オトナの食育 所感編 第45回(通巻77回)2012/9/10号掲載 千葉悦子(高28)

干ばつなどによる不作の影響と、その対策
 

 


 この文章が公開される頃まで猛暑が続き、東京〜静岡県あたりは、雨が少なそうですね。公園や大学構内の低木が枯れかかっているのを見るにつけ、雨降りを願います。
 8月号に書きましたように、米国のひどい干ばつによる不作の上に、ロシアやウクライナも天候不順で、今年は世界的に穀物生産量が減少するそうです。参考文献等(HP版だけにあります)に載せましたように、日経では8月中、不作関連の記事がたくさん出ましたし、朝日でも記事になりました。

騒ぎ過ぎず冷静に、ことの本質をとらえましょう
 このような事態に備えて、先進国では各国、穀物の備蓄をしていますし、米国のトウモロコシの在庫が17年振りの低い水準になる見込みとはいえ、「ゼロ」ではないし、ブラジルは豊作でしたから、先進国の人が飢えたりはしません。もちろん、食料の価格が上がり、家計が苦しくはなるでしょう。また、高くては売れない傾向があり、値上げをしにくいとなると、生産者や流通業者が利益を圧縮し、苦しい思いをしそうです。そうなると、連動して経済が回りにくくなるでしょう。
 一番大変なのは、途上国の貧しい人たちです。穀物相場が上がると、買えなくなるのです。
 そこで思い出すのは、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」2011524日の定例会で拝聴した、川島博之先生(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)のお話です。「アフリカの人が皆、飢えているわけではない。政治的に虐げられている、つまり、いじめられている人が飢えている。」ということでした。
 ロンドンオリンピックでアフリカ勢の強さに圧倒されたことを思い出せば、頷けます。アフリカにも豊かな人たちがいることは、統計を見なくても想像できます。「食料は人口に対して本当は十分あるけれど、配分がうまくいかない。」ということです。学校の教科で言えば、理科ではなく、主に社会科の問題ですね。
 不作による「半世紀ぶり」と表現される場合もあるような穀物の在庫の少なさは、投機を招き、需給の実態以上に穀物高になりやすいです。「自由」の代償が弱い立場の人に行くことを、辛く感じます。
 このように考えると、遺伝子組換え技術を含め、様々な技術を使い、干ばつに強い品種を創ることも大事と私は思います。不作が減れば、それだけ食料の価格が安定し、弱い立場の人にも食料が行き渡りやすいからです。言い換えると、本来、社会科の問題ではあるけれど、現実的には解決が難しいので、理科の力である程度解決するというわけです。
 今年89日、私は日本モンサント社が行う「遺伝子組み換え作物見学会」に参加し、「モンサント社が開発する乾燥耐性トウモロコシは、今のところ2013年から商品化される見通し。今年の栽培への商品化は間に合わなかった。」と伺いました。ですから、近い将来は干ばつの対策が進みそうです。なお、他社の様子は調べられず、すみません。
 日本としては、米国以外の国・地域、複数から穀物を安定的に輸入するようにしておくことも、必要ですね。ある程度は、商社などが進めている様子です。
 個人の立場としては、トウモロコシを飼料とする獣鳥肉を食べ過ぎていないか、健康を考えて魚や大豆製品も食べているか、コーンスターチから作る甘味料入りの清涼飲料水を飲み過ぎていないか、油をとり過ぎていないか、パンや麺ばかり食べていて、ご飯が少な過ぎないか、食生活について再考してはいかがでしょう?

「遺伝子組換え」をはじめとする新技術を、時間を作って学びましょう
 「自然が一番。遺伝子を組み換えるなんて、自然に反していて気味が悪い。」
「遺伝子組換えなど、環境に悪影響を与えかねない。」「安全性が高いと言っても、現在の科学の水準でそうなだけ。将来、問題が出たら、どうするの?だから昔からの作物が安全。」などと主張する人やグループがあります。
 しかし、小島正美氏が「こうしてニュースは造られる」で書いているように、1996年に組換え作物が商業栽培されて、15年以上たちますが、家畜に問題が起きていませんし、油といった形に加工された食品を食べ続ける人間にも、健康被害は起きていない、という事実があります。
 
害虫抵抗性のある遺伝子組換え作物では、殺虫剤をまく必要がなくなり、環境に良い場合もあります。また、除草剤耐性作物は雑草防除のために耕す必要がなく、不耕起栽培となり、肥沃な表土の流出を抑えられ、環境に良いと考えられます。(「オトナの食育資料編15回(通巻62回)20116月号」参照)
 「何が入っているか分からない天然物より、きちんと内容物が分かる人工物の方が安全」と専門家は考えるし、従来の掛け合わせの手法を使って品種改良した野菜は、昔食べていたものとは異なるので、食経験が短いことは、「オトナの食育所感編36回(通巻68回)201112月号」に書きました。
 新技術や農業の実態を知ろうとせず、多面的・総合的に考えていないことに気付かないまま、「昔ながらの方法が良い」と安易に「予防原則」という言葉を楯に、「遺伝子組換え」をはじめとする新技術を必要以上に敵視し、メリットや安全性の対策について耳を貸さない、などということがないように願います。
 そうでないと、意図しないのに結果として、弱い者へしわ寄せが行くことがあるからです。また、今後の日本にとってマイナスな面が考えられるからです。(「オトナの食育 所感編37回(通巻69回)20121月号」参照)
 ところで、820日、銀座中央通りで行われた、ロンドン5輪のメダリスト凱旋パレードは、月曜日であったのに、約50万人の人出だったそうです。朝日新聞821日朝刊 1433ページ東京・東部版によれば、静岡県長泉町(私の実家のあった場所近く)から77歳の女性が2時間かけていらしたそうです。
  そういう元気も時間も旅費も出せる人が、たくさんいることを考えると、自分たちの食べる食品について、その気になれば、学ぶのは可能なはずです。メダリストから「パワーをもらった」ら、現在と将来の自分や社会に還元できる「知る・学ぶ」という活動を始めませんか?

    

photos.by Y.M(千葉の知人)
 遺伝子組換えでないトウモロコシは、遠目には問題ないように見えますが、近くでよく見ると、葉に虫食いの穴があり、虫が付いたような跡がある茎を切ると、シャーレにいる虫が取りだせました。「アワノメイガ」といった虫が、アメリカでも日本でも、どこでも害虫抵抗性でないトウモロコシにはつくそうです。
 それに対して、害虫抵抗性の遺伝子組換えのトウモロコシは虫が付かず、きれいでした。

 

■参考文献等
川島博之<「食料危機」をあおってはいけない>文藝春秋(2009
小島正美<誤解だらけの「危ない話」食品添加物・遺伝子組み換え・BSEから電磁波まで>
  エネルギーフォーラム(2008
小島正美「こうしてニュースは造られる」情報を読み解く力 エネルギーフォーラム(2010
菊地誠・松永和紀・伊勢田哲治・平川秀幸・飯田泰之+SYNODOS編 
  「もうダマされないための「科学」講義」光文社新書(2011) 
日本経済新聞2012524日朝刊「社説」<食糧権益増やし「攻めの農業」に転換を>
日本経済新聞201283日朝刊「「ロシア干ばつ、穀物急騰」「年産1520%減」「輸出規制の可能性」
  「政権への不満、強まる懸念」
日本経済新聞201284日夕刊「農作物 温暖化で異変」「キウイの産地北へ リンゴの収量減」
 「対応品種 開発に熱」「大豆の収穫量最大8割減る」「世界の主産地、60年後 温暖化の影響
  農業環境研試算」
日本経済新聞201286日朝刊「「ニッキイの大疑問」「穀物高騰、食卓に影響は?」「米国など不作、
  一部で製品値上げ」
日本経済新聞201286日夕刊「「米、干ばつ対策133億円」「畜産家から肉買い上げ」
日本経済新聞2012810日夕刊「トウモロコシ最高値」「シカゴ市場 米干ばつ、大豆も高騰」
  「エタノール生産 米に停止求める」<国連「トウモロコシ、食料に」
日本経済新聞2012810日夕刊「食料自給率 横ばい39% 昨年度」
日本経済新聞2012811日朝刊「穀物高、食料価格に波及」「76%上昇 干ばつ影響続く恐れ」
  「G20、輸出制限防止を要請へ」
日本経済新聞2012811日朝刊「トウモロコシ生産 米、6年ぶり低水準に」
日本経済新聞2012817日朝刊「穀物高、じわり食卓圧迫」「食用油 値上げ浸透」
  「米の干ばつ・ロシアの不作波及」 「小麦粉も上昇」「企業、自衛に動く」「マヨネーズ、油減らす」
  「居酒屋はメニュー見直し」
日本経済新聞2012818日朝刊「穀物輸入 価格変動を回避」
  「伊藤忠 アフリカに調達網」「丸紅など、南米産増やす」
日本経済新聞2012820日夕刊「トウモロコシ 食料か 燃料か」
  「米干ばつで高騰」「エタノール使用に批判」
朝日新聞2012820日朝刊 「福島モモ 復活の実り」「除染を徹底・価格回復の兆し」
朝日新聞2012821日朝刊 1433ページ東京・東部「銀座に50万人 メダリスト祝福」
朝日新聞2012822日朝刊 「遺伝子操作 消える痕跡」「新技術、作物で研究>
  「人・生態系への影響、議論」
日本経済新聞2012822日朝刊「真相 深層」「技術革新 豊作の過信」「穀物高騰 米政府に
  予測ミス」  「机上の推測、 変化見逃す」
日本経済新聞2012822日朝刊「間伐対策 閣僚級会合」「世界気象機関、来年3月に」
日本経済新聞2012822日朝刊「バター・チーズ10月から値上げ」「雪印メグミルク、原料高で」
朝日新聞2012823日朝刊 「天声人語」
朝日新聞2012823日朝刊 「輸入小麦3%値上げ」「10月から穀物相場が高騰」
日本経済新聞2012823日朝刊「輸入小麦3%値上げ」「農水省、10月から 製粉会社向け」
日本経済新聞2012823日朝刊「パーム油、内外で軟調」
日本経済新聞2012823日朝刊「カカオ豆が1割高」「6月初め比 天候不順が影響」
朝日新聞2012825日朝刊 「砂糖・コーヒー豆 下落」「国際価格 23ヵ月ぶり安値」
朝日新聞2012825日夕刊 「ソバ産地、ロシアで開拓」「大規模農業に進出」
日本経済新聞2012825日夕刊「福島産米 安全性PR」「早場米の全袋検査開始 基準値超えず」
日本経済新聞2012826日朝刊 福田慎一「経済論代から」「極なき世界、協調と自立探れ」
  「競争力の強化急務」
日本経済新聞2012827日朝刊 「資源 変わる輸入地図上」「長年の調達網 もろさ露呈」
日本経済新聞2012827日朝刊 ゲーリー・ブルメンタール氏(ワールド・パースペクティブズCEO
  「干ばつ対策、途上国に投資を」
日本経済新聞2012827日朝刊 「利害超え危機対応を」
日本経済新聞2012828日朝刊 「トウモロコシ、ブラジル産に割安感」「豊作で米国産の1割安」
  「日本、買い付け増やす」日本経済新聞2012829日朝刊 「米、エタノール減産の動き」
  「原料のトウモロコシ急騰」「ガソリン価格に波及」

日本経済新聞2012830日朝刊 「コメへの影響は限定的」「トウモロコシや大豆の高騰」
  「アジア価格、代替需要増えず」日本経済新聞2012831日朝刊 「トウモロコシ ブラジル産、
  輸送遅れ」「米国の代替需要集中で」
日本経済新聞2012831日朝刊 「ブラジル産鶏肉が反落」「79月の対日価格 4%程度安く」
日本経済新聞2012831日朝刊 「姿消すバター特売」「食用油も値上がり傾向」
  「穀物高、食卓にじわり影」
日本経済新聞201291日朝刊 「食用油、値上げの公算 大豆の国際価格高騰受け 今年3回目」
日本経済新聞201293日夕刊「トウモロコシ汚染懸念」「米でカビ毒 主産地で牛乳検査」
日本経済新聞201294日朝刊 「トウモロコシの使用減」「飼料向け原料 小麦への転換進む」
平成24 年813日大臣官房食料安全保障課 米国農務省穀物等需給報告 (2012810日発表
  のポイント)
 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_usda/pdf/usda_1208.pdf#search
  ='
米農務省%20810日発表%20需給報告'
白井洋一「食料自給率カロリーベースで39% 生産額ベースだと66%だが」(2012815日)
 FOOCOM.NET http://www.foocom.net/column/shirai/7488/
池田二三高「行きずりのアブラムシ ウイルスの運び屋が隠れている」 (2012825日)
 FOOCOM.NET  http://www.foocom.net/column/pest/7536/
白井洋一「これからどうする日本の遺伝子組換え作物開発」(2012829日)
 FOOCOM.NET  http://www.foocom.net/column/shirai/7581/
オトナの食育 資料編 15回(通巻62回)20116月号

  DVD1600万トンのトウモロコシはなぜ、海を渡るのか」
  パンフレット「1600万トンのトウモロコシはなぜ、海を渡ったのか」アメリカ穀物協会 
オトナの食育 所感編36回(通巻68回)201112月号
   食物アレルギー・・・せっけんや化粧品で抗体が出来ることも―天然・自然信仰を見直そう―
オトナの食育 所感編37回(通巻69回)20121月号
   科学的な考え方を広める年に その1
  〜ゼロリスクを求めず、リスクのトレードオフや無駄をなくしましょう〜