この文章が公開される頃まで猛暑が続き、東京〜静岡県あたりは、雨が少なそうですね。公園や大学構内の低木が枯れかかっているのを見るにつけ、雨降りを願います。
8月号に書きましたように、米国のひどい干ばつによる不作の上に、ロシアやウクライナも天候不順で、今年は世界的に穀物生産量が減少するそうです。参考文献等(HP版だけにあります)に載せましたように、日経では8月中、不作関連の記事がたくさん出ましたし、朝日でも記事になりました。
騒ぎ過ぎず冷静に、ことの本質をとらえましょう
このような事態に備えて、先進国では各国、穀物の備蓄をしていますし、米国のトウモロコシの在庫が17年振りの低い水準になる見込みとはいえ、「ゼロ」ではないし、ブラジルは豊作でしたから、先進国の人が飢えたりはしません。もちろん、食料の価格が上がり、家計が苦しくはなるでしょう。また、高くては売れない傾向があり、値上げをしにくいとなると、生産者や流通業者が利益を圧縮し、苦しい思いをしそうです。そうなると、連動して経済が回りにくくなるでしょう。
一番大変なのは、途上国の貧しい人たちです。穀物相場が上がると、買えなくなるのです。
そこで思い出すのは、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」2011年5月24日の定例会で拝聴した、川島博之先生(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)のお話です。「アフリカの人が皆、飢えているわけではない。政治的に虐げられている、つまり、いじめられている人が飢えている。」ということでした。
ロンドンオリンピックでアフリカ勢の強さに圧倒されたことを思い出せば、頷けます。アフリカにも豊かな人たちがいることは、統計を見なくても想像できます。「食料は人口に対して本当は十分あるけれど、配分がうまくいかない。」ということです。学校の教科で言えば、理科ではなく、主に社会科の問題ですね。
不作による「半世紀ぶり」と表現される場合もあるような穀物の在庫の少なさは、投機を招き、需給の実態以上に穀物高になりやすいです。「自由」の代償が弱い立場の人に行くことを、辛く感じます。
このように考えると、遺伝子組換え技術を含め、様々な技術を使い、干ばつに強い品種を創ることも大事と私は思います。不作が減れば、それだけ食料の価格が安定し、弱い立場の人にも食料が行き渡りやすいからです。言い換えると、本来、社会科の問題ではあるけれど、現実的には解決が難しいので、理科の力である程度解決するというわけです。
今年8月9日、私は日本モンサント社が行う「遺伝子組み換え作物見学会」に参加し、「モンサント社が開発する乾燥耐性トウモロコシは、今のところ2013年から商品化される見通し。今年の栽培への商品化は間に合わなかった。」と伺いました。ですから、近い将来は干ばつの対策が進みそうです。なお、他社の様子は調べられず、すみません。
日本としては、米国以外の国・地域、複数から穀物を安定的に輸入するようにしておくことも、必要ですね。ある程度は、商社などが進めている様子です。
個人の立場としては、トウモロコシを飼料とする獣鳥肉を食べ過ぎていないか、健康を考えて魚や大豆製品も食べているか、コーンスターチから作る甘味料入りの清涼飲料水を飲み過ぎていないか、油をとり過ぎていないか、パンや麺ばかり食べていて、ご飯が少な過ぎないか、食生活について再考してはいかがでしょう?
「遺伝子組換え」をはじめとする新技術を、時間を作って学びましょう
「自然が一番。遺伝子を組み換えるなんて、自然に反していて気味が悪い。」
「遺伝子組換えなど、環境に悪影響を与えかねない。」「安全性が高いと言っても、現在の科学の水準でそうなだけ。将来、問題が出たら、どうするの?だから昔からの作物が安全。」などと主張する人やグループがあります。
しかし、小島正美氏が「こうしてニュースは造られる」で書いているように、1996年に組換え作物が商業栽培されて、15年以上たちますが、家畜に問題が起きていませんし、油といった形に加工された食品を食べ続ける人間にも、健康被害は起きていない、という事実があります。
害虫抵抗性のある遺伝子組換え作物では、殺虫剤をまく必要がなくなり、環境に良い場合もあります。また、除草剤耐性作物は雑草防除のために耕す必要がなく、不耕起栽培となり、肥沃な表土の流出を抑えられ、環境に良いと考えられます。(「オトナの食育資料編15回(通巻62回)2011年6月号」参照)
「何が入っているか分からない天然物より、きちんと内容物が分かる人工物の方が安全」と専門家は考えるし、従来の掛け合わせの手法を使って品種改良した野菜は、昔食べていたものとは異なるので、食経験が短いことは、「オトナの食育所感編36回(通巻68回)2011年12月号」に書きました。
新技術や農業の実態を知ろうとせず、多面的・総合的に考えていないことに気付かないまま、「昔ながらの方法が良い」と安易に「予防原則」という言葉を楯に、「遺伝子組換え」をはじめとする新技術を必要以上に敵視し、メリットや安全性の対策について耳を貸さない、などということがないように願います。
そうでないと、意図しないのに結果として、弱い者へしわ寄せが行くことがあるからです。また、今後の日本にとってマイナスな面が考えられるからです。(「オトナの食育 所感編37回(通巻69回)2012年1月号」参照)
ところで、8月20日、銀座中央通りで行われた、ロンドン5輪のメダリスト凱旋パレードは、月曜日であったのに、約50万人の人出だったそうです。朝日新聞8月21日朝刊 14版33ページ東京・東部版によれば、静岡県長泉町(私の実家のあった場所近く)から77歳の女性が2時間かけていらしたそうです。
そういう元気も時間も旅費も出せる人が、たくさんいることを考えると、自分たちの食べる食品について、その気になれば、学ぶのは可能なはずです。メダリストから「パワーをもらった」ら、現在と将来の自分や社会に還元できる「知る・学ぶ」という活動を始めませんか?
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