以外は和風でまとめるという、ちょっとした発想の転換をして、白髪ねぎを飾りました。ブリの脂っぽくて癖のある風味が、バルサミコ酢のほどよい酸味や風味でやわらぎ、さらにネギを添えることで、よりさっぱりします。
 なお、バルサミコ酢は、「改定 調理用語辞典」によると「加熱して酸をとばすと甘味が出るので、肉・魚料理のソースとする。」とあります。
 ふと思い付き、ベランダ栽培のバジルの葉(元のレシピにはありません)を一人12枚程度入れてみると、良い香りが加わり、よりさっぱりした風味になりました。バジルの好きな方はお試しください。
 この原稿を仕上げる頃、「和食、ユネスコ無形文化遺産登録決定」のニュースが入りました。1汁3菜、あるいは1汁2菜の、主菜となる、ご飯によく合うおかずと思います。バルサミコ酢というイタリア料理の調味料を、和食の代表的な調味料である醤油と合わせることで、健康的な和食が広がるなら、レシピを公開するのは意味あることだろうと存じます。

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★ブリのバルサミコ風味、照り焼き

材料(4人分)

・ブリ(切り身)4切れ 400g程度
・たれ(バルサミコ酢大さじ2、しょうゆ大さじ2、はちみつ大さじ1
    バルサミコ酢の代わりに、黒酢にしてもよいと元のレシピにある。
・サラダ油 小さじ12(特殊加工したフライパンの場合、少な目で、小さじ1程度)
・バジルの葉(あれば生の葉、乾燥品でもOK、なくても十分美味)数枚
・長ネギの白い部分4cm程度(白髪ねぎ用なので、なくてもよい)

作り方

1.たれの材料を混ぜ合わせる。ブリの水けをふき、たれに約10分、時々返しながら、ブリの
  どの部分にも味が染みるようにつける。

2.白髪ねぎを作る。長ネギの白い部分45cmの長さに切り、縦に包丁を入れて開き、
  真ん中の芯を除く。広げて、端から細く、繊維に平行に切る。冷水にさらす。(冷水の中に
  入れておく。)包丁は、切れ味の良いものを使うと切りやすい。

3.フライパンに油小さじ1程度を中火で温める。特殊加工のフライパンの場合は、油を入れ過ぎ
  ないように注意する。ブリの汁気をふき、表を下にして入れる。ふたをして3分焼いたら裏返し、
  さらに3分焼いて、いったん取り出す。魚が崩れやすいので、大きめのフライ返し等で慎重に扱う。
  なお、換気扇は強にする。

4.フライパンの汚れをふき、残ったたれとブリを入れる。ブリにたれをスプーンでかけながら、
  照りよく仕上げる。仕上げの少し前にバジルの葉を入れる。皿に盛る。好みで、白髪ねぎを
  乗せて飾る。

注意事項
・ブリが厚い場合、1切れしか料理しない場合、ブリに対するフライパンの面積が広い場合は、加熱時間を長くするように調節してください。蒸発量は、4人分でも1人分でもほとんど変わらないので、上記のレシピを単純に1/4 にすると蒸発が早く、周囲が焦げて、中は煮えない場合があります。そういう場合は、火加減を強くしないように特に注意し、作り方4.で「残ったたれに少量の水を足す」といったことをしてください。

■引用文献等
日本経済新聞2012317日朝刊 「かんたん美味 ブリのソテー バルサミコ風味」(ベターホームのお料理教室)
社団法人 全国調理師養成施設協会編「改定 調理用語辞典」調理栄養教育公社(平成10年)

■主な参考文献等
久保田紀久枝・森光康次郎編「スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学―食品成分と機能性―第2版 補訂」
   東京化学同人(2011

浅田峰子「はじめての台所」素敵ブックス〇マイライフシリーズ特集版  グラフ社(昭和63年)
社団法人 全国調理師養成施設協会編 荒川信彦・唯是康彦監修「オールフォト食材図鑑」(平成8年)
日本経済新聞2013111日朝刊 「春秋」
朝日新聞20131112日朝刊 「なにが問題?食材偽装 法律に照らしてみると」
                     「法整備や業界指針を 消費者は流されずに」

朝日新聞20131113日朝刊 コラムニスト ブルボン小林 寄稿「言葉も食べている」<「ホテル菜園」「自家製」料理
    に貼り付いた言語 それは人間の欲や期待>「意識すれば いつかしみじみ」
日本経済新聞20131113日朝刊 「春秋」
朝日新聞20131114日朝刊 「パサパサ肉 1分で霜降り」<200の針で■「おいしくする技術」に誇り>
    「80年代から開発 BSE後広が
る」<「注入」明記、人気落ちず バークジャパン>
日本経済新聞20131117日朝刊 「食のブランド信仰、圧力に? 虚偽表示相次ぐ老舗・大手」
    <消費者の「期待」低下恐れる>
朝日新聞20131119日朝刊 「ライオンでも誤表示」「69店、メニューと違う食材」
日本経済新聞20131120日朝刊 「野菜に産地証明求める」「虚偽表示問題受け 外食など卸に」
日本経済新聞20131120日夕刊 田中貴子(国文学者)「プロムナード」 「がんもどき」
朝日新聞20131121日朝刊 ニュースQ3「偽装で注目の芝エビ 本物はぷりぷりしゃなかった」
    「流通少なく地産地消中心」「バナメイはエビチリ最適」<芝の魅力は「しっとり感」>

朝日新聞20131122日朝刊 「食材偽装で措置命令へ」「消費者庁 阪急阪神ホテルズなど」
朝日新聞20131126日朝刊 岩村暢子「食と家族」研究家「日常から遠ざかる和食」
    「無形文化遺産登録と食材偽装」「舌でなく、頭で選ぶ時代
に」
朝日新聞20131128日朝刊 社説余滴 稲垣えみ子<「客力」を身につけるには>
朝日新聞20131128日朝刊 論題時評 オピニオン 高橋源一郎<「考えないこと」こそ罪>
朝日新聞20131129日朝刊 <「どうせバレない」甘い認識>「食品偽装 主要ホテルの4割」
    「競争やコスト・・・罪悪感まひ」<「芝エビ」
表示は処分対象>「識者、消費者にも注文 ブランドにだまされるな
    食への意識の低さ、問題」

朝日新聞2013121日朝刊 「結着剤使いローストビーフ」「食品衛生法違反 3百貨店、3800個通販」
朝日新聞2013121日朝刊 社説<「道徳」教育 教科化にこだわるな>
朝日新聞2013122日朝刊 横田哲治(食の安全を考えるネットワーク理事長)「私の視点」
    「偽装表示 食材の違い 見分ける力を」

日本経済新聞2013123朝刊 「迫真 偽装ドミノ2」「伊勢エビとイセエビ」
日本経済新聞2013124日朝刊 「迫真 偽装ドミノ3」「一筆書いてください」
朝日新聞2013124日朝刊 「加工肉メニュー 表示法は店次第」「やわらか加工■工場にて下ごしらえ
    ■味と大きさを整える為の成型・加工」
消費者庁の見解、浸透せず」
日本経済新聞2013125日朝刊 「迫真 偽装ドミノ4」「正確過ぎるメニュー」
朝日新聞2013125日朝刊 <「和食」登録決定>「ユネスコ無形文化遺産 国内22件目」