オトナの食育 所感編 第35回(通巻66回)2011/10/10号掲載 千葉悦子(高28)
レインボーパパイヤ(遺伝子組換え)セミナー&レセプションに参加して
作物の歴史や背景を知り、立場を変えて考える


 
 今年9月7日、米国大使公邸で開かれた、遺伝子組換え作物の1つであるレインボーパパイヤのセミナーとレセプションに参りました。
 ハワイ産パパイヤの日本への輸入量は少なく、食生活全体や貿易全体から見れば、ささいなことかもしれませんが、日本が遺伝子組換えの果物を初めて受け入れるという意味では、大きなニュースと考えられるので、今月はこれについて書きます。

米国大使館周辺の警備にビックリ
 溜池山王駅から歩いて大使館正門近くまで行くと、警備が厳しくて別世界!その辺りから敷地の反対側にある大使公邸正門まで、大使館側の歩道は通れないように、非常に屈強そうな警官が短い間隔で警備していました。
 それで、慣れない草履と着物という恰好で大周りし、しかも坂道を上って、やっと門に着き、招待状とパスポート(運転免許証を持っていない)を提示して、きちんと刈り込んだ木々に囲まれ、掃き清められた通路をしばらく歩き、趣のある大使公邸に到着しました。

「遺伝子組換えの技術を必要とする場合がある」ことを知りましょう
 遺伝子組換えについて抱きがちな疑問の一つは「なぜ、遺伝子組換え技術がいるのか?これまで、なくても食生活は十分だったのに。」です。今回、レインボーパパイヤの開発者であるデニス・ゴンザルベス博士のお話を伺い、よく理解できました。
 昔はなかったリングスポットウイルスによるウイルス病にパパイヤがかかるようになり、ハワイの島々に蔓延して、果実が熟さなくなりました。遺伝子組換え以外の様々な方法では、そのウイルスに対抗出来ませんでした。
 そこで、1980年代半ば頃から遺伝子組換えによる研究をスタートし、1990年代にウイルス抵抗性のあるパパイヤを開発し、アメリカFDAの安全性審査を経て、商業栽培されるようになりました。博士の見せてくだったスライドの非遺伝子組換えと遺伝子組換えパパイヤ、両方の畑が写っている写真は、違いが一目瞭然で、非遺伝子組換えは葉が極度に少なく、遺伝子組換えは葉がよく茂って、緑色の部分が豊富でした。

生産者の立場を想像し、「消費者の責任」も考え合わせてみる
 「輸入果実を食べなくてもいいのではないか?」と考える人もいるでしょうが、いったん、ハワイのパパイヤ生産者の立場で考えることも必要です。ウイルスが蔓延する前の、日本のパパイヤ輸入量に比べ、最近は非常に減少し、生産者は困っています。しかも、博士のお話によると、ハワイのパパイヤ生産者の多くは、フィリピンなどから来た貧しい人たちということです。国際消費者機構がうたう「消費者の5つの責任」の1つに「社会的弱者への配慮をする責任」があることを考え合わせると、FDAや日本の食品安全委員会などが安全性を確認しているのに、拒否するのはどうかと思います。
 さらに立場を変えて、日本のりんごや温州ミカンなどを外国に売りたいことを考え合わせると、ハワイの生産者が輸出したいのも理解できます。しかも、貿易を促進することは、世界の大きな流れで、常識になっているようです。それに正当な理由なく逆らうのは、他国の人々の気持ちを逆なでし、日本にとって不利になりそうです。それは、日本の安全な製品を、原発の問題以降「何となく不安なので輸入したくない」と海外から拒否されて、ムッとするのと同じです。
 国産、地元の食品を基本にしつつ、柔軟に対応して、嗜好に合えば、各種ビタミンやミネラル(無機質)が豊富な輸入果物も食べることもあるというのが、一般的に健康的で、外国ともうまくやって行く方法と思います。

レインボーパパイヤの味
・生で食べる場合
 私は、今回のセミナー・レセプションに参加するまで、パパイヤをほとんど食べたことがなく、味を思い出せないほどでした。「もしも病み付きになるほどおいしかったら、日本の果物が食べられなくなってしまうのではないか?」と、心配でなりませんでしたが、杞憂でした。
 果物らしい十分良い香りで、美しくみずみずしい、びわのような色ではありますが、少なくとも今回試食したパパイヤは、さっぱりしていて、おいし過ぎて虜になるほどではなかったです。親戚などから頂くことがある、新鮮でよく熟した山形や信州のふじや、静岡の青島みかんや、山梨の桃や巨峰や甲斐路などのぶどうを凌駕するほどではなく、日本人の1人として胸をなでおろしました。
 ただし「食べ慣れる」と、かなり美味かもしれません。たとえば、私が無脂肪のヨーグルトに変えたばかりの頃は「おいしくない」と感じたのですが、慣れると十分おいしく思えるようになり、大地震後、脂肪のあるものしかなくて、それを食べたら「重い」と否定的に感じるほどでした。
 パパイヤはさっぱりした味なので、現地の人にとっては飽きない日常食となるのでしょうし、こってりしたご馳走の後のデザートにうってつけかもしれません。
・加熱料理する場合
 他の食材と組み合わせて、ソースやマーマレードにする方法もあります。このレセプションではサム・チョイ、シェフによる「ハワイアン・バーベキュー・シュリンプ・サラダ、パパイヤとパイナップルマーマレード添え」のデモンストレーションがありました。そのマーマレードについて「パパイヤ8に対してパイナップル2の割合」とシェフがニコニコ教えてくださいました。パパイヤの酸味は弱いので、パイナップルで酸味などのパンチを利かすのだろうと理解しました。

パパイヤの栄養
 果物ですから、パパイヤにもビタミン・無機質・食物繊維などが豊富です。
高血圧を予防するカリウムは、バナナより少ないですが、びわ・梨・ぶどう・りんご・温州みかん等より多いです。摂取しにくい緑黄色野菜や柿などに多いカロテンも豊富で、温州みかんより少ないとはいえ、果物としては多い方です。

多様な食品を選べる時代にこそ、食についての教育が重要
 「選択肢が増えるのは豊か」である半面、選び方を間違えると、昔とは違う問題が起きることがあります。和食の良さを忘れ、洋食や中国料理などに傾き、エネルギーや脂質のとり過ぎの結果、生活習慣病になってしまうのは、その最たるものでしょう。また、「遺伝子組換えはとにかく嫌」と感情的になる余り、知る努力を怠れば、安全性は十分高いのに、今回取り上げたパパイヤのように、貧しい生産者を見捨てることになる場合もあります。
 そうならないためには、マーケティングや根拠のないイメージに流されず、科学的根拠に基づき、消費者としての自覚を持って、自分でしっかり考えて生活していけるよう、食についての適切で十分な教育がますます重要であると考えます。
 もちろん科学的な知識を一応持っても、「個人的には好きになれない」場合があるでしょう。しかし「自分自身が選ばないことと、他者が選ぶこと」と「自分は選び、他者が選ばないこと」両方についてある程度、寛容になりたいものです。寛容と冷静がなければ、対話が成立しないため1歩も進まず、むしろ事態は悪くなるばかりです。
 科学的根拠に基づく知識、文化を含む社会の状況、それらに基づいて判断する訓練、他者への寛容、この4つを学校などで教えていく大切さを再認識します。選択肢の少なかった時代に比べて、あまりに複雑なので、家庭教育だけではとてもまかないきれません。家庭科や食育なども、学校等で大切にしてほしいと願います。
 さらに、成人も日進月歩の科学技術に関心を寄せ、より良い選択をして行きたいものです。
      ↓ レインボーパパイヤの開発者であるデニス・ゴンザルベス博士
      
                         ↑パパイヤを使った料理
   パパイヤの箱詰め
                  ハワイアン・バーベキュー・シュリンプ・サラダ、
                  パパイヤとパイナップルマーマレード添え


主な参考文献等
独立行政法人 農業生物資源研究所「分子生物学に支えられた 農業生物資源の利用と将来」
    丸善プラネット(2011)
武田穣編「新訂 バイオテクノロジーと社会」放送大学教育振興会(2009)
倉田忠男・鈴木恵美子・脊山洋右・野口忠・藤原葉子編 スタンダード栄養・食物シリーズ9
    「基礎栄養学 第2版」東京化学同人(2007)
女子栄養大学出版部「食品成分表 改訂最新版」(2011)
(社)日本青果物輸入安全性推進協会ホームページ http://www.fruit-safety.com/rensai/1008.html
松永和紀 FOOCOM.NET「組換えパパイヤの輸入は始まるか?大阪でのシンポジウムご案内」
         http://www.foocom.net/column/editor/4801/
食のコミュニケーション円卓会議 ホームページhttp://food-entaku.org/
朝日新聞2011年9月20日朝刊
 「ヨーグルト 守れ伝統の味 ブルガリア 材料・製法に新基準 甘い西欧製人気■国産振るわず」